ひみつの宝石
第十八話 登校
連休が明け、美琴は制服に身を包んだ。たった数日着てなかっただけなのにやけに懐かしい。それだけこの数日間は美琴にとって濃密なものだったのだ。
鞄を持って部屋を出ると、須見と中島が待っていた。そして尾関も。転入手続きがどうと綾が言っていたのを思い出して、美琴は尾関の制服姿を眺めていた。
「どうだ?似合うか?」
「はい」
「学校では一応、俺は美琴の兄ということになってるらしい。話を合わせてくれ」
「杜田の?」
「そうだ。杜田修吾として手続きしてある。所長が手を尽くしてくれたおかげだな」
「まぁ修吾が突然美琴ちゃんの周りをウロウロしはじめたら怪しいもんね。いいんじゃない?」
 美琴を護るという目的がハッキリしている以上、誰も異存はなかった。近くのバス停まで30分ちかく歩き、バスに乗って一時間。学校につく頃にはバスでの仮眠から目覚めて逆にスッキリする時間だった。
中島と尾関と別れてクラスに入ると須見は須見、美琴は美琴でそれぞれの友達のところへと行った。なるべく不自然じゃないようにとすればするほど、美琴は須見を意識してしまっている。
それが友人たちには須見への片思いだととられてしまうのであった。
「美琴」
「あ、尾ぜ…お兄ちゃん」
一瞬尾関と言いかけて、なんとか誤魔化した。尾関が満足そうに頷く。美琴が駆け寄ると、尾関は優しく頭を撫でた。
「学食に案内してくれ。一緒に食べよう」
「う、うん」
「…お、いた。須見、須見も来い」
「…ウ、ウッス」
尾関に手招きされて須見が財布片手に友達を断っている。知り合いかと聞かれて、空手部の先輩とだけ答えた。廊下を歩く様は勿論注目を集めているが、尾関の堂々とした振る舞いに、美琴が安心しているようでよかったと、須見は心中で呟いた。
食堂では中島が隅のほうの席をとっておいてくれた。どうやら尾関と事前にそう決めていたらしい。美琴がラーメンを持って席に近づくと、中島は自分の隣をポンと叩いた。
「どう?久々の学校は」
「なんていうか…少し…気が楽になりました」
「だろうね。僕たちに触られてもそんなに嫌がらないし、状況に慣れてきたんじゃない?」
「他の男子はやっぱりまだ緊張するんですけど…須見くんや先輩たちならもう緊張しなくなりました」
「そこは君の本能だろうね。僕たちと、そうじゃない人間とをきちんと判断できてる」
偉い偉い、と頭を撫でられ美琴ははにかんで笑ってみせた。
その様子を近づいてきた須見が見逃すはずはなかった。内心面白くないが、自分一人で護りきれない以上何も言う権利はないと思っている。それは尾関に対しても同様に思っているのだが、腹の底にためてひたすら我慢していた。
尾関がカツ丼を片手に席につくが、その顔はどこか遠くを眺めているようでもあった。
「どう?修吾」
「…わからん。何か見られている感じはするが…」
「何が?」
「この学校に美琴ちゃんを狙ってる奴がいないかどうか。僕より修吾の方が強いからそういう気配を探すのも上手いかな~って」
突然出てきた自分の名前に、美琴は箸を止めて顔を上げた。その表情は少し驚きと強張りが混じっている。
「前に美琴ちゃんを作法室に連れて行った時に、ドアの外に誰かがいたんだ。授業中だし、生徒が通りかかるような場所でもなかった。それがどうしても気になってさ」
「作法室…」
須見が美琴を見ると、美琴は申し訳なさそうな顔で小さく『具合が悪かったの』と呟いた。それ以上は詮索する気にもならず、須見は中島の方を向き直した。
「相手だって美琴ちゃんの動向を窺ってると思う。そこに兄を名乗る修吾が来れば動揺して尻尾を見せるかと思ったんだけどね」
蕎麦をすすりながら中島は笑っていた。何かこの状況を楽しむかのように。
「相手がわかったら…どうすんだよ」
「僕たちでどうにかしてもいいけど、一番有効なのは綾さんに報告かな。綾さんは国の偉い人にも顔が利くみたいだし、穏便にいくと思う」
「あの人…すげぇな…」
「なんてったって【金剛石の乙女】だからね。……二人ともラーメンのびちゃうよ?」
中島の話を聞いていて箸が止まった二人は、慌ててラーメンをすすりはじめる。中島の細い指がスッと立てられた。
「それよりも、一週間後は期末だよ?大丈夫?」
「あ…」
不安げな声を上げたのは美琴だった。美琴は持前の要領の悪さで成績は中の下あたり。とにかく全教科がそんな感じだった。
「今夜、勉強会でもするか?」
尾関の言葉に美琴の顔がパァっと明るくなった。だがすぐにまた申し訳なさそうな色を浮かべる。
「でも…皆さんの勉強の邪魔になってしまうんじゃ…」
