ブレイブ!

桃楓

7

 テストルームはとても広かった。ルーム内には間仕切りがしてあり、ガラス張りになっている。ガラスには『防弾、防魔法』となっていた。なるほど、このなかで戦うのか。ガラスに張り付き中を覗くと、『指示ルーム』と書かれた小窓があった。多分これは、教官が入ってテストの様子とか間近で見るんだろう。それと、モンスターの投入口と書かれた開閉式の扉。
ガラスの外側には更衣室と武器庫それと離れた所に救護室と書いてある部屋が2室。
どれも、ユリア達が今までいた学校には無かったものだ。
(さすが、国立!システムが最新だ!まぁ、まえの学校は実技に力を入れて無いとこだったからかもしれないけど。)
「ほら、見とれてないで着替えるぞ。」
テルとユリアは、それぞれ更衣室に入っていった。更衣室からでると、ちょうど教官が来た所だった。
「お、偉い!ちゃんと着替えてたんだね!よしっ、では、不正を防ぐために武器はこの武器庫から選んでね。今開けるから。」教官は、武器庫のまえに立った。『認証システムを作動します。……認証しました。』最新システムらしく、全身スキャンを行っている様だ。ガチャっと音がして、扉が開いた。
テルは武器庫から大剣を選び、ユリアは短剣の二刀流で行く事にした。
「武器はそれで良いのね。じゃあ、試験用討伐モンスターのランクはどうする?sクラスからgクラスまであるけど。無理はしない方が良いわよ。」
「2人ともsクラスで!」考えこんでいるユリアの横でテルがさけんだ。
「分かったわ。なら、テル・フォレストから始めるので、入って。」
さすがテルは決断が早いなぁ…ん…?2人?
「ちょっと!テルっ!2人って言った?」
ユリアが気づいた時にはもう遅く、テルはガラスの内側だった。大きな溜息をついてガラスどの中のテルを見た。
『モンスターの投入を開始します。構えて下さい。』
アラームが鳴り響き、投入口が開いた。巨大なドラゴンが投入口から飛び出して来た。真っ赤なドラゴン。ファイアードラゴンかな?確か火炎放射する。しかも鱗は鉄に硬い。 しかも素早い動きが特徴だ。ドラゴンは、斜め上からテルに火炎を吐いた。火炎は部屋全体に広がった。防魔法硝子の外側に居るのに熱さが伝わる。
「テルっ!」ユリアは思わず声をあげた。テルは、高く飛び上がり、壁面をだだッと駆け上がった。
(下は一面火の海だなっ!なら着地先は…)
 テルはガラス面を蹴り上げ、ドラゴンの上に着地しようとした。それにドラゴンが気づき、鱗をテルめがけてとばした。テルはそれを大剣で弾き返し、ドラゴンの翼の付け根に着地した。
 ドラゴンは、テルを振り落とそうと無茶苦茶に飛び回るが、翼の付け根は安定していて、何とか持ちこたえた。
(この鱗は、大剣じゃ多分無理だな。折れたら終わりだし。それなら、腹を狙うか。)ドラゴンは、腹の部分には鱗がない。その部分を狙わせないよう、火炎放射で下を焼き尽くす。炎の上を飛び回るのがドラゴンの戦術だ。
テルは、グッと大剣を握る手に力を入れた。
(魔法使えなくても、遠距離攻撃出来るんだよ!)前面の壁に向かって剣撃を飛ばした。空気の刃が鋭く壁にぶち当たったり、跳ね返った刃はドラゴンの腹部を真っ二つに切り裂いた。
 ドラゴンは切り裂かれると同時に黒いもやとなった。
 モンスターは、人の怨念や黒い気持ちの集合体である。ある程度のダメージを与えると、その繋がりがハズレて実体の無いものにまた戻る。
 『はい、そこまで〜。5分以内でドラゴンを倒すなんて、この学校じゃ初めてよ!』教官は指示ルームから興奮して叫んだ。テルは別に照れもせず、ガラス張りの部屋から出た。
「お疲れっ!さすがぢゃん!」
ユリアが声をかけると、頭をポンと叩いた。いつもそうだ。緊張したり、落ち込んだりすると、頭をポンと叩く。そうすると、何と無く元気がでる。
『はい、次はユリア・フォレストはいりなさいっ!』
「はいっ!」ユリアは大きな声で返事をした。「テル、ありがとう!元気でたっ!行ってくる‼︎」テルに手をふり、ガラスルームにユリアは入って行った。
『モンスターの投入を始めます。構えて下さい』
 テルの時と同じ様にアナウンスがはいる。ユリアは短剣2本をクルっと回し構えた。投入口が開き、入って来たのはピエロの様な顔をしたモンスターだ。指は鉤爪になっている。考える暇も無く、モンスターが飛びかかってくる。それをひらりとかわし後ろをとった。
(やった!)背後から襲いかかるがモンスターも素早くそれを避け、上に飛び上がっり、真上から鉤爪を振り下ろした。何とか反応出来たが、避けきれず左腕をかすった。それに気を取られると、また後ろに回りこまれた。
(素早いっ、動きに着いていけないっ‼︎なら、もっとスピード上げよう!)ユリアは小さな声で歌を歌った。周りに聞こえるか、聞こえ無いかの声で。すると、ユリアのスピードが格段に上がった。今までは、着いて行くのにやっとだったが、何とか先まわりできた。ユリアは、胸の前で剣をクロスさせ、トップスピードで突っ込んだ。
モンスターの身体は十字に裂け、黒い煙となった。
『はい、そこまで〜。兄妹揃って5分以内ね。すごい!ユリアさんは怪我したので、手当します。救護室で手当てしてもらって』
ガラスルームからでると、テルは飽きれ顔で立っていた。
「お前、力使っただろ?」
 ドキっ!テルには絶対に人前で使うなと言われていた、セイレーンの力をテスト中に使った。セイレーンは思いを込めて歌うと、その通りのことが起こる。今回は、細胞を活性化させてスピードを上げた。声をだしている限りはその効果が持続される。
他にも、人よりすごく耳が良かったり、相手の声を聞くと、想いや感情がわかったりする。
しかし、昔セイレーン狩りが行われ、今では母とユリアくらいしか知らない。
母はもういないけど。
「親父や母さんに言われてただろ?どっちも今はいないけど。」ちなみに、テルには、セイレーンの力は遺伝しなかった。
「希少種は狙われる。大体、あのモンスターは力使わなくても、倒せた。スピードは速かったけど、直線の動きしかしてねーよ。動き読んで待ち伏せれば良かっただけ。」
…流石テル!目の付け所が違う。ユリアはポン!と手を打った。
「お待たせ。結果を言うわね。二人ともエリートのAクラスに決まったわ。テルくんは、筆記も満点だし、実技もS評価。申し分無いわね。ユリアさんの方は、筆記は本当は一般Bクラスだけど、実技は素晴らしかったわ。あのモンスター、スピード系で1番速かったの。でも、あのスピードを上回る何て、伸び代があるわ♩って、私の独断で、エリートAの私のクラスになってもらいます。来月からよろしくね。」
 明るい教官である。
一般Bが、エリートAについていけるのか謎だけど、とりあえず、試験には合格出来た。安心したら、ユリアのお腹がグーっと大きな音を立てた。
「さっき食えば良かっただろ。」
「コンビニよって帰ろう!」
そう言って、二人はガーディアン養成校を後にした。

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