ブレイブ!

桃楓

9

テルとシュウは、先にどんどん進んでいた。学校の施設とはいえ、でてくるモンスターはとても強い。しかも、10歩歩くとモンスターがでてくるくらい、遭遇率が高い。まだ20分しか経っていないのに、実技試験で言えばAクラス級のモンスターがすでに5体は出てきた。挟み撃ちされる事も有ったが、弱いモンスターなら、シュウは余裕で倒した。シュウの武器は銃。飛道具の中でも、攻撃力は少ない。急所に当てないと、モンスターは倒せないが、シュウは的確に急所を射抜く。
「アスカの言った事は本当だったんだな。安心して後ろを任せれる。」前から襲ってくる狼男の首を斬り落としながらテルが言った。
「テル君こそ、さっきから傷ひとつおってないし…すごいね。」しかも、テルはシュウにも気を配り、モンスターの攻撃は全て大剣で受け止めた。大剣自体、30キロはあるものだが全く重さを感じさせない動きだ。後ろに目があるかのように、背後のモンスターにも気づき、シュウが構える前に倒す。
(でも、これじゃあ…)シュウはクスっと笑ってしまった。テルは、不思議そうに首をかしげ、大剣を背中の鞘に戻した。
「いきなり、笑ってどうした?」
「だって、テル君全部1人で倒しちゃうから…。私護られるだけで、実技の試験大丈夫かなって」そう笑いながら言った。
「悪い。いいとこ見せないとって、張り切りすぎた。でも、シュウ遠くから狙ってるモンスターに気づいて銃で急所狙い撃ちして倒してただろ。俺がミスっても追い打ちかけれるように、俺が戦ってる時も構えは解かなかったし。すごいな。実技も完璧。」そう言って、シュウの頭をポンと叩いた。
「ありがとう。テル君にそう言ってもらえると、本当に大丈夫だと思えるよ。不思議だね。」シュウは優しい笑みを浮かべて先に進んで行く。
(本当に可愛いな。あれ、素でやってるのか?)そう思いながらシュウの後を追いかけた。
***
ユリアとアスカは、テル達を探しながら、先を進んでいた。前はユリア、背後からのモンスターはアスカという風に役割分担をした。ユリアは、二刀流の短剣で、モンスターをなぎ払っていく。 アスカは、現れたモンスターの属性を見抜き、ユリアの短剣にモンスターの弱点の属性を付けるという、器用な魔法を放ってくれた。(例えば、火の属性のモンスターの場合は短剣に水の属性を付けるという具合に)
お陰で、少しの攻撃でも、モンスターを倒す事が出来た。
「アスカ自分だけじゃなく、他の人の武器にも属性つけれるんだ!すごいね」
「言ってなかったっけ?半径5メートル以内だと、属性付ける魔法を飛ばすが出来るの。」アスカはどこか自慢気に話した。二人で話しをしていると、上から大きな音が聞こえた。
ーファイアドラゴンだー
二人が気づくと同時に火を放ってきた。二人はとっさにその場から離れたが、炎はかなりの広範囲に広がった。二人の他にも生徒がいたが、みんな叫び声をあげて逃げ回っている。
「Sクラス級⁉︎なんでこんなところにいるのっ!」アスカは、制服の端に付いた火の粉を水魔法で消しながら叫んだ。
「えっ⁉︎普通はいないの?」ユリアが聞くと、アスカはうなづいた。
「Sクラスなんて、普通の人は倒せないわよ!だってここはエリートAクラス専用じゃないんだから!Bクラスだって、一般の生徒だって共通よ!」確かに、入り口付近にいたのはすごい弱いモンスターだった。ここは、入り口からそんなに離れていない。生徒達も、ユリアの見たことが無い生徒ばかりだった。
