異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
挑戦
しばらく試験会場の前でだべっていると、入り口の手前に置かれていたお立ち台の上に教頭先生が上って行ったのを確認した。校長は女だが教頭の方は男だ。スキンヘッドにサングラスという姿はなかなかの迫力である。というかやくざさんじゃないよね? ここ日本じゃないよね? スーツってわけでもないけど服も黒いし……。
「静粛に」
試験会場の前でだべっていた生徒たちだったが、教頭の声が辺りに響き渡ると水を打ったように静まり返る。まぁ逆らったら殺されそうだもんな……。
「これより校長の挨拶がある、心して聞くように」
教頭はそれだけ言ってお立ち台から下りると、入れ替わりに校長がそこへ上って行く。相変わらずグラマラスな人だ。
「六年生諸君、よくぞこの場へ来た! 君たちの瞳は……」
しばらくの間つまらない校長の話を聞かされた後、お立ち台が引き上げられ入口が解放されたので、生徒たちがわらわらとそこへ向かって動き出す。
「いやぁ、なんか緊張するねぇ」
キアラが少し興奮気味にそんなことを言いだす。
その割には目がすごく輝いてるのは気のせいですかね?
「そう? 私はもう慣れたわよ」
ミアはどこか誇らしげにそう返した。
「五回も受けてきて慣れてない方が問題だけどな」
「なんか言った?」
「いえ何も言ってないですハイ」
射すくめるようなミアの鋭い目線に思わず敬語が口からこぼれてしまう。
お嬢様もっとスマイルお願いします……。
「でもほんと、どんな試験なんだろうねぇ」
「確かにそこは気になるわね」
「楽な奴だったらいいけどな」
などと話しているうちに俺らも試験会場の入り口の目の前まで来た。さていかほどの場所か……。
中に入るとそこは大きな空間だった。天井にはいくつもシャンデリアがつりさげられ、地面は赤いじゅうたんで覆われていた。そして向こう側の壁にはいくかの扉がある。
「はーい、どこの扉も同じなので、数を見て適当に前に並んでくださーい」
声のした先に目をやると、教師が生徒たちを扉の前に並ぶよう誘導していた。
他にも複数の教師陣がおり、生徒たちを先導している。中には最後尾の札を掲げている先生もいらっしゃる……。
なんというかシュールな光景だな。試験だよなこれ?
「今回は何があるのかしらね。まぁいいわ、適当に並びましょ」
そういって列の一つの最後尾につきだすミア。まぁ、なんだ? とりあえず俺も並ぶか。
「行くか」
「オッケー! なんかお祭りみたいだねっ」
ミアと同じ列につくと、なんの説明も無いまま順番はどんどん近づいていき、遂にミアの番までやってきた。
「たぶん試験を突破できたら同じ部屋に集められるからそこでみんな落ち合いましょ。絶対受かるのよ!」
「いや下見のつもりだし受かる気さらさら無いんだけど」
「受けるからには本気でやりなさい! 落ちたら許さないわっ!」
そんなむちゃくちゃな……三か月やそこらでいきなり進級できるわけがなかろうに。
「まぁ、善処する」
「善処じゃないの! 絶対よ!」
「よしミア! もうこうなったら私、絶対受かっちゃうよ!」
ちょっと何言ってんのキアラさん? あなたも三か月やそこらしかここで学んでないですよね? そんな根拠の無いこと言って……。
「流石はキアラ! アキも見習いなさいっ」
「へいへい……」
ズビシッと指をさしてくるのでとりあえず返事はしておく。
「それじゃあ行ってくるわ、お互い七年生になるのよ!」
何が楽しいのかミアは笑みを浮かべ颯爽と扉の向こう側へと歩みだす。
しかしよくもあんなにも自信を持てるよな。言い方が自分は受かる前提だったし……。
「次、入れ」
十分ほど経ったか、扉の前に控えている先生殿が俺に向かってそう言ってきた。
ついに俺の番来たらしい。
「がんばれアキ」
「まぁ極力な」
キアラが応援してくれるのでとりあえず返事をすると、そのまま扉の先へと向かった。
少し廊下を歩くともう一つの扉があったのでそれを開けると、広がっていたのはまたしても大きい空間だった。ただ先ほどとは違い、シャンデリアもじゅうたんも無く、地面も壁も灰色一色だ。ただ何も無いというわけではなく、俺より何倍も大きそうな岩がある。
部屋の様子をまじまじと観察していると、岩の陰から見覚えのある柔和な笑みをたたえる男が現れた。魔法基礎の教師だ。紳士的な人で、授業も丁寧でけっこう人気のある人だったりする。
「おや、早くもこの場に来ましたね」
「まだこの学院に来てまもないんで下見のつもりだったりするんですけどね」
「いや、アキヒサ君ならもしかするといけるかもしれませんよ。早速ですが試験内容を説明しましょう」
「お願いします」
「とりあえず先に……コントラッセ」
先生は何やら魔術を使ったらしく、空間の向こう側が円状に赤く光り出した。
「この岩をあの印をつけた場所に置ければ合格です。ちなみに砕いたり壊したりするのは失格なのでご注意ください」
「え? それだけなんですか?」
少し拍子抜けである。もう少し派手なのかと思ってたんだが……。
「はい、あと制限時間は三百秒です」
「……分かりました」
「それでは準備はいいですか? それでは始め」
制限時間は三百秒、という事は五分。あの印までは距離にしてだいたい三十メートルくらいか?
