異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
急迫
道中何匹か魔物を駆除しつつ、魔術研究所周辺に到達するも、意外にも原型を保っていた研究所の上空にはルフの姿は無かった。
代わりにあったのは煙の合間から見える青空だけだ。
視線をずらすと、ルフはもう少し先の方の空で暴れていた。
先の所で見た背景は空と煙のみだった。どうやら目から見える距離感が狂っていたらしい。例えば飛行機を見た時、ちょっと近すぎじゃないかと思われても実際はかなり遠い場所を飛んでいるのと同じ感じだと思う。ほんと人間の目ってアテにならないな。
ついでに煙は研究所からも上がっているが、別の場所からも上がっている。つまり。
「まずい状況だ」
「え、ど、どうするの!?」
「どうするかな……」
街中は既にかなり被害が出てそうだ。至る所で立ち昇る煙はそれを顕著に表している。全部が全部ルフの仕業というわけでは無いだろうが、少し向こう側じゃ多くの煙が上がっていることから、その場所の上を今ルフは飛んでいると考えられる。ただ、あの場所は裏門が近い。となると恐らく……。
「とりあえず周辺にいるかもしれない魔物を倒していくぞ。たぶんルフがやられるのも時間の問題だ」
「え、どういう事?」
言った矢先、上空で停滞しながら火を放っていたルフが墜落し始めた。ルフに纏っているあれは恐らく風。
「こういう事だ」
「そっか、ハイリが近かったんだね」
ハイリの班は王都の裏門担当だ。そしてルフのいる位置は王都の西側、裏門近くになっているはずだ。
「でもなんで研究所から魔物が逃げたんだろう……」
ふとティミーが呟く。
確かにそうだ。扱いにくいとはいえ、檻さえ開けなければ恐らく魔物も逃げ出さないはず。捕獲スペースに年季が入っていたというなら話は別かもしれないが、王立の魔術研究所とあろう場所がそんなヘマをするとも思えない。
もしかしてこれは人為的に引き起こされたものじゃないのか? ただ方法が分からない。中には研究員もいっぱいいるはずだ。そんな中、全員を欺きつつ一人が魔物をどうこうなどできるものだろうか? いやそもそも一人ではない? だとすれば複数のクーデーター? 動機が分からない。待て、そもそも研究員はどこに?
「まさか……」
「どうしたのアキ?」
「いや、なんでも無い。とにかく行くぞ」
不吉な考えは無しだ。とりあえず中に行ってバリクさんに言われた通り状況確認をすべきだろう。
入口へ走り中に入る。出たのはもちろん教会風の回廊。あまり被害は出て無いようだ。煙が出てたのはここの向こう側にある資料室なんだろう。紙類も多いわけだしな。とにかく急がないと。
時という暗黒物質、闇魔力と光魔力、魔力の発光、騎士魔法の完成。様々な成果や実績が書かれた左右の石板を通り越し、資料室の入口へ差し掛かろうとするが足が止まる。
「なんだ?」
「アキ?」
違和感と名状すべきか、いやでも違う。この感覚は確かメールタットでも感じた。これは殺気か? ならどこから? 入口からここまで来るのに見てない場所はどこだ? 前は当然、途中左右も確認した。となると残るのは……。
「上だ!」