「アスカ、私がに任せてっ!補助はお願いっ!」ユリアの声に、アスカはうなづいた。それを見届けると、小さな声で自分の身体の筋力を一時的にあげる唄を歌いながら、ユリアは一番高い木を駆け上がる。勢いを付けて頭上を飛んでるファイアドラゴンに飛び乗った。
 飛び乗る直前に短剣が淡い青色に光った。アスカが、水の属性を付けてくれたらしい。
(さすが、アスカちゃん!)青く光った短剣をドラゴンに突き立てるが、鱗が一枚剥がれた位で全く効いていない。ドラゴンはユリアに気づいたのか、振り落とそうと身体を縦に回転させた。振り落とされない様に、ユリアは鱗の剥がれた部分に短剣を突き刺した。ドラゴンはその攻撃に怒ったのか、もう一度火を噴いた。
 (そういえば、試験の時テルがドラゴンと戦ってたよね?確か、弱点は…お腹っ!)ユリアは、それに気づくと、背中に突き刺した剣を引き抜き、壁や木をつたって地上に降りた。
「ユリア、大丈夫?」アスカが駆け寄って来た。
「大丈夫っ!いいこと考えたのっ!アスカちゃん、2本の短剣に別々の属性ってつけれるかな?」
「余裕!任せて!」アスカは、ニコっと笑う。
「そしたら、水と雷の属性を付けて!」そう叫ぶと、ユリアはもう一度駆け上がった。今度はドラゴンの腹の下に行くように調整した。
剣が、淡い青と金色に光る。ユリアは青く光った短剣をドラゴンの腹に突き刺した。ドラゴンは、大きな叫び声をあげて、身をよじった。振り落とされない様に、その剣に必死て
(お願いっ!効いてっ!)ユリアは祈りながら、金色に光ったもう一方の短剣をドラゴンに突き刺した。バチバチと電流が流れる。急所に突き刺した短剣の水を通して強まった電流がドラゴンの巨体を感電させた。痙攣して落ちて行くドラゴンから、ユリアは剣を引き抜き飛び降りた。ドラゴンは自分で焼き払った木々の炎の中に落ちていった。
「良かった…。」アスカは着地したユリアに駆け寄ろうとした。すると、横から大きな口を開けたティラノがアスカめがけて走ってきていた。ユリアの戦いに気を取られていて、気づいた時にはティラノの口は50㎝位まで迫っていた。
(やばいっ!間に合わないっ!)アスカは目を瞑った。
(…あれ?)いつまでたっても、全身に痛みが走らない。恐る恐る目を開けると、金色の髪で色白の華奢な生徒が5メートルはあろうかという、ティラノの尻尾を持ち投げ飛ばしていた。投げ飛ばされたティラノは炎の中で、黒い霧になっていった。金髪の生徒はゆっくりアスカを振り返った。その顔は色白で、目がクリクリした綺麗な青い目だった。
(あれっ!この子確か…アイスショップの店員じゃっ!)アスカが考えていると、その生徒がニコっと笑い、手を差し伸べた。
「大丈夫?アスカさん」
「何で名前知ってるの⁉︎」アイスショップの店員だという事は知っていたけど、話した事なんて一度もなかった。その生徒はアスカの問いかけには答えず、もう一度ニコっと笑うとアスカに歩み寄った。
「怪我がなくてよかった。」そう言うと、アスカの手を引いて抱き起こした。華奢な体型からは考えられないほどの強い力で起こされた。
「ありがとう。そうだっ!ユリア」アスカはユリアを探した。しかし、周りは煙に包まれ全く見えない状態だった。
「僕も一緒に探します。」
「いいの?探すの手伝って!」アスカは手を引いて走り出した。
  
