手紙をあなたに……(ゾンビ世界で)

鬼怒川 ますず

5年ものサバイバル


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3、2、1……!

心の中のカウントダウンと共に私は物陰から姿を出し、となりの転がった車の陰にすぐに身を隠す。

ゾンビは気付かないようだった。

私はそれを確認すると忍び足で車の陰から出るとそのままガラスの散乱したスーパーに入り込む。
中にもゾンビが大勢いた。
だが私には怖くもない。
私は忍び足でスーパーの奥まで進み、腐敗した生鮮とは反対の缶詰や瓶に入った商品を静かに丁寧に入れる。

ソーッと…ソーッと。

やがて十分に入ったカバンを紐で縛ると、音がならないように慎重に滑らすように腕を通して背負う。

そしてさっきと同じように、静かに歩きながら店を出る。
そして暗闇にまぎれ込み、いつもの10階建てのマンションの窓から吊るしてある紐を辿りながら慎重に登る。

部屋に入ると息を吐いて生きた心地を味わった。

「疲れた…」

私が呟くその声に答える人はいない。
虚しくなった私はいつも通り持ってきた食料からジャム瓶を取り出して開けると、スプーンでチビチビと舐めながら食す。



世界中で生物兵器が蔓延してから5年も経った。
世界中で同時多発的に起きたこの兵器の前に誰も為すすべもなく、世界は死体だらけとなってしまった。

成長した私は今では27。
このマンションの5階から下を封鎖し、上階のゾンビを排除して根城にしたのも5年前のことだ。
あれから一向に変わらない。

もちろん何度も救助隊に救助を要請した。
だが救助隊はこちらに来る前にトラブルを起こし、今では音沙汰すらない。
新しい交信があったのはもう3年前で『我々は全滅する』といった内容だったのもまだ耳に残っている。

水や食料は近くのスーパーで調達してきていたが、流石に日が経って腐り始めていた。
水は手製の浄水装置で浄化させてから沸騰させてから飲み、食料に関しては火を通して食べるのが殆どだ。
だが、最近の私はもうどうでも良くなっているせいかジャムや缶詰をそのまま食べていた。

火だってもう油が少ない。
近くのスーパーも最初の騒動の際に生活必需品はほとんど持って行かれたが、缶詰コーナーでゾンビに発症した誰かのせいで幸いにも手付かずになっていた。

ゾンビについてはもう慣れた。
奴らは目視で標的を確認すると追いかける。
だが暗闇では区別ができないようなので、そのため私は行動する時は夜に絞っている。
次に耳が良い、金属を落とした物音で一斉に寄って来る事もある。
私はそれらをこの5年のうちに学習し、全てを利用しながら生きてきた。

まだメカニズムについては未知ではあるが、いずれは機能不全になったゾンビから倒れて消えるだろう。

私はその日を待ちながら、1日1日を過ごす。
このまま一生を終える覚悟もあった。
だがそれは老衰での話でもあった。

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