異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
アストライア
キアラ追跡に当たって、まずは村人が避難してるという教会までやってきた。
二人と共に中に入り、シスターさんに宿泊用の部屋へと通してもらうと、十数名から一斉に虚ろな視線を浴びせられた。そこに籠るのは悲哀、侮蔑、怨嗟、憤怒、自棄。そういった様々な感情が渦巻いている。どういうわけかは知らないが、俺は王都騒乱の一件以来そう言った負の感情を理解できるようになっていた。たぶん、あの一件は俺にとってそれほど大きな出来事だったんだろう。
「見てわかる通り騎士団だけど、あの時の状況の方を誰か説明してくれないか?」
この物々しい空気に良くも悪くも臆することなくハイリが声を張ると、突如、中年の女の人が狂おしく声をあげた。
「あの時の事を説明しろだって!? 騎士団は血も涙もないのかい!」
「え、いやそういうんじゃ……」
「王都でぬくぬく生きてるあんた達には分からないねあの地獄なんて! ああ……ルルン、ララン……なんで私だけが生きて……! ごめんなさいごめんなさい……」
戸惑った様子のハイリをよそに、一方的に叫ぶと、最後にその女の人は泣き崩れてしまった。
たぶんルルンやラランというのはこの人の子供なんだろう。
「そうだそうだ! 帰れ!」
「あんたらには分からないさ!」
「父ちゃん、母ちゃん!」
「ああ妻よ、戻ってきてくれ!」
一度枷が外れるとそれは一気に放流される。
まさに阿鼻叫喚だった。恐らく石があったら投げられていただろう。
二人を見てみれば、ティミーはおろか、ハイリすらどうすればいいか分からないと言ったようにただただ茫然とこの光景を眺めていた。
「ハイリ、ティミー、いったん出るぞ。今は駄目だ、とても話を聞ける状況じゃない」
それは誰の目から見ても明白。
二人とも素直に頷くと、心なしか逃げるように部屋を後にした。
「ったく、参ったな……」
「ちょっと怖かったね……」
礼拝堂の席に座ると、ハイリがだらしなく椅子の背にもたれかかる。
ティミーもまたあれだけの敵意にさらされた事が無いからだろう、少し疲れた様子だ。
「まぁ、数百人の規模の村であれだけしか生き残ってないんじゃな……」
先ほどの宿泊部屋にいたのは十数人だけ。虐殺の遂行されていた時間は凄まじい恐怖が渦巻いていたことを物語っている。
絶対的強さを誇る存在がある日突然ふらりと現れて村人を一人ずつ殺していく。次々と友人や家族が殺される中、次は自分だと心に抱き続ける恐怖。想像しただけでも寒気がする。ああなるのも無理はないよな。
「にしてもどうするよ、どっちの方角に逃げたとか次どこいきそうだとかそういう情報が欲しかったんだけどなー……なんの情報も無いのはかなり厳しいぜ?」
「少しは手掛かりがほしいよね」
ティミーとハイリの言う通り、もしまったくの情報無しで追跡しろと言われたらかなり厳しい。だけど、
「そこはなんとかなる。たぶんあの人達も話してくれるようになるよ」
「おいおいアキ何言ってんだ? あんな状態でどうやって……」
「一応方法はある。だからこれに関しては俺にまかせてくれていい」
言うと、少し浮かない表情をするハイリだったが、小さく一息つくとやがて軽く笑みを浮かべる。
「……まぁ俺もお手上げだったし、ここはアキにかけるかー。頼んだぜ?」
「おう」
「と言うわけで、俺は暇になったからしばらく散歩、いやいや、見廻りにでも……」
「おい待てハイリ」
服の襟を掴みこの場を離れようとするハイリを止める。わざわざサボると宣言した奴を生かせるわけが無い。
「えー、やる事ないしいいじゃねーかー!」
「まだあるだろうが。とりあえず現地調査だ。いくら俺に考えがあってもあの状態の村人から話を聞けるわけないだろ?」
「ちぇー……ちょっとくらい休ませてくれてもいいじゃねぇか。なぁティミー?」
「あはは……」
肩に手を回されるティミーもこれには苦笑いだ。
なおも言い募るハイリを半ば強引に連れていくと、事件現場であるトクビッテ村へと馬を走らせた。
