ブレイブ!

桃楓

11

*  *  *
 時間が経つと、周りも大分落ち着いてきた。怪我の治療を終えたものはそのまま歩いて帰ったし、簡易ベッドに寝かされた人は、付き添いと一緒に学校中の救護室に運ばれた。ユリアも、レイと一緒に個室の救護室に、救護員と一緒に入っていった。
「多分、気を失ってるだけだと思うけど…。一応、怪我の治療はしたので、様子が変わったら呼んで下さいね。」
  レイに起きる気配はない。もう、目を覚まさないんじゃって程、グッスリ眠っていた。セイレーンの謳が効き過ぎたんじゃないかという不安もあった。目がさめる事を待っているうちに簡易ベッドにもたれかかって眠ってしまった。
  どれ位、眠っただろう。レイのうめき声が聞こえて目が覚めた。
「…ユ…リア?」レイの声を聞いた瞬間、涙が溢れた。今までの不安が吹っ飛び、身体を起こそうとしているレイに飛びついた。起きたばかりで腕に力が入らず、2人そろってベッドに倒れこんでしまった。
「良かった…。もう、目を覚まさないんじゃないかと思った」泣きながら抱きつくユリアを、レイは押し戻した。
「怪我は…俺がユリアを攻撃しなかったか?」
「そんな事するわけないぢゃん!」
冗談かと思い、笑いながら言ったが、レイは哀しそうに俯いた。
「…俺は、いつもこうなる。戦いに熱くなりすぎると、魔力が暴走して何を攻撃してるか分からなくなる。
」ユリアはうつむくレイを抱きしめた。
「大丈夫…。レイはみんなを守ってくれた…。それだけだよ」レイはユリアの腕を外し、首を振った。
「ごめん、ユリア…。嫌われたくなくて、嘘ついてた。本当は、魔力の暴走じゃない。俺の中から、違う人格がでてくるんだ。」
「違う人格?」
「聞いたことないか?悪魔族の中には、悪魔が住み着いてるって事…。大抵の悪魔族は、その人格が出てくることはない。悪魔本来の血はもうすっかりうすまっているから、その人格も弱い。だから、悪魔が表に出てる事はほぼ無くて忘れられている。」
「…知らなかった」
「魔力が強い者ほどその人格が強い。闘いで熱くなると、余計に悪魔の血が騒ぎ、押さえつけられなくなる。だから、戦いになる実践ルームは避けてた。」レイは、自分の手をジッと見つめた。
「この手で、何人も大切な人を傷つけた。自分で傷つけたことも、分からないんだ。」静かに話を聞いていたユリアは、レイの手を両手で優しく包み込んだ。小刻みに震えたレイの手を自分の頬へと導いた。
「…レイが私を守ってくれたように、私がレイを守るから。」ユリアはもう片方の手で、レイの頬に触れた。
「悪魔化しそうになったら、私がまた歌うよ。」
「歌?」
「…レイが秘密を話してくれたから言うね」ユリアは、そう言いながらも、ゆっくり目を閉じた。テルが聞いてたら、絶対に反対するだろうな。
「私、凄く歌がうまいの。自分の感情を歌に込めると、聞いた人がその通りに動いてしまうの。」レイは不思議そうに、ユリアを見つめた。どうやら、まだ答えに辿りついていないようだった。
「…例えばね、さっきはレイが落ち着くようにっ!て思いを込めて歌ったの。そしたら、レイは悪魔化しなかったよ。」
「…まさか」レイは何かに気づいたように息をのんだ。
「…セイレーンなのか?」驚いた表情で、ユリアを見た。ユリアは微笑んでうなづいた。
「20年前の世界戦争のセイレーンは私のママなの。私はその血を受け継いだの。もう、この世にいないんだけどね…」沈黙が怖くて、レイの反応が怖くて、ユリアは話続けた。
「パパも、テルも絶対に誰にも話したらダメだって言ってた。力も人前で使ったらダメだって」まだ、レイは何も言わない。
「…でも、話しちゃったね。」苦笑いで言うと、レイがユリアを抱きしめた。いきなり抱きしめられて、身体が固まってしまった。
「テルに怒られるな」レイの言葉に、緊張の糸がほどけた。
「…そんな事、知りたくないって言われるかと思った。」
「言うわけない…でも、凄い秘密で焦った。まさか国家レベルで隠してるような秘密だと思わなかった。」
「…今までと変わらず接してくれる?」
「変わらない。俺がユリアを護るよ」  
ユリアはレイの背中に腕に腕を回した。
「私も、レイが悪魔化しそうになったら助けるね。」
「ダメ。ユリアが狙われるから」そう言うと、レイはユリアの顔を上げ、優しくキスをした。唇をはなすとユリアの目をジッと見つめた。
「ユリアに力を使わせない」まるで自分に言い聞かせるように、強い口調で言い、ユリアにもう一度キスをした。
何度も…何度も…
息の出来ないくらいの激しいキスに、身体の力が抜ける…。崩れ堕ちそうな身体を支えようと、レイの背中に回した手に力が入る。ユリアの反応を探るように、舌を絡ませる。
