銀河を、この手のひらに。
第3話
2
「僕の名前はレンという。まぁよろしく頼むよ」
私の捕まっていた牢獄はどうやら塔をまるまる使っていたらしい。物見の塔としてかつては使っていたらしいが、そんな平和な時代に使う必要も無くなったためか、改装され牢屋になったとのことだ。
今私たちは屋根の上に乗っている。夜は見回りがあまり来ないので大変隠れやすい。そして作戦会議をするときに彼が自己紹介を始め――そして話は元に戻る。
「僕はスロウスの兄だ。ロボットに兄が居るのもおかしな話だがね」
「同じケースに入っていた『心臓』を使っていればそいつは兄弟だ。私なんてそれで何十体も居るぞ。本物か偽物か見分けがつかなくなってしまったくらいだ」
心臓は製造ラインで同一ケースのものを使うことがあるらしい。生産コストを切り詰めるために、各パーツは色んな工場で作られるのだが、梱包されて送られてきたときにそのパーツは(CPUを除いて)ある決められた個数の入るケースに収納されている。
そのケースに入っているパーツ――特に私たちロボットの動作に必要な『心臓』などはあるパターンによってそのケースに詰められていることが多く、型式もそのようにナンバリングされるのだという。
……と、そんな長ったらしいモノローグはどうでもいい。作戦会議をしなくてはならない。
「……あんた、ここから出るだけが目的なのか?」
不意にスロウスからそう言われ――思わず私の思考は停止した。確かに、そうだ。果たして私はただここから脱獄するだけでいいのだろうか?
それでは、意味がない。犯罪者の烙印を押されたままだ。
私には未だ、やり遂げねばならないことがある。
「やっぱあんたはその目がいい。あんたは何だかロボットらしくない目付きをしているよ。なんというか……熱意がある」
「そうか? 私はいつもこのような感じだが。まったく普通だ」
「ずっと生き残りのニンゲン隠しておいて何が普通だよ、ヘドが出る」
そう言って、スロウスは笑った。
スロウスも私も、それぞれが出会って大分経つ。私が彼女にニンゲンのことを話したのは本当につい最近のことだ。彼女ならば話しても問題ない……と思ったからだ。
「……確かに私はロボットに対して悪いことをしてしまったのだろうか」
私の頭の中ではそんな疑問が続出していた。
何で、どうして、私は牢屋に閉じ込められなくてはならないのか。彼女は本当にニンゲンとして、ロボットに仇なす存在だったのか。
どちらにしろ、私は彼女にしてやれなかった。
手のひらに広がる銀河を見せてやることが出来なかった。星空は綺麗なのに、人工的な明かりがそれを遮るのだ。なんとも滑稽で、なんとも悲しい話だ。
「銀河を……この手のひらに……」
気が付けば私は、その言葉を呟いていた。
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