異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~

じんむ

青天の霹靂

 暖かな光は今も変わらず春の陽気。王都の一角を歩く俺達は現在、絶賛警護任務の仕事中である。
 昨日は研究所の方に行っていたので参加しなかったが、今日は研究所の依頼も無いので通常参加だ。

 警備任務はおおよそ週単位で順番が回ってくる。先週は一、二番隊だったので今週は三番隊の俺らと四番隊の面々と共に城下を警備している。一番隊も最近は黒ローブの組織とシノビについてを調べに出ていたが、帰ってきて城の警備に回っているそうだ。他の隊についても王都内で様々な仕事をこなし、今日は珍しく全騎士団員が王都に集結してるので夜は隊員総出の会議が開かれる。そこで恐らく黒ローブの組織やらシノビの事などが詳しく伝えられるんだろう。まぁ情報を得ることが出来ていればの話だけど。

「……にしても暇だ」

 だってひたすら王都内を歩くだけとか暇以外の何者でもないだろ? 鉱脈調査も大概だけど警備もかなり面白くない。

「アキ、そういうのは言わない方がいいと思うよ」

 ティミーが心なしか頬を膨らます。

「だって歩くだけだろ? どうせ平和だし」
「でも学院は襲われたんだよ?」
「あの時はずっと平和だったからな、警備も薄かった。でも今はかなり強化されてるだろ? 少しでも怪しければ全部脱がせるってマジらしいぞ」

 つまり怪しいと判断すれば合法で女性の服を脱がすことが出来るというわけだ! まぁもちろんそこらへんはちゃんと女性隊員に確認させるとか考慮されてるんだろうけど。現にスーザンは今頃バリクさんほか数名と門の警備の方に当たってるはずだ。

「だけど油断は禁物だと思うな」

 うーん、でもまぁ確かにそうか。シノビってどこからでも入ってこれそうだしな。

「言われてみればそうか。最近なんか気が抜けててさ。そもそもティミーがいてくれるだけ有り難いよな。話し相手がいるのといないのじゃ随分違う」
「う、うん……」

 なんか急に大人しくなったな……。普段も別に活発な子ってわけじゃないがさっきは言葉尻に勢いが無くなってた気がする。
 まぁいいや、でもあれだよな、そもそも楽しい仕事があるという認識が間違いなんだよ。辛くない仕事は無いんだ。でもその代わりちゃんと給与は貰ってるんだからやっぱりきちんと任務はまっとうすべきだよな。
 あれ? やばい、なんで異世界で社畜脳になっちゃったの俺……。いやまぁ実際社畜になった事ないからあくまで偏見だけど。

 どうでもいい思考を働かせていると不意に何かの重低音が心臓を揺さぶる。

「なんだ!?」

 見れば先で煙が立ち昇っていた。ティミーと視線が合う。

「とりあえず行くぞ」
「だ、だね」

 この先にあるのは確か王立魔術研究所。頼むから実験失敗とかそういうので済ませてくれよ……。


 **********


「研究所にはいかないでください!」

 建物からでてきた住民に指示を出しつつ研究所へと走る。
 前方、研究所の方面から何人かの人が走って来るのを捉えた。

「騎士団様お助け下さい!」

 そのうち一人が酷く狼狽した様子で身体に掴まってくる

「どうしましたか?」
「ま、魔物です!」
「魔物?」

 まさか、こんな王都で魔物なんか……いや待て、そうだよ、何も不思議じゃない。魔物なら魔術研究所にいただろう! これは最悪の事態かも知れないな。とりあえずバリクさんに連絡を……。

 疎通石を取り出すと、突如石が光りだした。恐らくバリクさんだ。
 魔力を中に通しすぐに応答する。

「丁度良かったこちら二班! 住民から魔物が出たとの事!」

 ちなみにティミーと俺は二班という名目で行動している。

『その様子だとだいたいの状況は把握してるみたいだね。こちらからも煙と複数の魔物を確認してるよ』
「でしたか。でも把握してると言ってもまだ何がどうなったかとか詳しい事は……」

 住民が言ってる事はでたらめじゃなく本当に魔物が現れてるようだという事くらいだな。

『大丈夫、僕たちの方もあまり詳しくは分かってないんだ。ただ事態はかなり切迫してるという事以外だけど』
「ですよね……。俺達はどうすればいいですか?」
『とりあえず住民に避難指示を出しつつ研究所に向かってもらえるかい? たぶん今は二班が一番近いから詳しい状況を知らせてほしいんだ』
「了解です」
『後で僕たちの班も合流できると思うから。じゃあ』

 バリクさんはそれだけ言うと、疎通石の光が失われた。

「クーゲル!」

 突如放たれたティミーの魔力弾。先を見れば一匹の小型の魔物が倒れていた。

「もうこんなところまで来た奴もいたのか」
「うん、気を付けていこうね」
「おう」

 ふと目に傍で震えてしゃがむ住民が映った。
 とりあえず俺たちの来た道ならまだ安全なはずだよな。

「僕たちは向こうから来ましたのでその道を逃げていってください。ここは一本道なので魔物は止めておきます。ついでに声かけも協力いただければ幸いです」
「分かりました。ありがとうございます」

 その住民は一礼すると俺らが来た道へと走って行った。

「さて……」

 行くかと声をかけようとすると、前方の角から頭の三つある獣型の魔物ケベルドスが現れた。

「突破するぞティミー」
「うん」

 前回戦って思ったのはケベルドスの脅威は毒のみ。ただ脅威には変わらない。予備動作が無いのも理由の一つだ。だからできれば一発で決めたい。

「ティミー、ランケで奴の動きを封じてくれ。そこを一気に俺が叩く」
「え、えと、でもこっちに来てるよ!? これだと狙いが!」

 見ればケベルドスはこちらへと猛進している。

「一瞬くらいなら動きは止められるからそこをつけ! クーゲル!」

 魔力弾をケベルドスに発射。煙と共にケベルドスの前進が止まる。

「ありがとう、ランケ!」

 ティミーの詠唱と共に、足から胴体、そして三つの頭へ、意思があるかの如く植物のつるがまとわりついていく。
 俺は足元へと標準を定め、魔術を行使。

「フェルドゾイレ!」

 立ち昇る紺色の火柱。三頭の悪魔は成すすべなく灰となる。

「急ごう」

 少し走った矢先、重低音が一定のリズムを刻みながら胃を揺さぶる。

「今度はなんだ!」

 ふと研究所のある辺りの上空を見上げる。先ほどよりも多く立ち昇る煙の中、巨大な何かの影が浮かび上がった。

「あれって、ルフ?」
「ああたぶん。まずいな、この剣を使えば一発で仕留められる相手だけど、奴は街を破壊するのに十分な力を持ってる」
「だ、だったら急がなきゃ!」
「だな」

 慌てふためくティミーの背中を軽く叩き、少し冷静さを取り戻してもらうと、とにかく研究所へと急ぐことにした。
 ……まったく、ほんと何が起こる分かったもんじゃないなこの世界は!

 


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