「っん…」唇から声が漏れた。その声を聞いて、さらに激しく絡ませるる。静かな教室にその音が反響して余計にやらしく聞こえた。
(キス…うまいな)そんな事を考えていると、レイの手が自然に胸に伸びた。服の上から優しく触れられる…ユリアは慌て唇を、離した。
「んっっあっそこはダメ!てか、何でそんなに慣れてるのっ!」
「…そんな事知りたい?」レイが不適に笑って、もう一度キスをした。いつものレイじゃないっ!と言おうとしたが、舌を入れられて口を塞がれた。
 いつの間にか、ユリアは、さっきまでレイが寝ていたベッドに押し倒されていた。レイがユリアの制服のボタンを外そうとし時、スマホの大きな音が鳴り響いた。
「あっ…鳴ってるよ!」
「…無視で」
「無理むりっ!だってテルだよ!怪しまれるよ!」レイの脱ぎ捨てられた制服からはみだしたスマホの画面には、番号が映し出されていた。
「教えて無いんだけど…何で番号知ってるんだ?」
「アスカかな?一緒にいるのかも!」レイは大きなため息をついて電話に出た。その間に、ユリアは急いで起き上がり、制服の乱れをととのえた。電話口からは、テルのやっと出たか。という、大きな声がした。
「お前、どの救護室に運ばれた?」
「…何で言わなきゃいけないんだ?」
「ユリアも、いるんだろう?」レイがユリアの顔をみると、不安そうな顔をしている。
「ああ…。悪魔化してた事も、ユリアに聞いた。ユリアが俺を助けてくれた事も。」
「…お前なら、気づいただろ?」
「…ああ。その話はしなくていいだろ?いま、3階B棟の救護室だ。」レイはそう言うと電話を切った。ユリアをちらりと見ると、暗い顔をしてベッドの上に座っていた。
「今から、3人が来るらしい。俺が謝るから。ユリアは何も言うな」ユリアの乱れた髪を優しく撫でるレイは凄く頼もしく見えた。ユリアはレイの肩に頭を預けた。
「ありがとう…」出会ってからそんなに時間は経ってないはずなのに、レイの傍が一番落ち着く場所になっていた。ユリアはレイの手を握りながらそう思った。
「…さっきは…ごめん」何かを思いつめたように、レイが謝った。
「えっ?何がっ?」ユリアに聞かれると思って無かったのか、目を丸くして咳払いをした。それから少し間が空き、小さな声で呟いた
「…触った事…」
「えっ…?」…胸の事っ!?思い出すと顔が赤くなった。
「わっ、私の方こそ、小さくてごめん!」何が何だか分からなくなって、変な事をくちばしってしまった。 それを聞いたレイは肩を揺らして笑っている。ユリアは更に顔が赤くなった。
「笑う事ないじゃん!大体レイが悪いんだよ」手をグーにして、レイの胸を殴るがまだ笑っている。
「何が悪いんだ?」レイは意地悪に聞いた。
「〜っもう、本当に怒るよ!」ユリアが頬を膨らませると、やっと笑うのを止めて、悪いと呟いた。
 ガラっと扉が開き、テル達が入ってきた。入った途端に、テルはユリアを睨みつけた。レイが、ユリアを自分の後ろに追いやり、壁になってくれた。
「…大丈夫か?」テルはレイを睨みながら言った。
「ああ。大丈夫だ。休ませてもらったからな」
「お前、戦いですぐああなるのか?」
「戦いに熱中しすぎると、悪魔化する。…今回は、俺の力が追いついて無かった」テルはため息と共に首を振った。
「いや、レイがいなかったら、正直俺もヤバかった。Sクラスのモンスターあの量は、さすがに無理。」
「テル君、私達を護りながらだったから…。」シュウは気を使いながら言った。テルはシュウの頭を、ポンと叩く。
「違うって。量の問題。でも、何であんなに強いモンスターが?」テルの問いかけに、シュウもレイも不思議そうに首を傾げた。
「…さっき、ティアーナが言ってたんだけど。」アスカが静かに呟いた。ティアーナは、一応情報通で通っている生徒だ。どこからか、色々な情報をどこからか仕入れてくるが、それなりに信憑性がある。
「…部外者がモンスターを変異させた可能性が高いらしいよ。」
「どうやってだよ」レイが最もな質問を投げかける。
「分からないわよ。今調査中らしいけど、テル達が倒したモンスター…変じゃなかった?」変?アスカに言われて言われて全員が考えこむ。テルはハッと気がついて、顔を上げた。
「!そういえば、モンスターを倒しても、モヤにならない奴がいた!」
「でしょ?そんなの、自然界にもいないじゃん。ましてや、この実践ルームのモンスターは、人間を襲った駆除対象だよ。連れて来る場所だって、世界中色々な所だし…」
「でも、誰が何のために…?」シュウが呟いて考えこむ。ユリアとテルはハッとした。もしかしたら、セイレーンの力を試したかったから?
