ひみつの宝石
第三話 黒い獣
部室で着替えてる須見がそっと窓の外を見ると、美琴の姿が目に入った。30冊以上もあるノートを運びながら渡り廊下を歩いている。ノートを取り落さないように歩く姿が微笑ましい。
しばらく眺めていたが手伝おうかと思い急いで制服のズボンに足を通した時に、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
美琴に声をかけたのは養護教諭の藤原幸也だった。今年赴任してきたが、若い男の養護教諭は珍しいので女子生徒が騒いでいたのを覚えてる。
藤原は美琴に何か話しかけた後、頭を撫でてからノートを半分持ってやっている。
ただそれだけだ。なのにこの嫌な胸騒ぎはなんだろう。
「…なんか暑いな」
突然身体が熱を帯びたようになり、須見は額の汗を拭った。どんどんと視界はかすみ、もはや立っていられず、須見は床に手をつく。四つん這いのような姿でゼエゼエと息をしていたら、急に体が楽になった。
今のは何だったのだろうと立とうしたら、一瞬しか立てなかった。その一瞬ですらものすごく低い高さまでしか立ててない。
よくよく自分の手を見ると、それは獣の脚のようだった。黒くて短い毛がびっしりと生えている。何かの間違いかと足を持ち上げてみたが、その黒い脚はやはり須見の脚のようだ。
『どういう…ことだ?』
自分の中では言葉になっているが、もう一方でキャンキャンという鳴き声も聞こえる。これが自分の声なのかと思うと耳が垂れてしまう。
ふと【護人】というお伽噺みたいな噂を思い出した。【石人】を護る獣になれる人間。そんなもの信じたこともなかったが、今自分におかれてる状況はそれ以外のなんだというのだろう。
目線の高さからして子犬ぐらいの大きさしかない。自分の脚を見るだけではなんの種類の獣かはわからないが、ドアノブに届かないことだけは確かだった。
『…おい、これ…どうやって外に出るんだよ…』
獣になった姿を誰かに見られたいわけではないが、水も食料もない部室に一晩閉じ込められるというのはいかがなものだろうか。護人の知識がない須見にはこの状態がいつまで続くのかわからない。振り返ると自分の服が落ちていてまるで抜け殻のようだった。
「おい、須見」
監督が部室に入ってきたので慌てて外に出る。監督が後ろで何か言っているような気がするが聞かないようにした。なんとか走ってたどり着いた先にいたのは美琴だった。
探してたわけではない。ただ人のいない方へと走っていただけ。
「…迷い込んだのかな」
美琴は須見の側まで歩いてくると、ゆっくりしゃがんで頭を撫でた。特に嫌なわけではないからされるがままになっておく。
美琴の手の平はすべすべしていて少し冷たくて心地良かった。すぐに離れようとするのでもう少しだけ撫でて欲しくて鼻先を押し当てた。美琴は須見の意図を汲み取ってさらに優しく撫でてくれる。
しばらくその感触を楽しんでいたら、美琴が須見を抱き上げて校門の外に出る。きょろきょろと周囲を見渡しながらしばらく歩くと、美琴は須見を自分の顔の位置まで抱き上げた。
「どうしよう…飼い主さんも特に見当たらないし…」
美琴は頬ずりして楽しそうな声を出した。美琴の柔らかい頬の感触が伝わってくる。
「飼い主が見つかるまで、うちにおいで。ワンちゃん」
美琴の言葉に須見は抱きしめられながら、固まったのだった。
しばらく眺めていたが手伝おうかと思い急いで制服のズボンに足を通した時に、全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
美琴に声をかけたのは養護教諭の藤原幸也だった。今年赴任してきたが、若い男の養護教諭は珍しいので女子生徒が騒いでいたのを覚えてる。
藤原は美琴に何か話しかけた後、頭を撫でてからノートを半分持ってやっている。
ただそれだけだ。なのにこの嫌な胸騒ぎはなんだろう。
「…なんか暑いな」
突然身体が熱を帯びたようになり、須見は額の汗を拭った。どんどんと視界はかすみ、もはや立っていられず、須見は床に手をつく。四つん這いのような姿でゼエゼエと息をしていたら、急に体が楽になった。
今のは何だったのだろうと立とうしたら、一瞬しか立てなかった。その一瞬ですらものすごく低い高さまでしか立ててない。
よくよく自分の手を見ると、それは獣の脚のようだった。黒くて短い毛がびっしりと生えている。何かの間違いかと足を持ち上げてみたが、その黒い脚はやはり須見の脚のようだ。
『どういう…ことだ?』
自分の中では言葉になっているが、もう一方でキャンキャンという鳴き声も聞こえる。これが自分の声なのかと思うと耳が垂れてしまう。
ふと【護人】というお伽噺みたいな噂を思い出した。【石人】を護る獣になれる人間。そんなもの信じたこともなかったが、今自分におかれてる状況はそれ以外のなんだというのだろう。
目線の高さからして子犬ぐらいの大きさしかない。自分の脚を見るだけではなんの種類の獣かはわからないが、ドアノブに届かないことだけは確かだった。
『…おい、これ…どうやって外に出るんだよ…』
獣になった姿を誰かに見られたいわけではないが、水も食料もない部室に一晩閉じ込められるというのはいかがなものだろうか。護人の知識がない須見にはこの状態がいつまで続くのかわからない。振り返ると自分の服が落ちていてまるで抜け殻のようだった。
「おい、須見」
監督が部室に入ってきたので慌てて外に出る。監督が後ろで何か言っているような気がするが聞かないようにした。なんとか走ってたどり着いた先にいたのは美琴だった。
探してたわけではない。ただ人のいない方へと走っていただけ。
「…迷い込んだのかな」
美琴は須見の側まで歩いてくると、ゆっくりしゃがんで頭を撫でた。特に嫌なわけではないからされるがままになっておく。
美琴の手の平はすべすべしていて少し冷たくて心地良かった。すぐに離れようとするのでもう少しだけ撫でて欲しくて鼻先を押し当てた。美琴は須見の意図を汲み取ってさらに優しく撫でてくれる。
しばらくその感触を楽しんでいたら、美琴が須見を抱き上げて校門の外に出る。きょろきょろと周囲を見渡しながらしばらく歩くと、美琴は須見を自分の顔の位置まで抱き上げた。
「どうしよう…飼い主さんも特に見当たらないし…」
美琴は頬ずりして楽しそうな声を出した。美琴の柔らかい頬の感触が伝わってくる。
「飼い主が見つかるまで、うちにおいで。ワンちゃん」
美琴の言葉に須見は抱きしめられながら、固まったのだった。
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