ひみつの宝石
第七話 雷と上級生
小さな山の上には大きなログハウスがあり、森林公園に訪れた人々が食事をとる食堂になっていた。雨と雷は激しさを増し、お弁当はこのログハウスでと教頭が拡声器で話している。全校生徒が入れる余裕はさすがにないので、併設されているバーベキュー場も解放された。
どろどろに汚れた美琴は、一緒に食べようという麻里の誘いを低調に断って、テラスの屋根の下に移動した。さすがに雨と雷がすごいので、誰も来る気配はない。先ほどの須見のことも考えたかったし、ちょうどよかった。
「ねぇ、ここ座ってもいいかな」
美琴に声をかけてきたのはジャージの刺繍の色から察するに一つ上の三年生の男子だった。サラサラした髪で、目を細めてにこにこと美琴を見下ろしている。
「…は、はい。どうぞ」
細い目でスッキリとした顔立ちの三年生は、美琴の肘のあたりを優しく掴んだ。
「血、出てるよ」
「え!?」
慌てて腕を振り払って肘のあたりを見てみると、泥にまぎれてうっすらと血が滲んでいる。どうしようかと周囲を見渡しながら肘を抑える美琴に、彼は笑って傍らを指さした。
「あそこに水道あるから洗った方がいいよ」
「あ、本当だ…!」
美琴は水道に駆け寄ると、急いで肘の泥と血を洗い流した。幸い傷は浅く、本当にじんわりとしか血は滲んでいなかった。
「それにしても随分泥だらけだねぇ」
「転んで斜面に落ちちゃったんです。雷に…びっくりしてしまって」
「雷苦手なの?」
「あんまり得意じゃないです。ていうか得意な人の方が少ないですよね」
「そぉ?僕は好きだよ。ピカピカ光ってキレイだし、音も打ち上げ花火みたいで気持ちいい」
「変わってますね。ええと…中島、先輩」
ジャージの刺繍を読むと、彼はまた薄い唇をにぃっと引き上げて笑ってみせる。
「君は…杜田…下の名前は?」
「美琴です」
「美琴ちゃん。よろしくね」
そう言って中島は立ち上がった。細くて大きな手をひらひらさせてその場を去る。初対面のしかも男子の上級生相手にあれだけ会話が弾んだことが不思議でしょうがない。
でも中島はそれを許してしまうような雰囲気があった。中島がログハウスの中に入ると入れ替わるように須見がこちらに来た。須見も美琴同様、泥だらけの姿なので中で食事をするのがためらわれたらしい。
「今の…誰だ?」
「三年の中島先輩」
「知り合いか?」
「ううん、今日初めて喋ったけど…」
尚も中島の後ろ姿を睨み続ける須見に、美琴は首を傾げつつお弁当を開いた。母と一緒に作ったサンドイッチはランチボックスにギチギチに詰め込まれている。見れば須見はコンビニのおにぎりとパンのようだった。美琴はギチギチのサンドイッチを見てから須見の方を向いた。
「須見くん、もしよかったら食べない?」
「いいのか?」
「うん。なんか沢山詰めてあるからちょっと食べきれないなって思って」
「んじゃ、遠慮なく」
「さっきは助けてくれてありがとう」
「…近くにいたからな。別に大したことはしてねえよ」
「でも、ありがとう」
美琴の笑顔に須見はゆるみそうになる頬をなんとか引き締めた。改めて見てみても普通のどこにでもいるような女の子だというのに、何故こんなにも気になるのだろう。
「須見くん、そんなとこで何してんの?」
「あー、泥まみれで中入れねぇから」
「そんなの平気だよ。あっちでみんなと食べようよ」
「あー…でも」
須見がちらりと美琴を見ると、美琴は笑って『行ってきなよ』と呟いた。須見は美琴にもらったサンドイッチを頬張ると『ごちそうさん』と言って中に入って行った。
須見が人気があるのは前からわかっていたことだ。
そう自分を納得させて美琴はサンドイッチを頬張るしかなかった。
どろどろに汚れた美琴は、一緒に食べようという麻里の誘いを低調に断って、テラスの屋根の下に移動した。さすがに雨と雷がすごいので、誰も来る気配はない。先ほどの須見のことも考えたかったし、ちょうどよかった。
「ねぇ、ここ座ってもいいかな」
美琴に声をかけてきたのはジャージの刺繍の色から察するに一つ上の三年生の男子だった。サラサラした髪で、目を細めてにこにこと美琴を見下ろしている。
「…は、はい。どうぞ」
細い目でスッキリとした顔立ちの三年生は、美琴の肘のあたりを優しく掴んだ。
「血、出てるよ」
「え!?」
慌てて腕を振り払って肘のあたりを見てみると、泥にまぎれてうっすらと血が滲んでいる。どうしようかと周囲を見渡しながら肘を抑える美琴に、彼は笑って傍らを指さした。
「あそこに水道あるから洗った方がいいよ」
「あ、本当だ…!」
美琴は水道に駆け寄ると、急いで肘の泥と血を洗い流した。幸い傷は浅く、本当にじんわりとしか血は滲んでいなかった。
「それにしても随分泥だらけだねぇ」
「転んで斜面に落ちちゃったんです。雷に…びっくりしてしまって」
「雷苦手なの?」
「あんまり得意じゃないです。ていうか得意な人の方が少ないですよね」
「そぉ?僕は好きだよ。ピカピカ光ってキレイだし、音も打ち上げ花火みたいで気持ちいい」
「変わってますね。ええと…中島、先輩」
ジャージの刺繍を読むと、彼はまた薄い唇をにぃっと引き上げて笑ってみせる。
「君は…杜田…下の名前は?」
「美琴です」
「美琴ちゃん。よろしくね」
そう言って中島は立ち上がった。細くて大きな手をひらひらさせてその場を去る。初対面のしかも男子の上級生相手にあれだけ会話が弾んだことが不思議でしょうがない。
でも中島はそれを許してしまうような雰囲気があった。中島がログハウスの中に入ると入れ替わるように須見がこちらに来た。須見も美琴同様、泥だらけの姿なので中で食事をするのがためらわれたらしい。
「今の…誰だ?」
「三年の中島先輩」
「知り合いか?」
「ううん、今日初めて喋ったけど…」
尚も中島の後ろ姿を睨み続ける須見に、美琴は首を傾げつつお弁当を開いた。母と一緒に作ったサンドイッチはランチボックスにギチギチに詰め込まれている。見れば須見はコンビニのおにぎりとパンのようだった。美琴はギチギチのサンドイッチを見てから須見の方を向いた。
「須見くん、もしよかったら食べない?」
「いいのか?」
「うん。なんか沢山詰めてあるからちょっと食べきれないなって思って」
「んじゃ、遠慮なく」
「さっきは助けてくれてありがとう」
「…近くにいたからな。別に大したことはしてねえよ」
「でも、ありがとう」
美琴の笑顔に須見はゆるみそうになる頬をなんとか引き締めた。改めて見てみても普通のどこにでもいるような女の子だというのに、何故こんなにも気になるのだろう。
「須見くん、そんなとこで何してんの?」
「あー、泥まみれで中入れねぇから」
「そんなの平気だよ。あっちでみんなと食べようよ」
「あー…でも」
須見がちらりと美琴を見ると、美琴は笑って『行ってきなよ』と呟いた。須見は美琴にもらったサンドイッチを頬張ると『ごちそうさん』と言って中に入って行った。
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