レイニー・デイズ・ストーリー

神城玖謡

もうそろそろ…………

   4

「ったく、あれは十分に通報できるレベルのセクハラだろ!!」
「まあ、そう怒らないで。彼だってわざとやった訳じゃないんだし」

 7月の初め頃、雨が降る放課後、文芸部の部室での会話。
 GLカップルの会話。

「だ、だって……ひ、人の胸に顔埋めておいて……しかも、た、たいらって…………思い出しただけでも殴り殺したいぃ……」
「でもビンタしてたじゃん。往復で」
「まだ足りないわっ! もし私1人しかいなかったらもう2~3発殴ってたのに……」
「けどまったく効いてなかったよね」
「…………まあ、文芸部だし、運動音痴で運動不足だし……」
「……女子だし?」
「……まぁ」
「プッ」
「な、なんだよ……」

 人が本気で悩んででる時に……

「何って、いや おもいっきり女の子してるなぁって思って。 一人称も“私”になってるし」

 そ、そういえば……

「まぁ、主人公体質の彼の事はともかく………」
「何?」
「生理まだ?」
「ぶっ!」
「その様子だとやっぱりまだみたいだね………………」

 顔を赤めらせ、ワナワナと震えている彼女役に彼氏役は、断言する。

「今週中にきっとくるよ。もうすぐ1ヶ月だし」
「そ、そんなぁ」
「オーよしよし、私がちゃんと助けてあげるから大丈夫だよ~」

 と、頭を撫でられたっぷり数十秒──

「っは! も、もう良いから!」
(な、なんなんだよ今の! はずかしぃぃ!!)

 と、悶えていた彼(彼女)は、正面に座っている少女が、計画通り と、笑った事を知らない。

「いや~、あれだねぇ。女々っしいね~」

 ニヤニヤする彼氏役に、再度顔を赤くする彼女役。

「あれだよ。体型スレンダーなのに見た目がロリっ娘だからさ、言動の一つ一つがカワイク見えるんだよぉ」
「そうやってからかって、実はドSか!」
「まさかぁ」

 そう言って首を振り、

「ドドドドドドSに決まってんじゃん!」
「まさかの性癖!!!!」
「あははっ、女体化してロリ属性とツンデレ属性とツッコミ属性が追加されたね~」
「うぅぅっ!」
「はいロリロリ~」
「くぅぅ、……もう知らん!!!」

 我慢の限界だとばかりに立ち上がる彼女役。

「あ、そうだ。この本読んでみない?」

 あわてた様子もなく、文芸部部長を本で釣る彼氏役。

「……」
「……」
「…………それ面白いの?」

 釣れました。

「……うん、恋愛小説なんだけど、『一言で言えば 定番かつ、ベタかつ、ご都合主義かつ、甘~いかつ、キラキラかつ……』「お前の一言は長すぎだ」
「うん、つまり一言で言えば、『よくこんな本、この時代にあるな!』な本」

 なんだか妙にリアルな感想だな……

「なのにも係わらず、(ある人種にだけは)人気なんだよ」
「へぇ……」

 差し出された本を受け取り、読み始める。







「……なるほど、恋人を母親と妹も狙っていた、と……」
「……」
「──めっちゃ昼ドラじゃん!」
「それ本だよ。ドラマじゃないよ」
「マニアックかつ、濃いストーリーかつ、にが~いかつ、ドロドロでベタベタな話じゃん! さっきのは嘘かっ!」
「え~そんなはずは……あ、渡す本間違えた」
「違う本かいっ!」

 と、読み終わった本と、例の本(本物)を交換したところでチャイムが鳴った。

「コレは家でだな」
「そうだね。じゃ、帰ろっか。」
「ああ」
「……では、お手をお取りください、お嬢様」
「……ん」
「……………………ツンデレじゃ、行こっか」
「今小声で言ったの聞こえてたからな!」


 気付けば自分も笑っていた。

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