ブレイブ!

桃楓

13

(昨日、回復術使いすぎたかな?身体が少し重い…)そう感じて、座ろうとすると、シュウを呼ぶ声が聞こえて、また立ち上がる。さっきから、座れてない。試験が進むにつれ、忙しさがましてくる。
 テルが救護室についた時は、もうバタバタして居た。
「悪い。シュウを貸してくれないか?5分で良いから。」
シュウの次に仕切っていそうな子に声をかけた。テルに声をかけられて、その子はほおを赤らめてしたを向いて呟いた。
「…ちょっときついけど、5分だけなら、大丈夫です!」
「助かる!これやるから、少し耐えて」そういうと、持って来た飲み物を差し出した。その子は、嬉しそうに受け取ると、任せて下さい!と胸を叩いた。
それを確認すると、すぐシュウにかけ寄った。テルに気づくと驚いた顔をした。
「どうして?怪我でも…」言い終わらないうちに、テルはシュウを抱き上げた。シュウは驚いた顔でテルを見上げる。視線に気づいて
、ニコッと笑ってシュウを見た。
「5分、シュウを借りるって、あの子に言ったから」さっきの子を指差した。頼まれた直後から、その場を仕切っている。
「でっ、でも、授業中だしっっ」シュウが慌てて言い返したが、テルは無視して救護室の外にあるベンチに降ろした。
「大丈夫じゃないだろ?顔色最悪。何飲みたい?」ベンチの隣にある自販機に向かった。
「顔色っ?そんな悪いかなっ?あ、飲み物自分で買うからっ…」ベンチから立ち上がろうとするシュウに、テルはスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。
「うそ。そんなに顔色は悪くない。俺が連れ出したかっただけ」シュウは、観念したかの様にありがとうとつぶやくと、差し出されたドリンクを受け取った。それと同時に時計をみると、1時間座れて無かったことに気がついた。貰ったばかりのドリンクを額にあてた。
(冷たく気持ちいい…あ、お金…財布もってたっけ…)目を閉じると何も考えられなくなった。
 上を向いて額を冷やしたままのシュウをテルが見つめている。さっきまで、走り回って指示を出していたせいか、頰が薄っすらピンクに染まっている。白い首筋に汗が一筋流れた。上を向いてるせいで、胸がさらに強調された。体操服から胸元がのぞく。
よっぽど疲れているのか、その体制からしばらく動かなかった。テルが隣に座っても、気づく様子もなく、体制を全く崩さない。
(…無防備すぎ。襲う気になれば、すぐ押し倒せるな…。しないけど…。てか、やっぱり疲れてるじゃん。)
「…テル君の方がつかれてる?ボーっとしてるけど、大丈夫?」シュウがドリンクを一口飲んで、話しかけた。
「俺は全然。…てか、シュウ頑張り過ぎじゃね?回復術とか、シュウが一番すごいのは
わかるけど、今だって、シュウが居なくても、普通に回ってんじゃん。他人に頼って休めよ」うわ、すごい偉そう。俺何目線で言ってんだろ。やばいと思って口を覆った。
「昨日大変だったのは、私たちだけじゃないから。みんなも、駆り出されたし、遅くまで手当もしてたし。私が出来ることは、私がしたいの。」シュウは、まっすぐにテルを見て言った。
(やばい、怒らせた。)テルは大きな溜め息をついた。シュウはいつもどおり、ニコッと笑ってテルにドリンクを差し出した。
「無理はしてないよ。ありがとう。ごめん、そろそろ行かないと…」
(そんな事、言わせたかったわけじゃない…。無理してても、シュウは言わないだろ?) 
「そうじゃなくて…」思わずシュウの手を取った。握った力が、あまりに強かったのか、シュウは少しよろけた。それを、受けとめるとそのまま抱き寄せた。
「心配なんだ。もっと俺を頼れよ。…助けるから」シュウが驚いた顔でテルを見上げた。
(やばい…。何言ってんだろ。彼氏のつもり?)抱き寄せたまま、顔を上げることが出来ない。すると、シュウの笑い声が聞こえた。
「テル君が、天使族だったら、最強だね。ありがとう。本当に大丈夫。ごめんね、よろけちゃって。受け止めてくれてありがと」焦っている様子もなく、またいつも通りの笑顔。
握った手を離すと、小さく手を振って救護室に戻って行った。
(…何やってんだろ)テルは足元に転がったドリンクに視線を落とした。
***
 アスカは、ゼルの試験会場に到着した。ゼルの課題モンスターは、ドラゴンだ。窮屈な檻に入れた状態で暴れまわっている。重量タイプの巨大なモンスター。
 ゼルはグローブをはめた。
『準備はいいですか?』アナウンスが流れると、ゼルは手を挙げた。その合図と同時にドラゴンの檻が開き暴れまわっていたドラゴンが会場に放たれた。ドラゴンは一直線にゼルに向かって急降下してくる。ゼルはそれをひらりと交わした。会場には、砂煙りが巻き上がった。
「ドラゴン相手に素手でなんだ…。」。いつの間にか、隣にユリアとレイが立っていた。
「あの子は、武器を使わないタイプみたい。昨日も、素手で戦ってたから」
「ブラックドラゴン…スピードタイプのドラゴンだぞ?」レイが言った。確かにドラゴンは、体当たりに失敗すると、すぐに方向を変えて、またゼルに体当たりを仕掛ける。ゼルが途中方向を変えると、動きをすぐ修正して襲い掛かる。
「地上戦は無理っぽいな。ユリアのスピードなら付いていけるだろうけど」レイが言うと、ユリアは照れたように頭をかいた。
「はいはい、分かった分かった。」アスカは、イチャつく二人を尻目に、呆れ顔でゼルを見た。
ゼルは会場の真ん中で、止まっている。まるで攻撃を待っているように…。次の瞬間、ゼルめがけて、ブラックドラゴンが急降下した。すんでの所でドラゴンのツノを両手で受けとめると、そのまま地面に叩きつけた。
凄まじい音と、土煙がまきあがる。視界が悪く、ゼルとドラゴンがよく見えない…。
 もう一度、ドスンと凄まじい音がしたかと思うと、今度は黒い煙が上がった。
「…倒しちゃったね」見物人の多くが息を呑んだ。周りがザワザワしてるのがわかる。
『ゼル・フィン7分52秒、Sクラスモンスター、討伐』終了のアナウンスが流れると、試験会場の扉が開き、ゼルが出て来た。ゼルはアスカの姿を見つけると、急いで走って来た。
「あなた本当に強いのね。驚いた…」アスカが声をかけると、にっこり笑った
「ずっとアスカさんに追いつきたかったんです。」
「なんで…」
『Aクラス、アスカ・ミシナ…』アスカが問いかけようとすると、同時にアナウンスが流れた。
「次は、アスカさんですね。また後で!」それだけ言うと、3人の前から姿を消した。

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