さて、これは七年生になるための試験、つまり六年生の集大成を披露すればいいんだろう。だとすれば唯一の必修講義であった魔法基礎を使うんだろうがこんな大きくて重そうなのを浮かせられるか? まだ剣くらいしか浮かせてないからな。
「浮上!」
かつてミアに使ったのもこれと同じだ。これは物を浮かす魔法で、本来ならそれを使えばばある程度の間は浮かせた物体を空中で操る事ができるはずなんだが……。
重い。重すぎる。なんだこれ、ちょっと持ち上げるだけで精一杯なんだけど?
さぁどうするか、魔法基礎は正直得意な分野ではない。もしかしたら何かの魔法同士かけ合わせればなんとかなるのかもしれないが何を組合わせればいい? 軽量とかあった気がするけどどうやるんだったか……というかそもそも一気に二つも魔法を扱うとか俺にはまだ無理だったな。
いったん魔法を解き岩を戻し、しばらく考えに耽る。
「百五十秒経過です」
半分ほど時間が過ぎた頃、俺はとある案を思いついた。
……魔法と魔術を二つ使う事は俺にでもできるんじゃないか? 俺の属性は炎。紺色なら岩を消しかねないが意図的に赤にする事は出来る。炎が放出された時の勢いと浮上を合わせれば岩を動かすことができるに違いない。
善は急げ、時間は無い。たぶんそれくらいの勢いの炎を出すなら昔、祠から帰る途中ゴーレムと戦った時に使ったフェルモストヴィロスがいいだろう。あれはいわば炎の竜巻だからな。
「浮上! フェルモストロヴィロス!」
しばらく魔力を高めた後、案の定重かった岩をよいしょと浮かびあがらせると、赤色の炎の渦が勢いよく岩を宙高く持ち上げてくれる。
上へ押しあげられる力の勢いのおかげで軽く感じれるようになった岩は浮上で操る事ができるようになり、落下地点を確定させることに成功した。
最後に落下地点の場所に火の柱を作って岩の落下速度を軽減させ、落ちた衝撃で砕けないようにすると、遂に岩をあの場所に置くことができた。
「魔法と魔術の合わせ技はお見事でした。合格です」
案外楽だったな……。
「静粛に」
試験会場の前でだべっていた生徒たちだったが、教頭の声が辺りに響き渡ると水を打ったように静まり返る。まぁ逆らったら殺されそうだもんな……。
「これより校長の挨拶がある、心して聞くように」
教頭はそれだけ言ってお立ち台から下りると、入れ替わりに校長がそこへ上って行く。相変わらずグラマラスな人だ。
「六年生諸君、よくぞこの場へ来た! 君たちの瞳は……」
しばらくの間つまらない校長の話を聞かされた後、お立ち台が引き上げられ入口が解放されたので、生徒たちがわらわらとそこへ向かって動き出す。
「いやぁ、なんか緊張するねぇ」
キアラが少し興奮気味にそんなことを言いだす。
その割には目がすごく輝いてるのは気のせいですかね?
「そう? 私はもう慣れたわよ」
ミアはどこか誇らしげにそう返した。
「五回も受けてきて慣れてない方が問題だけどな」
「なんか言った?」
「いえ何も言ってないですハイ」
射すくめるようなミアの鋭い目線に思わず敬語が口からこぼれてしまう。
お嬢様もっとスマイルお願いします……。
「でもほんと、どんな試験なんだろうねぇ」
「確かにそこは気になるわね」
「楽な奴だったらいいけどな」
などと話しているうちに俺らも試験会場の入り口の目の前まで来た。さていかほどの場所か……。
中に入るとそこは大きな空間だった。天井にはいくつもシャンデリアがつりさげられ、地面は赤いじゅうたんで覆われていた。そして向こう側の壁にはいくかの扉がある。
「はーい、どこの扉も同じなので、数を見て適当に前に並んでくださーい」
声のした先に目をやると、教師が生徒たちを扉の前に並ぶよう誘導していた。
他にも複数の教師陣がおり、生徒たちを先導している。中には最後尾の札を掲げている先生もいらっしゃる……。
なんというかシュールな光景だな。試験だよなこれ?
