銀河を、この手のひらに。
第7話
「私は軍の存在だ。それがどうかしたか?」
『お前は……まったく仲間が居ない。にもかかわらずどうしてお前はこの場所を脱獄できる?! お前なんぞ、ここを出ても意味はないだろう』
ロボットは精神的に私を煽ってくる。
果たしてロボットに『精神』という概念があるのかは解らないが、その話を聞いているとどこかがむずむずしてくる。どうやら、ロボットに精神という概念があるのかもしれない――と私にそれを思わせた。
「……私は彼女に銀河を見せてやりたいんだ」
そのロボットに言っても叶うはずはないのに。
そのロボットに言ってどうなるか、結果はわかり知れたことであるというのに。
私はそれを言った。
ロボットは私の言ったことを噛み砕いて――そして、豪快に笑った。
『ぎんが、銀河を手に入れる? ハハハ、そいつは面白い!! それだけの理由でここから脱獄し、市民権を擲つか!』
「それだけの理由、ではない」
もっと、もっと、もっと。
それこそ言葉では語りきれないほどの理由がある。
だが、それは。
このロボットに言っても、無駄なことだ。
『さあ――死ね』
拳が――振り翳される。
私は死んでしまうのか。
彼女が死んだ、世界に別れを告げるときが、もうやってきたというのか。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
彼女に銀河を見せるまで、銀河をこの手のひらに置くまで。
それまで諦めるわけにはいかなかった。
「――おい」
その時だった。
私たちの前を古いロボットが通りかかったのだ。
そのロボットは、しかし古い型式の割には声がなめらかだった。
『どうした?』
「そのロボット、管轄が変わってね。私の管轄になったんだ。だから君は去ってくれるかな?」
『……仕方ねえ』
そう言ってそのロボットは――正確には古いロボットの話よりもロボットの肩につけられた三ツ星の徽章を見て――去っていった。
三ツ星の徽章。これは『管理責任者』をさす。
牢獄のブースでも、軍の指揮官でも、これをつけている。ぎゃくにこれをつけていないロボットは管理責任者ではなく、ただのロボットということになる。
大きなロボットが去っていくのを見て――ようやくその古いロボットはため息をついた。
「大丈夫か?」
そして私に優しく声をかけてくれた。
それで私は、そのロボットが味方であると確信した。
「……あなたは?」
「まあ、ここで話すのも何だ。ここを脱出しよう。話はそれから」
「…………わかりました」
私は話したいこともあったが、一先ずそのロボットのことに従うこととした。
「きみを助けてくれたレンくんにスロウスさん。彼らも生きている。だから安心してくれていい」
暫く無言で歩いていたそのロボットは、開口一番そう告げた。
「どうして、知っているんですか」
「私はこの時をずっと待っていたのだよ」
私の質問には答えてくれなかった。
「失礼。わたしの名前はエルムだ。君たちの敵ではないということだけは伝えておこう」
そう断って、エルムは話を続けた。
「私はずっとこの時を待っていたのだ。それはどれほど前かは解らない。だが、きっと居ると信じていた。『異星人と我々を繋ぐ』存在を」
「……ちょっと待ってください」
そこで私はひとつの疑問が浮かび上がってきた。
そして、その疑問の答えは、恐らく――。
「さよう」
その答えを思いつくまもなく、エルムは私の方を振り返った。
「私はニンゲンだ。君の思い浮かんだ通り、ね」
エルムはそう言って被っていた帽子を外した。
『お前は……まったく仲間が居ない。にもかかわらずどうしてお前はこの場所を脱獄できる?! お前なんぞ、ここを出ても意味はないだろう』
ロボットは精神的に私を煽ってくる。
果たしてロボットに『精神』という概念があるのかは解らないが、その話を聞いているとどこかがむずむずしてくる。どうやら、ロボットに精神という概念があるのかもしれない――と私にそれを思わせた。
「……私は彼女に銀河を見せてやりたいんだ」
そのロボットに言っても叶うはずはないのに。
そのロボットに言ってどうなるか、結果はわかり知れたことであるというのに。
私はそれを言った。
ロボットは私の言ったことを噛み砕いて――そして、豪快に笑った。
『ぎんが、銀河を手に入れる? ハハハ、そいつは面白い!! それだけの理由でここから脱獄し、市民権を擲つか!』
「それだけの理由、ではない」
もっと、もっと、もっと。
それこそ言葉では語りきれないほどの理由がある。
だが、それは。
このロボットに言っても、無駄なことだ。
『さあ――死ね』
拳が――振り翳される。
私は死んでしまうのか。
彼女が死んだ、世界に別れを告げるときが、もうやってきたというのか。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
彼女に銀河を見せるまで、銀河をこの手のひらに置くまで。
それまで諦めるわけにはいかなかった。
「――おい」
その時だった。
私たちの前を古いロボットが通りかかったのだ。
そのロボットは、しかし古い型式の割には声がなめらかだった。
『どうした?』
「そのロボット、管轄が変わってね。私の管轄になったんだ。だから君は去ってくれるかな?」
『……仕方ねえ』
そう言ってそのロボットは――正確には古いロボットの話よりもロボットの肩につけられた三ツ星の徽章を見て――去っていった。
三ツ星の徽章。これは『管理責任者』をさす。
牢獄のブースでも、軍の指揮官でも、これをつけている。ぎゃくにこれをつけていないロボットは管理責任者ではなく、ただのロボットということになる。
大きなロボットが去っていくのを見て――ようやくその古いロボットはため息をついた。
「大丈夫か?」
そして私に優しく声をかけてくれた。
それで私は、そのロボットが味方であると確信した。
「……あなたは?」
「まあ、ここで話すのも何だ。ここを脱出しよう。話はそれから」
「…………わかりました」
私は話したいこともあったが、一先ずそのロボットのことに従うこととした。
「きみを助けてくれたレンくんにスロウスさん。彼らも生きている。だから安心してくれていい」
暫く無言で歩いていたそのロボットは、開口一番そう告げた。
「どうして、知っているんですか」
「私はこの時をずっと待っていたのだよ」
私の質問には答えてくれなかった。
「失礼。わたしの名前はエルムだ。君たちの敵ではないということだけは伝えておこう」
そう断って、エルムは話を続けた。
「私はずっとこの時を待っていたのだ。それはどれほど前かは解らない。だが、きっと居ると信じていた。『異星人と我々を繋ぐ』存在を」
「……ちょっと待ってください」
そこで私はひとつの疑問が浮かび上がってきた。
そして、その疑問の答えは、恐らく――。
「さよう」
その答えを思いつくまもなく、エルムは私の方を振り返った。
「私はニンゲンだ。君の思い浮かんだ通り、ね」
エルムはそう言って被っていた帽子を外した。
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