咄嗟にティミーを押し、後方へと退避。元いた足元に何者かが刃を叩きつけていた。
刃を持つ人影は一度戦ったことがある相手。武器は通常より大きなソードブレイカーを扱い、黒装束の中、顔には白い妖狐の面が映えている。
ファルクを殺した仇敵。恐らくシノビの頭領である暗殺者。
一滴の黒が白の中へ。それは滲み、広がる。湧き出す怒りと共に魔力の高まりを内側から感じ取る。
「リアマ・フィロ!」
すぐさま包帯を解き、紺色の焔と共に奴へと水平斬りを放つ。
暗殺者は即座に後転、間合いを取る。
剣で対応してくれなかったのは残念だ。そのまま剣ごとあの首を掻っ捌いてやろうかと思ったのに。まぁ、どちらにせよ殺すまでだけど。
「ピュール・ヴェレ」
ティミーより一歩前に進み、地面に線を描く。斬りこみにより入ったその地面の傷に光が帯びると、そこを軸に、生み出された多量の紺色の波が暗殺者の元へとなだれ込んだ。
暗殺者は後方へ退避。しかし波の進撃は徐々に距離を詰める。
逃げきれないと悟ったか、暗殺者は飛翔。足元には入口へと激しく反りあがり衝突し、帰還した炎の海だ。だが暗殺者の着地地点は壁だった。
そのままこちらへと前進し、複数のくないを投擲する。
「ちっ、フェルドクリフ!」
目の前に炎の壁を形成。くないの進撃を止める。
左方の壁に黒い影。暗殺者は壁を蹴り、こちらへと猛進し頭を両断せんと斬撃を放つ。
跳ね上がる己の心臓に従い即座に剣で対応。暗殺者のソードブレイカーは切断され、俺は守りから攻勢へ、剣を振り切る。
しかし暗殺者は超反応で身体を反り返らせ俺の斬撃を回避。傍を通り過ぎた。この桁違いの身体能力は恐らく既に地属性土系統の身体強化の魔術がかかってるのだろう。地面を滑る暗殺者との間合いをすかさず詰め、天から地へ、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
暗殺者は横転しそれを回避。そのまま後転しこちらへと向き直る。
「その剣きつい」
声。俺でも無いティミーでも無い、別の声。
あの暗殺者から聞こえたのか? いやでもまさか……。
呆気にとられていると、身を翻した暗殺者は研究所の外へと走りだした。
「ま、待て!」
遅れて追いかけ、研究所の外に出るも、既に暗殺者の姿は無くなっていた。
「アキ、大丈夫!?」
後ろからティミーが走って来た。その姿を見ていつの間にか魔力の高まりが失せているのに気づく。
「ああ、逃げられたけどな」
「そっか。でも良かったよ……」
「なんで?」
「だ、だって、アキちょっと危なっかしかったから」
「そうか? 全然そんな事なかっただろ」
むしろ今回は追い詰めた気がするんだけど。
「その、なんていうのかな……」
何と言い表すべきが考えあぐねているようだ。
「まぁなんだ、お前に言われたくない」
「むっ、それどういう意味なのかな!?」
ティミーは少ししかめっ面になると、顔を赤くし頬を小さく膨らませた。
「そのままの意味だ」
「むぅ……アキの馬鹿」
『一斉送信!』
突然疎通石が発光し、バリクさんの声が会話を遮る。一斉送信という事はこちら側から返信できない一方的な情報の発信。……これが来るという事は緊急事態が起こっているという事。あの暗殺者が来たという事はシノビの事か?