♢ ♢ ♢
「こりゃひでぇな……」
ハイリが軽く顔をしかめて呟く。
確かに村の惨状は酷かった。
家屋は壊れ、所々に血の跡がこびりつき、辺りは鉄錆びにも似た妙な臭いが立ち込めている。
大きめの規模な村だけに壊れているのはどれも木造建築であり、ゴーストタウンのような不気味な場所だった。死体が片づけられてるのが唯一の救いだ。たぶん教会の人たちがやってくれたんだろう。
しばらく歩くと、一層不快な臭いを強くさせた場所に来た。ここはどうやら村の集会所だった所らしい。
「ここだな」
魔術を扱えばその時に使用した魔力は大地に染みつき、その者が存在した証明となる。
現地調査の目的は残留魔力の確認だ。まぁ、俺の世界で言うならDNA検査ってところか。たぶんここで村人を殺すなら魔術は使っていただろう。
「解析」
唱えると、地面から紫の光球が浮かび上がり、様々な質の魔力が俺の中を通り過ぎると、身体中が軽くトゲに刺さったような感覚に見舞われる。悲哀や憎悪の籠った闇魔力だった。
人は死んだときに魔力の性質を光魔力から闇魔力に変え放出するという。魔力とは人の感情によってその性質を光に近くしたり、闇に近くしたりする。普段、人間が扱っているの光魔力だが、どうしようもない憎しみに駆られたり、どうしようもなく絶望した人間の魔力の性質は限りなく闇に近くなるらしい。そして死こそ最大の絶望と言うわけだ。
ちなみに、もし仮に生きたまま闇魔力に近しい状態が長い間続いたのなら人は魔物へと姿を変えるだろうと仮定されている。純正の闇魔力の持ち主が魔物だからだ。もっとも、これについては前例がないのであくまで仮定にしかすぎない。今の所その状態に陥る前に人は死ぬと言うのが通説。
これは最近の魔術研究所の発表だ。あの一件で魔術研究所の研究員の多くは死を遂げていた。魔物放出は研究員の過失ではなくシノビによる襲撃でその時に殺されたとみられている。現在、研究所は当時アルドやアリシアのように出張などで王都の研究所にいなかった人間を中心に機能している。
またその事がまた騎士団の規模が縮小した要因でもあった。何せ警備は騎士団の担当だ。シノビの侵入を許し街に魔物を放出。擁護してくれる人もいたが、大きく批判する人も少なくなかった。一年経った今ではようやく落ち着いたものの、未だ不信感をぬぐいきれてないのも村人たちにあんな反応させたんだろう。
色々な事を頭に巡らせつつも静かに魔力の一つ一つを感じていると、その中に見つけてしまった。
「なぁティミー……荷物に槍、あっただろ? もってきてくれるか?」
「分かった」
しばらく黙って待っていると、やがてティミーが黄金色の槍を持ってきて俺に渡してくれる。
「解析」
唱えると、今度は白い光球が宙を漂った。
この槍はキアラの愛用していた槍だ。当然長く使われていたそれには持ち主の魔力がべっとりと付いている。
やがて光球が消え去ると、槍をそっと地面に置く。
「一致だ」
「そんな……」
俺の言葉にティミーが悲し気に呟く。
たぶんそうだろうと思っていたけど、いざ目の当たりにするとやっぱりくるな……。それはたぶんティミーも同じなんだろう。
「まぁなんだ、助けるんだろ?」
ふと、ハイリが口を開くと、俯き加減のティミーの目線がそちらへと向いた。それは俺も同様だ。
「この事件はお前の友達が起こしたのか? 違うだろ。アキは確かにこう言った、あいつがそんな事するはずが無い、何かに操られているだけだ。一体何に操られてるのかは俺には分からねぇよ、でもアキがそこまで言うんなら確かにキアラ・アストンは自らの意思でこんな事をしてるんじゃないんだろう。だからそれを助ける。そのためにお前は、お前らはこの任務を受けたんだろ? だからくよくよしてんじゃねぇよ」
ハイリの言葉に脳内が揺さぶられる。そうだよな。ハイリの言う通りだ。ここで立ち止まってなんかいられない。俺はあいつを救うために今こうしているんだ。
ティミーの顔も軽く綻ぶのが見えた。
「まったく、まだまだお前にはかなわないよハイリ」
「だね。ありがとう、ハイリ」