「俺は一応日頃から勉強している。気にしなくていい」
「僕も平気だよ」
美琴は二人の顔を見比べてから、よろしくお願いしますという意味を込めて頭を下げた。
鞄を持って部屋を出ると、須見と中島が待っていた。そして尾関も。転入手続きがどうと綾が言っていたのを思い出して、美琴は尾関の制服姿を眺めていた。
「どうだ?似合うか?」
「はい」
「学校では一応、俺は美琴の兄ということになってるらしい。話を合わせてくれ」
「杜田の?」
「そうだ。杜田修吾として手続きしてある。所長が手を尽くしてくれたおかげだな」
「まぁ修吾が突然美琴ちゃんの周りをウロウロしはじめたら怪しいもんね。いいんじゃない?」
 美琴を護るという目的がハッキリしている以上、誰も異存はなかった。近くのバス停まで30分ちかく歩き、バスに乗って一時間。学校につく頃にはバスでの仮眠から目覚めて逆にスッキリする時間だった。
中島と尾関と別れてクラスに入ると須見は須見、美琴は美琴でそれぞれの友達のところへと行った。なるべく不自然じゃないようにとすればするほど、美琴は須見を意識してしまっている。
それが友人たちには須見への片思いだととられてしまうのであった。
「美琴」
「あ、尾ぜ…お兄ちゃん」
一瞬尾関と言いかけて、なんとか誤魔化した。尾関が満足そうに頷く。美琴が駆け寄ると、尾関は優しく頭を撫でた。
「学食に案内してくれ。一緒に食べよう」
「う、うん」
「…お、いた。須見、須見も来い」
「…ウ、ウッス」
尾関に手招きされて須見が財布片手に友達を断っている。知り合いかと聞かれて、空手部の先輩とだけ答えた。廊下を歩く様は勿論注目を集めているが、尾関の堂々とした振る舞いに、美琴が安心しているようでよかったと、須見は心中で呟いた。
食堂では中島が隅のほうの席をとっておいてくれた。どうやら尾関と事前にそう決めていたらしい。美琴がラーメンを持って席に近づくと、中島は自分の隣をポンと叩いた。
「どう?久々の学校は」
「なんていうか…少し…気が楽になりました」
「だろうね。僕たちに触られてもそんなに嫌がらないし、状況に慣れてきたんじゃない?」
「他の男子はやっぱりまだ緊張するんですけど…須見くんや先輩たちならもう緊張しなくなりました」
「そこは君の本能だろうね。僕たちと、そうじゃない人間とをきちんと判断できてる」
偉い偉い、と頭を撫でられ美琴ははにかんで笑ってみせた。
その様子を近づいてきた須見が見逃すはずはなかった。内心面白くないが、自分一人で護りきれない以上何も言う権利はないと思っている。それは尾関に対しても同様に思っているのだが、腹の底にためてひたすら我慢していた。
尾関がカツ丼を片手に席につくが、その顔はどこか遠くを眺めているようでもあった。
「どう?修吾」
「…わからん。何か見られている感じはするが…」
「何が?」
「この学校に美琴ちゃんを狙ってる奴がいないかどうか。僕より修吾の方が強いからそういう気配を探すのも上手いかな~って」
突然出てきた自分の名前に、美琴は箸を止めて顔を上げた。その表情は少し驚きと強張りが混じっている。
「前に美琴ちゃんを作法室に連れて行った時に、ドアの外に誰かがいたんだ。授業中だし、生徒が通りかかるような場所でもなかった。それがどうしても気になってさ」
「作法室…」
須見が美琴を見ると、美琴は申し訳なさそうな顔で小さく『具合が悪かったの』と呟いた。それ以上は詮索する気にもならず、須見は中島の方を向き直した。
「相手だって美琴ちゃんの動向を窺ってると思う。そこに兄を名乗る修吾が来れば動揺して尻尾を見せるかと思ったんだけどね」
蕎麦をすすりながら中島は笑っていた。何かこの状況を楽しむかのように。
「相手がわかったら…どうすんだよ」
「僕たちでどうにかしてもいいけど、一番有効なのは綾さんに報告かな。綾さんは国の偉い人にも顔が利くみたいだし、穏便にいくと思う」
「あの人…すげぇな…」
「なんてったって【金剛石の乙女】だからね。……二人ともラーメンのびちゃうよ?」
中島の話を聞いていて箸が止まった二人は、慌ててラーメンをすすりはじめる。中島の細い指がスッと立てられた。
「それよりも、一週間後は期末だよ?大丈夫?」
「あ…」
不安げな声を上げたのは美琴だった。美琴は持前の要領の悪さで成績は中の下あたり。とにかく全教科がそんな感じだった。
「今夜、勉強会でもするか?」
尾関の言葉に美琴の顔がパァっと明るくなった。だがすぐにまた申し訳なさそうな色を浮かべる。
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