『城内警備の五、六番隊が壊滅。黒ローブの組織が現れた模様』
電撃が背筋に走る。
ふとティミーを見れば、その表情には緊張の色が映し出されていた。俺もまた緊迫感がこみ上げてくる。
まだ確定では無いものの、ほぼ怪術師の集団と見て間違いないだろう黒ローブの組織。かつて学院を陥れた連中だ。
『全隊員は各任務を放棄し、至急本部に集まるように! なお魔物は殲滅できた模様なので問題は無い』
バリクさんの声はいつもと温和な様子では無く、切迫感がにじみ出ている。そりゃそうもなるだろう、何せS級犯罪組織だからな。しかもやられたのは五番隊、六番隊の城内警護の人間ばかり。つまり奴らが今いるのは城内……。騎士団の何割かが削られた上に城の制圧。最悪の状況だ。呑気に本部に集まっててもいいのかとも思うが、こういう時こそ統制があった方がいいのかもしれない。
『詳しい事は全体会議で知らせる。以上!』
疎通石の光が消える。ティミーと視線が交わる。
「行くぞ」
「うん」
お互い頷き、火事だけティミーの水系統の魔術で治めると、本部へと急いだ。
代わりにあったのは煙の合間から見える青空だけだ。
視線をずらすと、ルフはもう少し先の方の空で暴れていた。
先の所で見た背景は空と煙のみだった。どうやら目から見える距離感が狂っていたらしい。例えば飛行機を見た時、ちょっと近すぎじゃないかと思われても実際はかなり遠い場所を飛んでいるのと同じ感じだと思う。ほんと人間の目ってアテにならないな。
ついでに煙は研究所からも上がっているが、別の場所からも上がっている。つまり。
「まずい状況だ」
「え、ど、どうするの!?」
「どうするかな……」
街中は既にかなり被害が出てそうだ。至る所で立ち昇る煙はそれを顕著に表している。全部が全部ルフの仕業というわけでは無いだろうが、少し向こう側じゃ多くの煙が上がっていることから、その場所の上を今ルフは飛んでいると考えられる。ただ、あの場所は裏門が近い。となると恐らく……。
「とりあえず周辺にいるかもしれない魔物を倒していくぞ。たぶんルフがやられるのも時間の問題だ」
「え、どういう事?」
言った矢先、上空で停滞しながら火を放っていたルフが墜落し始めた。ルフに纏っているあれは恐らく風。
「こういう事だ」
「そっか、ハイリが近かったんだね」
ハイリの班は王都の裏門担当だ。そしてルフのいる位置は王都の西側、裏門近くになっているはずだ。
「でもなんで研究所から魔物が逃げたんだろう……」
ふとティミーが呟く。
確かにそうだ。扱いにくいとはいえ、檻さえ開けなければ恐らく魔物も逃げ出さないはず。捕獲スペースに年季が入っていたというなら話は別かもしれないが、王立の魔術研究所とあろう場所がそんなヘマをするとも思えない。
もしかしてこれは人為的に引き起こされたものじゃないのか? ただ方法が分からない。中には研究員もいっぱいいるはずだ。そんな中、全員を欺きつつ一人が魔物をどうこうなどできるものだろうか? いやそもそも一人ではない? だとすれば複数のクーデーター? 動機が分からない。待て、そもそも研究員はどこに?
「まさか……」
「どうしたのアキ?」
「いや、なんでも無い。とにかく行くぞ」
不吉な考えは無しだ。とりあえず中に行ってバリクさんに言われた通り状況確認をすべきだろう。
入口へ走り中に入る。出たのはもちろん教会風の回廊。あまり被害は出て無いようだ。煙が出てたのはここの向こう側にある資料室なんだろう。紙類も多いわけだしな。とにかく急がないと。
時という暗黒物質、闇魔力と光魔力、魔力の発光、騎士魔法の完成。様々な成果や実績が書かれた左右の石板を通り越し、資料室の入口へ差し掛かろうとするが足が止まる。
「なんだ?」
「アキ?」
違和感と名状すべきか、いやでも違う。この感覚は確かメールタットでも感じた。これは殺気か? ならどこから? 入口からここまで来るのに見てない場所はどこだ? 前は当然、途中左右も確認した。となると残るのは……。
「上だ!」
咄嗟にティミーを押し、後方へと退避。元いた足元に何者かが刃を叩きつけていた。
刃を持つ人影は一度戦ったことがある相手。武器は通常より大きなソードブレイカーを扱い、黒装束の中、顔には白い妖狐の面が映えている。