俺とティミーが口々に言うと、ハイリはニッと天真爛漫な笑みを返してくれた。
二人と共に中に入り、シスターさんに宿泊用の部屋へと通してもらうと、十数名から一斉に虚ろな視線を浴びせられた。そこに籠るのは悲哀、侮蔑、怨嗟、憤怒、自棄。そういった様々な感情が渦巻いている。どういうわけかは知らないが、俺は王都騒乱の一件以来そう言った負の感情を理解できるようになっていた。たぶん、あの一件は俺にとってそれほど大きな出来事だったんだろう。
「見てわかる通り騎士団だけど、あの時の状況の方を誰か説明してくれないか?」
この物々しい空気に良くも悪くも臆することなくハイリが声を張ると、突如、中年の女の人が狂おしく声をあげた。
「あの時の事を説明しろだって!? 騎士団は血も涙もないのかい!」
「え、いやそういうんじゃ……」
「王都でぬくぬく生きてるあんた達には分からないねあの地獄なんて! ああ……ルルン、ララン……なんで私だけが生きて……! ごめんなさいごめんなさい……」
戸惑った様子のハイリをよそに、一方的に叫ぶと、最後にその女の人は泣き崩れてしまった。
たぶんルルンやラランというのはこの人の子供なんだろう。
「そうだそうだ! 帰れ!」
「あんたらには分からないさ!」
「父ちゃん、母ちゃん!」
「ああ妻よ、戻ってきてくれ!」
一度枷が外れるとそれは一気に放流される。
まさに阿鼻叫喚だった。恐らく石があったら投げられていただろう。
二人を見てみれば、ティミーはおろか、ハイリすらどうすればいいか分からないと言ったようにただただ茫然とこの光景を眺めていた。
「ハイリ、ティミー、いったん出るぞ。今は駄目だ、とても話を聞ける状況じゃない」
それは誰の目から見ても明白。
二人とも素直に頷くと、心なしか逃げるように部屋を後にした。
「ったく、参ったな……」
「ちょっと怖かったね……」
礼拝堂の席に座ると、ハイリがだらしなく椅子の背にもたれかかる。
ティミーもまたあれだけの敵意にさらされた事が無いからだろう、少し疲れた様子だ。
「まぁ、数百人の規模の村であれだけしか生き残ってないんじゃな……」
先ほどの宿泊部屋にいたのは十数人だけ。虐殺の遂行されていた時間は凄まじい恐怖が渦巻いていたことを物語っている。
絶対的強さを誇る存在がある日突然ふらりと現れて村人を一人ずつ殺していく。次々と友人や家族が殺される中、次は自分だと心に抱き続ける恐怖。想像しただけでも寒気がする。ああなるのも無理はないよな。
「にしてもどうするよ、どっちの方角に逃げたとか次どこいきそうだとかそういう情報が欲しかったんだけどなー……なんの情報も無いのはかなり厳しいぜ?」
「少しは手掛かりがほしいよね」
ティミーとハイリの言う通り、もしまったくの情報無しで追跡しろと言われたらかなり厳しい。だけど、
「そこはなんとかなる。たぶんあの人達も話してくれるようになるよ」
「おいおいアキ何言ってんだ? あんな状態でどうやって……」
「一応方法はある。だからこれに関しては俺にまかせてくれていい」
言うと、少し浮かない表情をするハイリだったが、小さく一息つくとやがて軽く笑みを浮かべる。
「……まぁ俺もお手上げだったし、ここはアキにかけるかー。頼んだぜ?」
「おう」
「と言うわけで、俺は暇になったからしばらく散歩、いやいや、見廻りにでも……」
「おい待てハイリ」
服の襟を掴みこの場を離れようとするハイリを止める。わざわざサボると宣言した奴を生かせるわけが無い。
「えー、やる事ないしいいじゃねーかー!」
「まだあるだろうが。とりあえず現地調査だ。いくら俺に考えがあってもあの状態の村人から話を聞けるわけないだろ?」
「ちぇー……ちょっとくらい休ませてくれてもいいじゃねぇか。なぁティミー?」
「あはは……」
肩に手を回されるティミーもこれには苦笑いだ。
なおも言い募るハイリを半ば強引に連れていくと、事件現場であるトクビッテ村へと馬を走らせた。
♢ ♢ ♢
「こりゃひでぇな……」
ハイリが軽く顔をしかめて呟く。
確かに村の惨状は酷かった。
家屋は壊れ、所々に血の跡がこびりつき、辺りは鉄錆びにも似た妙な臭いが立ち込めている。
