友達になろう、君が消えてしまうまで。

巫夏希

02.死してなお

「折れたっと」
 
 梓生のその言葉を聞いて、私はようやくほっとした。私のノルマは既に終わっていたので、幾らか梓生の分を手伝っていたのだけれど、それでも追いつかず、結局は私が八割がた作ってしまったようなものなのだけれど。
 梓生はそれを吊るすよういった。なんだかめんどくさいけれど、手伝って欲しいとは言われたので仕方なくそれに従う。
 吊るすと、梓生が小さく呟いた。
 
「……もう、これでいいと思う」
「え?」
「死んでも、別に悪くはない」
「どういうこと?」
「大丈夫だ。そんなに、悪くないよ。君が死ぬからって、世界は何も変わりゃしない」
「そりゃ、そうだけれどさ」
「だけれど、この世界に必要のない人間なんているわけもない。そうでしょう?」
 
 そうなのかな。
 
「……そうだよ。君は、君なんだ。君が何かをするからこそ、この世界に生まれたとも言える。必要のない人間なら、生まれてくる必要もそれこそないわけだろう? 今ここに生きているということは、だ。生きてもいい、ってことだと思うんだよ」
「……ふうん」
「まあ、別に。私の手伝いが終わったら思う存分何度でも死んでくれたって構わないんだけれどね」
 
 賢者の石でできた人造人間じゃあるまいし、何度も死ねるわけなかろう。
 
「……何か死にたくない的な顔してない? それって正直どうかと思うんだけれど」
「えっ?」
「よくあるじゃない。自殺を考えていた少女が、説得によって心入れ替わる、って」
「うん」
「それって、正直どうかと思わない?」
 
 私は今までどうも思わなかったけど。
 それが普通のようにも思えるけれどなあ。
 
「それを普通と思うなら、あなたは本気で自殺する気がなかったんじゃないかな」
「そんなわけ……」
「ないって、言える?」
 
 そう言って、梓生は私に迫った。
 そう言われると、怪しいものがある。けれど、私は一度自殺すると決心したのだ。
 
「……決心したのは別に構わないんだよ。けれどね、その決心はそんなに固くないものだろう。それくらいは理解しているとは思っていたけれどね。……しかし、つまりそれを感じているということは、君の決心は脆いってことだ」
 
 最後まで笑い声まで追加された。さすがにイラッとくる。
 
「イラっときてもいいんだけどね。つまりは、決心が甘い自殺なんて親が悲しむと思うよ? いや、自殺自身が人々を悲しませるもの、だっていうのは学校で学んだものかもしれないが」
「学んだよ、たしかにね。……一年前に、自殺した人が出たの、知ってる?」
「ああ。知ってるよ、私とは違うクラスだったけど」
「私も違うクラスだったのだけれど。面談が開かれたんだよね。その面談で言ってた先生の言葉がまるで『面倒事を押し付けられた』かのように言っているようにも聞こえるんだよ」
「ああ。なんせそういうのはマスコミの格好の飯の種だからな。そういうのはちゃんと対応してもしなくてもマスコミが軍隊アリよろしく群がってくる。そう思うのも仕方ないだろうね」
 
 そう。
 だから、私は学校で自殺するのはやめようと思っていた。
 
「けれど、ここは学校だよ。学校の屋上。どうせまたマスコミが群がってくる。そこで、君は、自ら命を断とうとした」
「……なんでだろうね。自らが考えていた、立ち決めたことすらも守れない私って、やっぱり生きている意味があるのかな」
「それを考えているうちは、まだ余裕があると思うけれどね」
「……貧乳のくせに」
「今、胸はかんけいないだろう胸は。私だってだな、毎日牛乳二リットルは飲んでいるんだ」
「えーと……骨太?」
「確かに骨太とは健康診断の時言われたが! ええい、そんなことはどうだっていい。亜美が私のことを……その、あれと言わなければ!」
「あれってなによ?」
「いいから鶴を折れ!」
 
 もう千羽鶴はできているではないか――と思った。
 しかし、
 
「もう一個作るんだよ!」
 
 そんな無茶な。
 だが、彼女のことを裏切るわけにもいかない。
 だから私はボチボチと鶴を折っていくのだった。

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