覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第38話「協力者」

「ねえ、アスモデウス」
「ん?」
「サリエルの呪いを解くって言ってもさあ、サリエルがどこにいるのか分からないじゃん?どうやって見つけるの」

現在、僕たちは街を離れ、サリエルを捜す旅に出ていた。

学校は、僕は『増殖』の能力でクローンに任せている。藍世も、もう一人の生霊がいるから大丈夫だ。

「ああ、それなら当てがあるんだ」
「サリエルの居場所に?」
「いや、そのサリエルを見つけてくれる友人がいるんだ」
「じゃあ、今はその友人のとこに向かってるの?」
「そう。もうすぐ着くよ」

* * *

車を出してから2時間ほどで目的の場所に到着した。
助手席に目をやると藍世は眠っていた。

「藍世、着いたよ。起きてくれ」
「ん?ああ、寝てたの……生霊なのに眠るのか、あたしは……」

藍世は、あくびをしながら呟いた。

「ほら、起きて藍世」
「うん、分かってるよ、アスモデウス。あぁ、顔洗いたい」

その家のドアには鍵はかかっていない。昔からの仲なので特に遠慮もなく入る。

僕たちを出迎えたのは、長く伸ばした白い髪を後ろで結び、大きな眼鏡をかけた、背の高い青年。
その痩せた顔からは栄養、睡眠が足りていないことが容易に想像できる。
その青年が、僕の当てにしている友人・鳩浦はとうら 茶麦さむぎ

「茶麦、電話で話した子を連れてきた」
「ああ、お前か、強盗かと思った。まあ上がれよ」

既に勝手に上がってはいたが、一応改めて挨拶する。それに続いて藍世も入ってくる。

「おじゃまします……」
「あ、君が菊池 藍世さんか。一応アスモデウスから聞いてるよ、大体ね」

茶麦は、足下に散らかった衣服や袋を蹴散らして台所へ向かった。

「久しぶりだな、アスモデウス。今まで何してた?」
「働いてしかいないよ。教師って仕事は、僕の想像してた以上に大変な仕事だった。茶麦こそ何をしてたんだよ?」
「俺はまあ色々やってたよ」

何もやってなかったんだな。

「ま、本題に入ろうよ茶麦」
「そうだな、じゃあこっちの部屋に」

茶麦に案内され、居間と思われる狭い部屋に3人で向かい合って座った。

思えばこの部屋に来るのも久し振りだった。確か最後にここを訪れたのは一年ほど前だったかな。

「で、僕はどこまで話したんだっけ?」
 「お前が話したのは、まず菊池 藍世というその子が、生霊だということ。で、それはサリエルの呪いによるものだということ。で、その呪いを解くために、俺にサリエルを捜してほしいんだな?」
「ああ、そうだね。もうほとんど話は理解してくれてるね?」
「もちろん」

茶麦は藍世、僕を交互に見て頷いた。その後、ただ、と付け足して。

「俺がサリエルを捜すのに協力してやるのはいい。けどお前、サリエルと対峙してどうする。勝てるのか?お前もその藍世って子も死なないだろうね」

確かに……

「考えてなかった」
「えっ」

藍世の意識はようやくはっきりしたようだ。

「冗談だよ、お前も戦ってくれるだろ?茶麦。なら勝てるさ」
「結局、大して考えてないじゃねえか。まあ、俺が協力してやるのはサリエルを捜す事じゃねえ、その藍世って子の呪いを解くことだから。協力してやるさ」

これで、まずひとつ、話は済んだ。でも他にも話すことはある。次はサリエルの居場所。

「じゃあ次の話なんだけど……藍世起きて」

さっきの発言で一瞬は目を覚ました藍世だったが、再び瞼が下がっていた。
もう遅いので仕方のないことではあるが、藍世にも聞いてもらわないとね。

「で、次はサリエルを見つけて、いざ戦おうってなった時の話ね」
「ま、俺がサリエルを見つけることは簡単なことだし、こっちが本題だな」
「うん、それで、その時になったら藍世、君は僕たちから離れていて」
「は!?」

茶麦が目を大きく見開いてこっちを向いた。その首の動きはさながら光のように速かった。

「お前、何言ってるんだ!?それ、依り代の身体を使わずに戦うってことか!?」
「そうだよ。危ないからね」
「危ないからってね……俺とお前が死んだら意味ねーだろ?その子しか残ってないなら」
「死なないさ。僕の分身には依り代がついてるんだし」

茶麦は小さくため息をついて一言、いいか?と言って人差し指を立てた。

「お前サリエルをなめてるだろ。あのな、説明してやるぞ。天使、悪魔の強さはな、依り代との関係で決まるんだ。
1.契約済みの依り代がいて、その身体を使う。
2.仮契約済みの依り代がいて、その身体を使う。
3.依り代の合意無しに取り憑いてその身体を使う。
4.依り代はいるが、その身体を使わない。
5.依り代がいない。
の順で、強くなる。お前が言ってるのは4、ほとんど依り代ついてる意味ねーぞ」
「茶麦がついてるじゃないか」
「それはお前の分身にだろ」
「それで十分」