「今回は何があるのかしらね。まぁいいわ、適当に並びましょ」
そういって列の一つの最後尾につきだすミア。まぁ、なんだ? とりあえず俺も並ぶか。
「行くか」
「オッケー! なんかお祭りみたいだねっ」
ミアと同じ列につくと、なんの説明も無いまま順番はどんどん近づいていき、遂にミアの番までやってきた。
「たぶん試験を突破できたら同じ部屋に集められるからそこでみんな落ち合いましょ。絶対受かるのよ!」
「いや下見のつもりだし受かる気さらさら無いんだけど」
「受けるからには本気でやりなさい! 落ちたら許さないわっ!」
そんなむちゃくちゃな……三か月やそこらでいきなり進級できるわけがなかろうに。
「まぁ、善処する」
「善処じゃないの! 絶対よ!」
「よしミア! もうこうなったら私、絶対受かっちゃうよ!」
ちょっと何言ってんのキアラさん? あなたも三か月やそこらしかここで学んでないですよね? そんな根拠の無いこと言って……。
「流石はキアラ! アキも見習いなさいっ」
「へいへい……」
ズビシッと指をさしてくるのでとりあえず返事はしておく。
「それじゃあ行ってくるわ、お互い七年生になるのよ!」
何が楽しいのかミアは笑みを浮かべ颯爽と扉の向こう側へと歩みだす。
しかしよくもあんなにも自信を持てるよな。言い方が自分は受かる前提だったし……。
「次、入れ」
十分ほど経ったか、扉の前に控えている先生殿が俺に向かってそう言ってきた。
ついに俺の番来たらしい。
「がんばれアキ」
「まぁ極力な」
キアラが応援してくれるのでとりあえず返事をすると、そのまま扉の先へと向かった。
少し廊下を歩くともう一つの扉があったのでそれを開けると、広がっていたのはまたしても大きい空間だった。ただ先ほどとは違い、シャンデリアもじゅうたんも無く、地面も壁も灰色一色だ。ただ何も無いというわけではなく、俺より何倍も大きそうな岩がある。
部屋の様子をまじまじと観察していると、岩の陰から見覚えのある柔和な笑みをたたえる男が現れた。魔法基礎の教師だ。紳士的な人で、授業も丁寧でけっこう人気のある人だったりする。
「おや、早くもこの場に来ましたね」
「まだこの学院に来てまもないんで下見のつもりだったりするんですけどね」
「いや、アキヒサ君ならもしかするといけるかもしれませんよ。早速ですが試験内容を説明しましょう」
「お願いします」
「とりあえず先に……コントラッセ」
先生は何やら魔術を使ったらしく、空間の向こう側が円状に赤く光り出した。
「この岩をあの印をつけた場所に置ければ合格です。ちなみに砕いたり壊したりするのは失格なのでご注意ください」
「え? それだけなんですか?」
少し拍子抜けである。もう少し派手なのかと思ってたんだが……。
「はい、あと制限時間は三百秒です」
「……分かりました」
「それでは準備はいいですか? それでは始め」
制限時間は三百秒、という事は五分。あの印までは距離にしてだいたい三十メートルくらいか?
さて、これは七年生になるための試験、つまり六年生の集大成を披露すればいいんだろう。だとすれば唯一の必修講義であった魔法基礎を使うんだろうがこんな大きくて重そうなのを浮かせられるか? まだ剣くらいしか浮かせてないからな。
「浮上!」
かつてミアに使ったのもこれと同じだ。これは物を浮かす魔法で、本来ならそれを使えばばある程度の間は浮かせた物体を空中で操る事ができるはずなんだが……。
重い。重すぎる。なんだこれ、ちょっと持ち上げるだけで精一杯なんだけど?
さぁどうするか、魔法基礎は正直得意な分野ではない。もしかしたら何かの魔法同士かけ合わせればなんとかなるのかもしれないが何を組合わせればいい? 軽量とかあった気がするけどどうやるんだったか……というかそもそも一気に二つも魔法を扱うとか俺にはまだ無理だったな。
いったん魔法を解き岩を戻し、しばらく考えに耽る。
「百五十秒経過です」
半分ほど時間が過ぎた頃、俺はとある案を思いついた。
……魔法と魔術を二つ使う事は俺にでもできるんじゃないか? 俺の属性は炎。紺色なら岩を消しかねないが意図的に赤にする事は出来る。炎が放出された時の勢いと浮上を合わせれば岩を動かすことができるに違いない。
善は急げ、時間は無い。たぶんそれくらいの勢いの炎を出すなら昔、祠から帰る途中ゴーレムと戦った時に使ったフェルモストヴィロスがいいだろう。あれはいわば炎の竜巻だからな。
「浮上! フェルモストロヴィロス!」
しばらく魔力を高めた後、案の定重かった岩をよいしょと浮かびあがらせると、赤色の炎の渦が勢いよく岩を宙高く持ち上げてくれる。
上へ押しあげられる力の勢いのおかげで軽く感じれるようになった岩は浮上で操る事ができるようになり、落下地点を確定させることに成功した。
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