ギルティ・アビリティ

皐月 遊

1話 「蘇り」

ピリリリリリリリッ!

………うるさい……

ピリリリリリリリッ!

……このうるさい音はなんだ…聞き覚えがあるけど……

ピリリリリリリリッ!

「……あっ、電話だ。 あれ? なんで僕倒れてるんだ…?」

着信音だと気づき、目を覚ますと、なぜだか僕は倒れていた。 しかも口の中に砂が入ってるし…何があったか思い出せない。

カイのナンパに付き合った事は覚えている、ならなんで僕はカイと逸れてるんだ…?

とにかく今は電話に出ないとな。

僕はポケットからスマホを取り出し、電話に出た。

「もしもし、黒神で……」

『あっ、雷斗か⁉︎ 今どこにいる⁉︎』

電話の相手はカイだった。 なんだカイのやつ、息が荒いな。 それになんか焦ってるみたいだ

「え? 何処って……」

………あれ…?

「…何処だ…ここ…」

『はぁ⁉︎ 今そんな冗談言ってる場合じゃねぇだろ! もう夜中の1時だぞ⁉︎ 何してたんだ!』

「は⁉︎ 夜中⁉︎」

確かに辺りは暗い。 だがまさか夜中だとは……

なんで僕はこんな所に居るんだろう。

周りをよく見ると、所々にベンチがあり、周りは沢山の木に囲まれている。

「……公園か…?」

『公園? 今公園に居るのか⁉︎ もっとよく周りを見てみろ! なんか特徴ないか? 今からそっち行くから』

特徴…特徴って言われてもな…

「特徴って言われても…この公園、遊具も花も何も無くて、しかも木に囲まれてるから何も見えないん………だ……」

……あれ? 今の台詞、聞いたことがあるような……

それになんで僕はこんな所で寝てたんだ?

『そんな公園空海市にあったかな……とにかく、分かった! 片っ端から探すから、そこから動くなよ!』

「あ、カイ待って‼︎」

『どうした?』

「今日って、何があったの?」

今日何があったのか思い出せない、カイに聞けば何か分かるかもしれない。

『何って…今日は俺のナンパに付き合ってもらったんだろ? 』

「それは覚えてる。 僕が聞きたいのは、なんでカイと逸れてるのかだよ」

この際カイのナンパが成功したか失敗したかなどはどうでもいい。

この状況は明らかにおかしい、早く俺がここにいる理由を知らないと……

『それはお前が暇だから散歩してたからだろ? 俺にメールよこしたじゃねぇか』

散歩…?  何故僕は散歩なんてしたんだ? 大人しく待ってれば良かったのに、散歩なんてするぐらいなら1人でゲーセンにでも行った方がマシだろ。



もし………”1人じゃなかったら?”



そうだ、僕が1人で散歩なんてする訳がない、誰かが居たはずだ。 

誰だ? 思い出せ、今日あった事を1つ残らず思い出せ。

カイと逸れた後、僕は何処に居た? 駅前のベンチだ。 
そこで何かがあったはずだ、僕が散歩しようと思ったきっかけが…………

『本当に大丈夫か? ……悪いな、昨日俺が彼女作りたいなんて言わなけりゃ……』

「……あっ」


ーーー退屈なら…私とお話しませんか?

ーーーこの公園、遊具も花も何もないでしょう? でも木に囲まれていて、外からは全然見えないんです

ーーー雷斗さんとのお散歩、とても楽しかったです


そうだ、彼女だ。 

僕を駅前から連れ出し、この公園まで連れてきたのは彼女だ。

「……サラさん…」

『あ⁉︎ 誰だ?』 

サラさんだ。

彼女と一緒にこの公園まで来たんだ。

そこで何があったんだ?

僕が気絶するような出来事だ、一体何が……


ーーーこれからも、私を楽しませてくださいね?

頭の中にサラさんの”あの笑顔”が浮かんだ。

その瞬間、鳥肌がたった。

「っ‼︎」

何言ってんだ僕、違うだろ。

「あっ…ああぁ……!」

震えが止まらない。

『雷斗? どうした?』

思い出した。 この公園で何があったのか。

気絶……? 気絶なんてしてないだろ。

「はぁ……! はぁ…!」

僕は彼女に……殺されたんだ。

頭が真っ白になる、息の仕方が分からない、苦しい。

僕は確かに彼女に殺された、あれだけ電流を流されて気絶だけで済む訳がない。

………なら、僕は……

「……なんで僕は…生きてるんだ…?」

『……お前、本当に大丈夫か?』

電話越しにカイの困惑した声が聞こえる。

とにかく早くここを出ないと…

早く、早く出たい。 頭がおかしくなりそうだ。

「カイごめん、僕1人で帰れるよ」

『は? いやいや、無理すんなよ! せめて何処かで合流しよう。 流石に心配だ』

カイが真面目な声で言う。

なんだかんだで優しい奴だな。

「分かった、じゃあ今から駅前に行くよ」

『駅前だな! 気をつけろよ! じゃ後でな!』

そこでブチっと電話が切れた。

「さて……」

早く出たいとは言ったが、確認しなければいけない事がある。

僕は服をたくし上げ、腹を見てみる。

……なるほど、刺し傷はないな、そりゃそうか、電気で殺されたんだから。

次にバッグを見てみる。

財布は…ちゃんとあるな、お金もある……あれ?