「傭兵学校だ。邪魔に思ってる奴もいるだろ。政府機関だし、今の政府に不満を持ってる奴が襲うには、格好の場所だろ?」レイが冷静に呟く。さすが、頭の回転が速いうえに、最もな事を言う。
「そうだね。まだ未熟だから、狙うには最適だね。」シュウとアスカは二人でうなづいた。
「まぁ、それは、俺達が考えても分からないだろ?」テルが言う。
「そう…だね。」ユリアが不安そうに呟いた。もし、本当に自分を狙ってモンスターを変異させたのであれば、自分のせいで多くの人が傷付いてしまった事になる。テルや、レイがいなかったらきっと死人が出ていた。そう考えると膝が震えた。色々な考えが、頭を駆け巡る。
「…心配するな。」何かに気づいたレイが、ユリアに声をかけ、そっと手を握った。
「何があっても、俺がいる」全員が、驚いて顔を見合わせた。
「レイ君、そういうキャラだっけ?」
「ラブラブね〜。良かったね、ユリア!」
「そういうのは、他でやってくれないか?妹と、親友がイチャついてるところなんて、正直みたくねーよ」
「お前と親友になった覚えもない」みんなに口ぐちにからかわれて、レイがだんだん拗ねてきた。ムスっとして、そっぽを向いてしまった。
「あ、そう言えば、ユリアさっきの歌…何だったの?」アスカがふっと思い出して、ユリアに聞いた。3人は同時にドキっとした。
「私にも聞こえたよ。なんか心が落ち着くような、歌だったね。」シュウものっかってきた。
「そうなの。歌を聞いた途端に、レイの悪魔化が止まって…。びっくりしたよ!」ユリアが答えに困っていると、今度はテルがユリアをかばった。
「昔、ウチの親がよく歌ってくれた歌なんだ。俺が泣いたりした時に、心を落ち着けるために歌ってくれた…。レイが正気じゃなかったから、とっさに出たんじゃないか?」アスカとシュウは、そうなんだと納得したような、しないような表情を浮かべている。
「それより、気になるのはゼルだろ?あの顔で男。更に凄いパワーだし…何者だ?」
「私も、よく分からないの。バタバタしてて、聞くの忘れちゃった。」話の流れを変える為だけではなく、本気で気になっていた。
「怪しいんだよ。前に、俺がアイスショップ行った時、凄い殺気出してた。」
「殺気?あんなにポワンとした感じなのに?」アスカとシュウは不思議がっているが、テルが言いたい事は分かる。セイレーンの力を狙う黒幕じゃないかと疑っているのだ。でも…
「あの子は、悪い子じゃないと思う。」声に嫌味がなかったから。と続けようとしたが、言葉を飲み込んだ。 ユリアは、声や心音の少しの変化を見抜くことができた。それが嘘や後ろめたさがあれば、何か変化がある。でも、『声』と言う単語をだすと、テルが怒る。ゼルの声から感じた事はただ一つ。
「アスカちゃんが、好きなんだよ」
ユリアの、発言にみんな目を丸くした。アスカはナイナイと首を振る。
  みんなで盛り上がっていると、救護室の扉が開きイリーナ教官が顔をだした。息を切らせて、大分慌てているようだ。
「探したのよ。今日の事詳しく聞きたいから、5時に私の教官室に来て。みんなパニックで、冷静に対象できてたの、あなた達だけなの。学園長もおよびだから、絶対遅れないでね。代表して、テルとシュウ!お願いね!」そう言うと、またバタバタと走って行ってしまった。

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