藍世には、離れていてもらうとは言った。けど、藍世の協力が必要でないというわけではない。

「藍世には、協力してもらうさ。藍世を危険に晒すことなくね」
「そんなのどうやって……?」
「それはね……」

藍世はすでに眠りについていた。

* * *

「じゃあ、出発しようか。サリエルの居場所も、もう分かった」
「そうだな」

一夜明けて、時刻は午前6時頃。念入りな準備を済ませて、僕は車を走らせた。

助手席で、藍世は不安げな表情を浮かべている。

「怖い?」
「怖いよ、昨日アスモデウスが言っていた、私が協力すること。それが、もし失敗したら……」

そのことを一晩中考えていたのか、藍世は少し寝不足のようだった。
昨日は寝かせて、今日の朝話すべきだったかな。

「ま、大丈夫だよ。もし失敗したとしても藍世は霊体だから殺されることはないと思うよ。なんていうか、藍世の魂?は、もう一人の藍世の生霊と一つになるんじゃないかな」
「そうじゃない」
「え?」
「私が死ぬのが怖いんじゃない。私が怖いのは、私のせいで、アスモデウス、茶麦、2人が命を落とすこと」
「そっか」

僕は少し、嬉しかった。藍世が、僕たちのことを考えていることが。いい傾向だ。

僕が出会ったすぐの藍世は、サリエルの呪いが解けて学校に行けても、そこで上手くやれるか不安だった。
けど、今の優しい藍世なら、学校でも上手くやれる。

藍世はここ最近の、たった数日で、変わった。
絶対に、サリエルを倒して呪いを解いてやりたい。呪いを解いて、学校に通わせてやりたい。普通の生活をさせてやりたい。

その思いで、僕はいくらでも頑張れる。それが、教師だから。

「大丈夫。僕らは死なないから。もちろん、藍世もね」
「うん……」

そして、藍世の緊張を和らげたのもつかの間、すぐに緊張感が訪れる。

「近いぞ」

静かに、後部座席で茶麦がそう告げる。その声は、低く、重かった。

車窓から覗く風景は、もう朝だというのに陽の光は見えず、太陽は雲が覆い隠していた。
車を進ませるにつれて徐々に街が廃れていく様子が、サリエルの存在を物語っていた。

その時、窓の外に赤い塊が目に入り、車を急停止させた。

「わっ!?え、何……!?」
「どうした?アスモデウス」
「人が……」

真っ黒になった電柱に、人間が磔にされていた。
その人は、身体中を切り裂かれて、誰が見ても分からないほどに血で汚れていた。

「最悪だ……藍世は見ないで……」

こんなもの、中学生に見せていいものじゃない……。僕は藍世の目を手で覆った。

藍世に触れた手から、震えが伝わってくる。もう見てしまったのか……?

とにかく、こんな所に長居するべきじゃあない。
僕が、車を発進させようとして前を向いたその瞬間、

「サリエル……!!」

人の頭と思われる塊を両手に2,3個提げてサリエルはボンネットの上に立っていた。

「藍世!車から出て!!」
「えっ、え、わ……!!」

藍世がガチャガチャとシートベルトを外している途中で、フロントガラスが粉々になった。

「きゃあぁあぁあああ!!」
「危っ……ない!!」

とっさに藍世をガラスの破片から庇うが、藍世の腕に刺さったいくつかの破片が痛々しい。

「茶麦!藍世と一緒に車から降りて、一旦逃げて!」
「わかっ……た!!」

すぐに藍世に『治癒』の力を使い、車から離す。
そして2人が走り出したのを確認して、車を急発進させてサリエルにぶつける。

「が……!痛ぇーな……!!」

サリエルがこちらを睨みつけて、何らかの能力を使用する。

「あ゛ぁあ゛あ゛!!」

全身に焼けるような痛みを感じ、身体が思うように動かせない。

「あいつらも逃がさねーよ」

サリエルはそう言うと、近くに落とした頭を拾い上げ、既に30M以上は離れた茶麦と藍世に向けて投げつけた。

「ぐぁああ゛!!」

それは、茶麦の背中に命中し、茶麦はバランスを崩す。
やばい……こんないきなり遭遇するだなんて……!

「で、お前何しに来たんだ?アスモデウス。それは聞いてやる。気になるしな。もしかして、たまたま会っちまっただけか?」
「そんなわけないだろう……君を捜して来たんだ」
「何のため」
「君がある女の子にかけた呪いを解け!!今日は力づくでもそれをさせに来たんだ!」
「あー、呪いね……」

サリエルは首をぼきぼきと鳴らして雷を纏った。
サリエルの能力は、『放電』……か?

「ま、呪いは解かねえ。お前もあの2人も生きて返さねえ。死ね」

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