覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第30話「ガラケーなのね」

村を出た私たちは現在、人気のない荒野を歩いていました。

「山の麓まで送ってもらって、食べ物までもらってよかったね、アスモデウス」
「まあ……僕の愛用していたバイクと引き換えだけどね……」
「ところで、俺たちはどこに向かってるんですか?」
「僕のバイクはスルーね」

そういいながらアスモデウスは説明を始めた。

「あのね、僕の今の目的は、僕の仲間の ルシファー に会うことなんだ。それで、ルシファーはここからずっと北に向かったところにいるはずだから、ただ北に進み続けるんだ」
「漠然としてるんですね」
「うん、そうだね。でも、進むルートは決まってる」

と、アスモデウスは言ったが、私も聞いたことがなかった。
アスモデウスは私に話すべきことを話さないことが多すぎだよね。

「それで、今の目的地は?」
「うん、とりあえず近くのトキオシティを目指すよ」

そう言うと、アスモデウスは歩く速度を少し上げ言った。

「ほら、見えるだろ?あれがトキオシティだよ」

アスモデウスが指した先には大きなビルの並ぶ活気のありそうな街があった。
それをみて子供たちもはしゃいでいる。

「うわーっ、すっげー!」
「おねえちゃん!早く行こうよ!」
「あっ、待ちなさいよマサオ〜!」
「おーい!俺を置いていくなよー!」

みんなは私とアスモデウスを置いてさっさと走り去ってしまった。

「先生も早く来てくださいよー!ノエルさんもー!」
「君たちー!はしゃぐと転ぶぞー!」

なんてアスモデウスがいったそばからサトルくんは転んだ。
アスモデウスは苦笑いを浮かべ、遠くからサトルくんの膝と肘の怪我を治癒する。

「そういえば、その能力って、悪魔はみんな使えるの?」

アスモデウスは少々意外と言った顔でこちらを見て答える。

「興味があるの?まあ、悪魔はみんな使えるよ。ただ、その悪魔によって能力は変わるけどね」
「へー」

興味がないということはない。だって私は、悪魔に取り憑かれてるんだもの。悪魔についての情報は多い方がいいもんね。

「あ、もう街の入り口だよ」

アスモデウスに言われ、街を見てみると、巨大なビル群が目に入った。
近くで見るとすごく大きいなあ……あ、でも東京のビルとそんなに変わらないくらいかな?

街に入ると、あたりはがやがやと喧騒に包まれた。
もう日も落ちかけているというのに、このやかましさはすごいよね。

「さて、今日はそろそろ休憩しよう。どこか泊まれるところを探してくるよ。ノエルは子供たちを見てて」

そういうとアスモデウスは人ごみの中に姿を消した。
残された私たちは……

「じゃ、街の観光でもしよっか?アスモデウスから電話がくるまで」
「やったー!」
「わーい」

というわけで、アスモデウスからの連絡があるまで街を歩いてまわることになった。

(それにしても……)

この世界でも携帯が使えるっていうのは意外だったな……まあ、ここが本当に死後の世界だって確証はないけど……

そんなことを考えたら、考えるほどにこの世界のことは不思議に思えてくる。

私のイメージしてた死後の世界と違うんだよね……バイクとか携帯が使えたり、お腹も空くし、心臓も動いてる。

それにしてはアスモデウスが私を健康にしてくれたみたいに普通ではありえないようなことも起きてる。

それにここが日本だとして、トキオシティなんて聞いたことないよ。

「わかんないことばっかしだな……」

そうひとりごちたのと同時にハルナちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた。

「おーい!ノエルさーん!早く来てよー!」

(ま、アスモデウスもそれをはっきりさせるために旅をするって言ってたし……深く考えることもないかもね……!)

「今行くよー」

* * *

アスモデウスは困惑していた。

(出ないな……気付いてないのかな……?)