(熱い…)吹き荒れる火の海で目を覚ました。ユリアはドラゴンから落ちた衝撃で、しばらく気絶していたようだった。辺りはドラゴンの吐いた炎によって火の海になっていた。実践室は救助に来た警備員や、救護員であふれていた。
「痛っ!」身体を動かすと激痛が走った。大木がユリアの両足を潰していた。引き抜こうとするが、力が入らない。
(どうにかして、木をどかさないと)周りを見渡すが、木を退かせそうな物が見当たらない。そうしてる間にも、炎は燃え広がってくる。
「誰かっ…!」叫ぼうと息を吸うと煙も一緒に吸い込んでしまいむせてしまい、声が出ない。警備員達は、少し離れた所で救助しているが、ユリアには全く気付いていないようだ。
(誰か…)段々気が遠くなる…火が迫ってきているのがわかった。
(もう…ダメかも…)そう思って、目を閉じると、顔に冷たい水が落ちてきた。どうやら、炎の鎮火のために悪魔族が何人かで水属性の魔法を放っているようだ。
「ユリアっ、どこだ?」遠くから、レイの声が聞こえる…そら耳?
「ユリアっ!」もう一度今度ははっきりと聞こえた。
「レイっ助けて!」最後の力を振り絞って叫んだ。やっぱり、この騒ぎじゃ気づいてもらえないか…と、諦めかけたその時煙の中から、人影が見えた。
「ユリア、大丈夫じゃなさそうだな。」
レイは、ユリアの姿を見て言った。レイの声を聞くと、安心して涙が出てきた。
「実践室が大変な事になってるって、Aクラスの生徒は補助に入るように放送がかかった。」そう言いながら、ユリアの足を潰している木に炎の魔法をぶつけた。もう片方の手は、ユリアの頭上にかざしている。その手からは、氷の魔法を放ち、ユリアに炎が当たらないようにしている。ある程度、木が燃えた所で水の魔法を放ち火を消した。炭化した木は、レイが蹴ると簡単に崩れた。大分軽くなった所で、ユリアを引き出した。ユリアの両足は、腫れて歩ける状態では無かった。
「ありがとう…救護員をっ!」と言いかけた瞬間、身体がフワッと持ち上がった。レイは、軽々とユリアをお姫様抱っこで持ち上げた。
「シュウのいる所を知ってるから、連れてく。」レイは、照れているのかユリアから顔を背けて言った。
「無理しないでいいよっ!だって、レイ悪魔族じゃん!」いくら、勉強が得意じゃないユリアでさえ、悪魔族は他の種族より力が弱い事を知っている。
「ユリア軽いし、大丈夫。一応鍛えてるし。」そう言うとレイは実践室の奥に向かって走り出した。
 暖かい…レイの胸に顔を埋めた。足の痛みも忘れてしまうほどの安心感に包まれていた。
「シュウ!」近くにシュウの姿を見つけて、レイが叫んだ。シュウもレイとユリアに気付いて、走ってきた。
「ユリアっ!大丈夫⁉︎すぐに治すから!レイ君、ゆっくりユリアを降ろして。」
「レイ!って、何こんな時に重症おってんだよ!ユリア!」テルはイラつきながら、走ってきた。
 テルにしては珍しく、全身傷だらけで、息も上がっている。よく見るとテルの周りには、4体のSクラス級モンスターが転がっていた。その周りには、中等部の男の子や、傷ついた人が何人かいた。
「テル君、1人で4体相手にしてたの。しかも、私たちを守りながら…。」シュウは、ユリアの手当てしながら状況を説明した。
「レイ!お前はまだ戦えるよな?」
テルが聞くと、レイは静かにうなづいた。
「来るぞっ!」テルが叫ぶと、巨大な恐竜が現れた。テルとレイはそれに応戦した。
「普段、こんなにモンスターが出ることなんてないし、それに…いきなりモンスターが強くなったの。それで、異変報告しに行こうとしたら中等部の子が襲われてて…。ユリア、足は動く?」シュウに言われて動かすと、なんとか動くようになった。
「シュウ、ありがとう。私も、テル達を手伝うよ!」ユリアは立とうとしたが、まだ足がもつれてしまう。「まだ、ダメだよ。もう少し休んでて。」シュウは優しくユリアをいさめた。
「それに…」シュウの目線の先にはテルとレイがいた。二人ともすごいペースでSクラス級モンスターを倒して行く。背中合わせだが、まるで相手を見ているかのような動きだ。レイは、広範囲に渡り氷の魔法を放ちモンスターの動きを止めると、間を置かずにテルがとどめを刺した。レイは瞬時にモンスターの弱点を見抜いた。弱い奴なら、レイの魔法一発で倒した。
「二人に任せれば、ここは大丈夫だよ。ユリアは、けが人の手当てと、誘導を手伝って!」シュウはユリアに指示を出した。さすがシュウ!ユリアは、シュウの言うように、中等部の子達を警備員に引き渡した。

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