レイニー・デイズ・ストーリー

神城玖謡

ゲスいなお前

           2


「どう? 最近の調子は」
「……うん、少し不便かな」

 6月の半場、雨が降る放課後、文芸部の部室での会話。
 だと思った、といつも通りに笑う彼女と、
 少し低身の、少しおとなしめの、少し無表情の少女の会話。

「でもその調子だと、まだ男に戻らない感じ?」
「まあ、そうだな」

 ここ数日は驚愕と困惑の連続だった。
 例えば──

「まず、トイレだな。…………ついつい男子トイレに入った時の奇異の目はイタかったし。あと、毎回小便でも座ってしないといけないのは、思ったより面倒だったな」
「へぇ、他には?」

 2人共読んでいた本を閉じ、会話に専念する。

「そうだな、毎回終わった後に拭かないといけないのは──」
「トイレネタはもういいよ」
「やっぱりか?」

 そう言ってクックッと笑う少女と、クスクス笑う少女。

「そうだな……後、ブラも少し面倒かな……」
「あー、私も最初そうだったかも」
「しかも湿度高いから蒸れるし……」
「わかるわかる、それ」
「後スキンケア?」
「ぷっ! 何か女の子みたい」
「いや、今は女だろ」
「そうだねぇ……そういえば、本来の目的は?」
「…………」

 嫌な事を聴いてくる。

「一応エロ目的だったんでしょ?」
「…………まあ」

 苦い顔をして認める。

「やっぱり胸揉んでみたりした? どうだった?」
「う~ん、少し興奮した気もしたけど……」
「けど?」
「んん、飽きたというか、慣れたというか……『おぉ、夢が叶った!』って感じだったかな」
「ふ~ん、つまり『女子おなごの胸じゃ、ゲヘッヘヘヘ』って感じじゃなかったんだ」
「いや、何でそんなゲスく言うんだよ……」

 言ってから、やっぱりゲスいと思った。
 しかしそれを聞いた彼女は、ニヤリと笑った。

「今のがゲスく聞こえたって事は、心も女になってきてるって事じゃない?」
「んなわきゃない。……今のは誰でも……とまでは言わないが、だいたいの人はゲスく聞こえるって」
「いや、男の人は平気で言うし、ゲスく聞こえないって」
「女子みたいに言わないし、そこまで気にしないだけで、本当はけっこうゲスいって思ってんだよ」

 すると何を思ったのか、彼女はさらにニヤついた。

「へぇ~~~~?」
「な、なんだよ」

 失言をしたかと身構える。

「君、今すごい気にしてたし、実際言ったよね、ゲスいって」
「!」

 しまったと思ったがもう遅かった。ニヤニヤしながら言葉でつついてくる彼女を尻目に、読書するから、とあわてて本を開く。
 しばらく見られていたが、少しすると彼女も読書に戻った。




「そういえば明日体育あったよね」
「……ああ」
「楽しみだね、着替え」
「…………」
「ついでに私が胸揉んであげようか?」
「結構だ」
「つれないなぁ」
「いや、本当にゲスいなお前」
「やっぱり?」

 彼女はいつも笑っている。

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