大きめの規模な村だけに壊れているのはどれも木造建築であり、ゴーストタウンのような不気味な場所だった。死体が片づけられてるのが唯一の救いだ。たぶん教会の人たちがやってくれたんだろう。
しばらく歩くと、一層不快な臭いを強くさせた場所に来た。ここはどうやら村の集会所だった所らしい。
「ここだな」
魔術を扱えばその時に使用した魔力は大地に染みつき、その者が存在した証明となる。
現地調査の目的は残留魔力の確認だ。まぁ、俺の世界で言うならDNA検査ってところか。たぶんここで村人を殺すなら魔術は使っていただろう。
「解析」
唱えると、地面から紫の光球が浮かび上がり、様々な質の魔力が俺の中を通り過ぎると、身体中が軽くトゲに刺さったような感覚に見舞われる。悲哀や憎悪の籠った闇魔力だった。
人は死んだときに魔力の性質を光魔力から闇魔力に変え放出するという。魔力とは人の感情によってその性質を光に近くしたり、闇に近くしたりする。普段、人間が扱っているの光魔力だが、どうしようもない憎しみに駆られたり、どうしようもなく絶望した人間の魔力の性質は限りなく闇に近くなるらしい。そして死こそ最大の絶望と言うわけだ。
ちなみに、もし仮に生きたまま闇魔力に近しい状態が長い間続いたのなら人は魔物へと姿を変えるだろうと仮定されている。純正の闇魔力の持ち主が魔物だからだ。もっとも、これについては前例がないのであくまで仮定にしかすぎない。今の所その状態に陥る前に人は死ぬと言うのが通説。
これは最近の魔術研究所の発表だ。あの一件で魔術研究所の研究員の多くは死を遂げていた。魔物放出は研究員の過失ではなくシノビによる襲撃でその時に殺されたとみられている。現在、研究所は当時アルドやアリシアのように出張などで王都の研究所にいなかった人間を中心に機能している。
またその事がまた騎士団の規模が縮小した要因でもあった。何せ警備は騎士団の担当だ。シノビの侵入を許し街に魔物を放出。擁護してくれる人もいたが、大きく批判する人も少なくなかった。一年経った今ではようやく落ち着いたものの、未だ不信感をぬぐいきれてないのも村人たちにあんな反応させたんだろう。
色々な事を頭に巡らせつつも静かに魔力の一つ一つを感じていると、その中に見つけてしまった。
「なぁティミー……荷物に槍、あっただろ? もってきてくれるか?」
「分かった」
しばらく黙って待っていると、やがてティミーが黄金色の槍を持ってきて俺に渡してくれる。
「解析」
唱えると、今度は白い光球が宙を漂った。
この槍はキアラの愛用していた槍だ。当然長く使われていたそれには持ち主の魔力がべっとりと付いている。
やがて光球が消え去ると、槍をそっと地面に置く。
「一致だ」
「そんな……」
俺の言葉にティミーが悲し気に呟く。
たぶんそうだろうと思っていたけど、いざ目の当たりにするとやっぱりくるな……。それはたぶんティミーも同じなんだろう。
「まぁなんだ、助けるんだろ?」
ふと、ハイリが口を開くと、俯き加減のティミーの目線がそちらへと向いた。それは俺も同様だ。
「この事件はお前の友達が起こしたのか? 違うだろ。アキは確かにこう言った、あいつがそんな事するはずが無い、何かに操られているだけだ。一体何に操られてるのかは俺には分からねぇよ、でもアキがそこまで言うんなら確かにキアラ・アストンは自らの意思でこんな事をしてるんじゃないんだろう。だからそれを助ける。そのためにお前は、お前らはこの任務を受けたんだろ? だからくよくよしてんじゃねぇよ」
ハイリの言葉に脳内が揺さぶられる。そうだよな。ハイリの言う通りだ。ここで立ち止まってなんかいられない。俺はあいつを救うために今こうしているんだ。
ティミーの顔も軽く綻ぶのが見えた。
「まったく、まだまだお前にはかなわないよハイリ」
「だね。ありがとう、ハイリ」
俺とティミーが口々に言うと、ハイリはニッと天真爛漫な笑みを返してくれた。
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