銀河を、この手のひらに。

巫夏希

第8話



 エルムについていくと、外に出た。
 久方ぶりの外の気がする。外の空気はとても冷たかった。
「……君は成し遂げなくてはならない。大きな出来事ではあるが、それを成し遂げることで結果として世界は大きく変わると思う」
「大げさな」
「果たして、私が冗談でそんなことを言う人間に思えるかね?」
「いいえ、まったく」
「だろう。そうだろう。私はただの人間だ」
 初めて会ったのにエルムという男は少々慣れ親しんでいた。その一方的なそれが正直鬱陶しかったが、今はそれを言う必要もない。
「人間はかつて科学力を盾に壮大な権力を誇った。だが、それも今は昔のことだ。ある出来事をきっかけに、あっという間に衰退してしまった。……それは、何だと思う?」
 エルムの話は初めて聞いたことだったが、意外にも直ぐにその答えが導き出すことが出来た。
「……戦争、か?」
「おや、知っていたのか?」
「いいや、ただの偶然だ。それ以上でもそれ以下でもない」
 私はそう取り繕ったが、しかし何故に直ぐその答えが出せたのかは、正直なところ解らないままでいた。
 エルムの話は続く。
「……我々人間が主体とした世界は、あまりにも長い時間続いた。しかし、ある時……それは些細なきっかけに過ぎなかったが、大きな戦争が勃発した。西と東の大国に軋轢が生じ、世界全体を取り込んだ戦いになった」
「……それで世界が滅んだ、と?」
「未だ話は終わっていない。ある時、東の大国があるものを搭載したロケットを放った。それは貪欲で失望させる、人々にとってはただの絶望でしかないそれを、東の大国は最後の手段として使った。そうしてそれが弾けると、たくさんの人間が死に、また死ななかった人間も強い後遺症に苦しめられた。ひどい、ひどいことだった。西の大国もそれに対抗してそのロケットを放った。そういうことを何回も続けているうちに……この惑星の環境は汚れてしまったのだ、とても我々が住めるもんではなかった……それくらいに」
「そんな、ひどいことが」
 あったというのか。
 起きたというのか。
「……あとはどうなったのかは解らない。残された人間は近くにある星に避難した。いつの日にか空気が浄化され、人間が再び住めるような世界を望んで、な」
「……まるでその口振りだと、経験したことをそのまま話しているようにも聞こえる」
「事実だからな」
 ……私はエルムの言葉を聞いて耳を疑った。どういうことだ? 人間の寿命はせいぜい百年くらいであると文献で読んだことがあるが……人間がそこまで生きることがあるというのだろうか。
 そもそも、その戦争とやらがどれくらい昔にあったのか、私たちロボットには解らない。私たちがこの惑星に来た時には、既に人間は滅び荒廃した土地となっていたのだから。

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