銀河を、この手のひらに。
第1話
私はロボットだ。
私たちロボットはロボットによって作られる。
しかし、その最初はどうなるのだろうか? ロボットによるロボットの作成……そんなことを最初まで遡れば、いったいロボットの元祖とも呼べる存在は誰が作ったのだろうか?
ロボットならば誰しもが疑問に思うはずなのに、誰もそれを口にしたことはない。
ロボットの元祖となる存在は、いったい誰が作ったのか?
私は朧げではあったが、その正体を掴んでいた。
人間だ。人間が私たちを作ったのだ。
だとするならば、私たちはなぜ人間を拒んでいるのだろうか。
人間は、言わば我々からしたら創造主だというのに、どうしてロボット――私たちはそれを拒んでいるのか。
人間を見つけた時のあの狂うほどの殺意はいったい何だというのか。
私がおかしくて、彼らが正しいのか。
私が正しくて、彼らがおかしいのか。
「解らない……」
私はついそれを口に出してしまった。油断していた……というよりか考え事をしていたから、それ以外のことに気が回らなかったということだ。
運良く見張りにはばれることなく、私は小さくため息をついた。今の私は何か一言発しただけで罰が与えられる、非常に理不尽な存在である。
そもそも、私がどうして捕まっているのかも理解し難い。
人間を匿っていたからだ――そんなことを警察官に言われてもピンと来なかった。目が見えない彼女が、私たちの脅威だというのだろうか? 寧ろ彼女は私を人間を思っていたのだ……などと言っても信じてもらえるわけもなかった。ドラマで観た、弁護士の登場シーンもこの様子だと無さそうだ。
すなわち今から私はみすみす私が破壊されるのをただ待つだけということになる。
明かりは上にある隙間だけ。それだけで、今が昼なのか今が夜なのかを把握する。時計機能が標準装備な私たちロボットに対してそんなことは無価値だが、何もすることがない私にとってそれは数少ない楽しみだった。
そんなことは一週間もすれば大抵把握出来てしまい、時計機能を使わずとも時間が把握できるところまで極めた。
無意味なことに価値を見出だすことの継続性がこれほど迄に難しいのか。私はそれを至極思い知った。
だからとはいえ、未だ私は諦めていなかった。
私の蒔いた種は必ず実る。
そう、必ず。
△
私が彼女のことを教えたのは、私が心を許したロボットだけだ。人工物が『心』というそんな不確かな物を語るとなると、些かおかしな話ではあるが今は特に話す必要もないだろう。
スロウスと出会ったのは中心街から一本入った小さなバーでのことだった。カウンターを含めて面積は一テクス程度、とてもこじんまりとした店だ。そういう店だから座るスペースも少なく三人(三体、といった方が正しいだろうか)も座れればいいくらいだ。実際に椅子も三つくらいしかなかった。
そんな小さなバーだったが、しかし出る料理と酒は格別だった。普通こんなバーが出来たとしたら、口コミに次ぐ口コミで店は大盛況を遂げるはずだ。
しかしそれが無い……それはどういうことなのか。
元々店主がそれを嫌っていたというのもあるが、場所が路地裏というのもあり、あまり場所を教えたくない客が多いからだろう。現に私もそうだった。
その日、私はいつものように酒を飲んでいた。私たちの主食はオイルだが、嗜好品として酒など飲むことが出来る。最近はめっきり見かけなくなったが、煙草を吸っているのもいる。そういうロボットは昔に比べると見なくなったのもまた、事実ではあるが。
バーに入ってきた彼女は、煙草を吸う珍しいロボットだった。はじめにマスター、そして私に一つ詫びて煙草に火をつける。
ほの暗い店内に、ぼんやりとした一つの明かりが灯った。彼女が煙草を吸うとそれは煌々と輝き、そして彼女は口から煙を吐いた。
煙草というものは昔人間も嗜好品として使っていたようだったが、人間にとって悪い影響ばかりだといって、徐々に廃れていったらしい。我々がこの星に降り立った時には既に人間は居なかったが、その煙草の葉っぱと、生産法だけは遺されていた。
初めて煙草を吸ったロベルト・グロツェール博士曰く、その煙は初めこそ気味が悪いがそれを乗り越えればロボットも虜になるに違いない、とのことだった。
ロベルト博士はその後も煙草の研究に没頭し、その数年後に『死んだ』。空気を通すパイプが詰まり、エンジンがオーバーヒートを起こしたのだ。ロベルト博士は最後に「これは人類の最強で最凶の研究」だと遺した。
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