「生徒手帳がない…」

いつも僕は生徒手帳を財布の中に入れている。
だが何故か生徒手帳は入っていなかった。

まさかサラさんが盗んだ…? いやいや、流石にそれはないか、第一生徒手帳を盗んだ所で何が出来る。

なら目的はなんだ? 窃盗目的じゃないとしたら……ただ殺したかっただけか?  

それに彼女が最後に言った言葉も気になる。

「”能力者”って、どう言う事なんだ?」

普通はそんな物は信用しないし、馬鹿馬鹿しいと思う。

だが実際に見たしな……

彼女が何も持ってないのに電気を操っている所を…

なら彼女は本物の能力者なのか? 

それに今の俺の状況、”あの噂”と全く同じじゃないか。

って事は僕も超能力者になったって事か…?

「考えてもしょうがないか」

今は駅前に行こう。

これ以上カイを心配させちゃダメだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おぉ雷斗‼︎‼︎」

駅前の時計台の前にいるカイを見つけ、声をかけた途端、カイが僕の肩を叩いた。

そしてそのまま肩をつかんで前後に揺らす。

「どこ行ってたんだお前! めっちゃ心配したぞ!」

「ごめんカイ。 公園のベンチで寝ちゃってたみたいなんだ」

「………寝てただけか? 」

カイが急に真剣な顔になる。

まずいな、完全に疑われてる。

昔からカイに嘘を吐くとすぐバレるんだ。

カイはおちゃらけた雰囲気だが、意外と周りや相手の顔をよく見ている。

「何かあったんだろ?」

カイがこうなったらもう逃げられない。

だがカイに話したら、今度はカイが狙われるかもしれない。

もし僕が生きていることが彼女にバレたら……

考えるだけでも恐ろしい。

「…ごめん、こればっかりはカイにも話せない」

「…………」

「本当にごめん」

こんな事を言ったら、公園で何かがあったと自白しているような物だが、全部話すよりはマシだ。

後はカイが引き下がってくれれば……

「分かったよ、無駄に詮索はしねぇ」

「うん、ありがとう」

「じゃあこれからなんか食いに行くか! 夜飯食ってねぇだろ?」

「うん、でもカイは?」

「食ってないに決まってんだろ、ずっと探してたんだから」

「そっか、ごめん」

僕が公園に行ったのが午後の5時、そして今は夜中の1時……と言う事はカイは…

何かお礼しないとな。

「今日は僕が奢るよ」

「え、マジか⁉︎ んじゃ焼肉行こうぜ焼肉!」

「流石に勘弁して…」

「冗談だよ、いつも通りハンバーグにしようぜ」

カイに迷惑をかけるわけにはいかない。

これは僕の問題だ、空海のどこかにまだ彼女がいるはずだ、空海は広いが鉢合わせないようにしないと。

………それと、これからはカイとは外で会わない方がいいかもな……一緒にいる所を見られたら終わりだ。

だから、今日は目一杯楽しもう。

そんな事を思いながら、僕はカイと共に夜ご飯を食べに行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

雷斗達が夜ご飯を食べに行った時とほぼ同時刻。

空海のとあるマンションの一室に3人の若い男女が集まっていた。

1人は白髪の少年、

「またサラが暴れたって本当か? 香夜かや

少年はソファーに座り、目の前の少女を見ながら言った。

「うん、そうらしいよ。 また無差別に一般人を殺害したって…名前はアリスちゃんが調べて来てくれたらしいよ」

香夜と呼ばれた青髪の少女は悔しそうに言った。

「そうか……アリス、その被害者の名前は?」

「無駄だと思うけど……一応10時ごろに死体を調べてきたわよ、生徒手帳も持って来たわ。 名前は黒神雷斗。 私達と同じ空海第一高校の2年生ね。 死因は感電死、間違いなくサラの仕業よ」

アリスと呼ばれた金髪の少女は、白髪の少年を見てため息を吐きながら言った。

アリスの言葉を聞き、香夜は驚いた顔をした。

「え⁉︎ 黒神⁉︎」

「どうした?」

「黒神君って確か私と同じクラスだよ! 話した事はなかったけど…」

香夜は悲しそうな声で言った。

「って事は二組なのね。 ねぇ凍夜とうや、死体を調べて意味なんてあるの?」

「一応だよ一応、もしかしたら生き返るかもしれないだろ? 何も知らずに生き返ったら、その人は絶対不幸になる」

「だけど凍夜、殺された人間を一人一人調べるのはいくらなんでも無謀よ」

「そうかもしれないけど、やるしかないんだ。 これ以上不幸になる人を見たくない、生き返った人間を正しく導くのが俺達の役目だろ」

「アリス、諦めなよ。 凍夜はこうなったら頑固だから、疲れるだけだよ」

「はぁ……生き返る人間なんて、本当に珍しいのに…」

マンションの一室で、アリスという少女が呟いた。

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