ファルクを殺した仇敵。恐らくシノビの頭領である暗殺者。
一滴の黒が白の中へ。それは滲み、広がる。湧き出す怒りと共に魔力の高まりを内側から感じ取る。
「リアマ・フィロ!」
すぐさま包帯を解き、紺色の焔と共に奴へと水平斬りを放つ。
暗殺者は即座に後転、間合いを取る。
剣で対応してくれなかったのは残念だ。そのまま剣ごとあの首を掻っ捌いてやろうかと思ったのに。まぁ、どちらにせよ殺すまでだけど。
「ピュール・ヴェレ」
ティミーより一歩前に進み、地面に線を描く。斬りこみにより入ったその地面の傷に光が帯びると、そこを軸に、生み出された多量の紺色の波が暗殺者の元へとなだれ込んだ。
暗殺者は後方へ退避。しかし波の進撃は徐々に距離を詰める。
逃げきれないと悟ったか、暗殺者は飛翔。足元には入口へと激しく反りあがり衝突し、帰還した炎の海だ。だが暗殺者の着地地点は壁だった。
そのままこちらへと前進し、複数のくないを投擲する。
「ちっ、フェルドクリフ!」
目の前に炎の壁を形成。くないの進撃を止める。
左方の壁に黒い影。暗殺者は壁を蹴り、こちらへと猛進し頭を両断せんと斬撃を放つ。
跳ね上がる己の心臓に従い即座に剣で対応。暗殺者のソードブレイカーは切断され、俺は守りから攻勢へ、剣を振り切る。
しかし暗殺者は超反応で身体を反り返らせ俺の斬撃を回避。傍を通り過ぎた。この桁違いの身体能力は恐らく既に地属性土系統の身体強化の魔術がかかってるのだろう。地面を滑る暗殺者との間合いをすかさず詰め、天から地へ、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
暗殺者は横転しそれを回避。そのまま後転しこちらへと向き直る。
「その剣きつい」
声。俺でも無いティミーでも無い、別の声。
あの暗殺者から聞こえたのか? いやでもまさか……。
呆気にとられていると、身を翻した暗殺者は研究所の外へと走りだした。
「ま、待て!」
遅れて追いかけ、研究所の外に出るも、既に暗殺者の姿は無くなっていた。
「アキ、大丈夫!?」
後ろからティミーが走って来た。その姿を見ていつの間にか魔力の高まりが失せているのに気づく。
「ああ、逃げられたけどな」
「そっか。でも良かったよ……」
「なんで?」
「だ、だって、アキちょっと危なっかしかったから」
「そうか? 全然そんな事なかっただろ」
むしろ今回は追い詰めた気がするんだけど。
「その、なんていうのかな……」
何と言い表すべきが考えあぐねているようだ。
「まぁなんだ、お前に言われたくない」
「むっ、それどういう意味なのかな!?」
ティミーは少ししかめっ面になると、顔を赤くし頬を小さく膨らませた。
「そのままの意味だ」
「むぅ……アキの馬鹿」
『一斉送信!』
突然疎通石が発光し、バリクさんの声が会話を遮る。一斉送信という事はこちら側から返信できない一方的な情報の発信。……これが来るという事は緊急事態が起こっているという事。あの暗殺者が来たという事はシノビの事か?
『城内警備の五、六番隊が壊滅。黒ローブの組織が現れた模様』
電撃が背筋に走る。
ふとティミーを見れば、その表情には緊張の色が映し出されていた。俺もまた緊迫感がこみ上げてくる。
まだ確定では無いものの、ほぼ怪術師の集団と見て間違いないだろう黒ローブの組織。かつて学院を陥れた連中だ。
『全隊員は各任務を放棄し、至急本部に集まるように! なお魔物は殲滅できた模様なので問題は無い』
バリクさんの声はいつもと温和な様子では無く、切迫感がにじみ出ている。そりゃそうもなるだろう、何せS級犯罪組織だからな。しかもやられたのは五番隊、六番隊の城内警護の人間ばかり。つまり奴らが今いるのは城内……。騎士団の何割かが削られた上に城の制圧。最悪の状況だ。呑気に本部に集まっててもいいのかとも思うが、こういう時こそ統制があった方がいいのかもしれない。
『詳しい事は全体会議で知らせる。以上!』
疎通石の光が消える。ティミーと視線が交わる。
「行くぞ」
「うん」
お互い頷き、火事だけティミーの水系統の魔術で治めると、本部へと急いだ。
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