何度コールしてもノエルが電話に出てくれない。

(困ったなー、こんな広い街じゃー連絡が取れないと見つけるのは難しいんだけどな……
とりあえず、メールだけはしておくか……)

『件名:泊まれるとこ見つかったよ〜

今どこにいる?泊まれるとこ見つかったから電話したんだけど、気付いてないみたいだからメールしとくね!^_^
僕は一足先にホテルで休んでるから、メール見たら電話してちょーだいな。』

「これでいいかな」

少しテンション高めのメールを送信して、二つ折り式のじゃらじゃらとストラップのついた携帯電話を閉じ、ポケットにしまい、宿泊先のホテルの部屋に向かう。

(早くメールに気付いてくれるといいな。1人だと暇だし)

契約した人間と悪魔は、お互いの居場所が直感的にわかるようになっているのだが、こうも人が多いとそれも大した意味を成さない。

居場所がわかるといっても大体の距離と方角くらいのことしかわからないからね。

部屋に着くと、荷物を置いてそのままベッドで横になった。

(ふー、ノエルから電話が来るまで寝てようかな……)

* * *

(きゃああ〜〜やばい……なんで電話に出ないのアスモデウス〜!!)

今私は、非常に危険な状況に陥っていた。

私がちょっと目を離した間に、はしゃぎまくっていたタカシくんが、怖そうな兄さんにぶつかってしばかれそうになっているのだ。

私は少し離れたところにいたから絡まれてはいないけど、助けないといけないからアスモデウスを呼ぼうと電話をかけたんだけれど……

(って、仕方ない……!アスモデウスと連絡が取れないなら、私が行くしかないよね……)

そう覚悟を決めて、私は兄さんの方へとふらふらと歩いていった。
側からみれば、足をつっているように見えただろう。

「あああ、あの……すみません、私、この子の姉なんですけど……どうかされましたか……?」
「ん?あぁいやね……この子が僕にぶつかってきたもんでね……睾丸が潰れたみたいなんですよ」
「そんな衝撃が!?」

明らかに嘘でしょ。だけど私にはこんなでかい兄さんにそれを指摘する勇気はなかった。ていうか格闘家以外無理でしょそんなの。

「えぇっと……申し訳ありません!!今お金を持ってなくって……勘弁してください!」

とりあえずここは謝罪するしかなかった。本当にお金はないしね。
しかし、兄さんは許してくれなかった。

「あのねー、お姉さん……睾丸が潰れたって言ってるでしょ。それが謝ってすんだらマッポはいらないでしょ?」
「ごめんなさい……」
「だーから、謝っても仕方ねーって!」
「えぇ……」

「何をしているのです?」

どうしようもなくて困っていると、背後から声が聞こえた。
後ろを見ると、紳士然とした風貌の男性が立っていた。

「あっ!いえ……このガキがぶつかってきたもんで……ちょっと……」
「……はあ?くだらない……お前はこんな子供に……」
「申し訳ありません!いや、ただ気をつけるように注意していただけで……」

兄さんは紳士にびびりきっている様子で、先ほどの態度とは打って変わってへこへことしている。

紳士はこちらを向くと、なんと謝ってきた。

「彼が驚かせてしまいましたね。申し訳ありません」
「い、いや、そんな……ぶつかってしまったのはこっちですし……!」

私がそういうと紳士は微笑み、去っていった。

「ふー……怖かった〜!タカシくん!周りをちゃんと見ないとだめだよ!」
「ごめんなさい……」
「うん、あ、アスモデウスからメールが来てる」

私がそう言った途端、もう遠くにいた紳士とでかい兄さんが歩みを止め、こちらに早足で歩いて来た。
そして、私の目の前に立つと

「今、誰からメールが来ていると?」
「え……?」
「誰からメールが来たのか訊いているんですよ」

その顔は狂気に満ちていた。その眼には一切の虚偽を許さない迫力が漲っていた。

「ア、アスモデウス……って……」

そういうと、紳士は先ほどまでの人物とは思えないほどの形相で言った。

「今すぐにそいつを呼びなさい!!!」

* * *

「ん……?」

枕元の携帯から鳴る着信音で目を覚ました。

「ああ、ノエルからか……、もしもし、ノエル?今どこ?」
『アスモデウス!えーと!あの!今すぐ来てくれない!?場所はね、えっと……どこだろここ……』
「ノエル?どうしたの?」
『代わりなさい。アスモデウスですか?私、天使のガブリエルです。今あなたのお仲間がここにいるのですが……今すぐ来てください。場所は……』

場所を聞くと、すぐに電話を切ってホテルを出た。

(まさか天使に捕まるなんて……一緒に行動しておくべきだった……!!)

アスモデウスは焦りと怒りで唇を噛み締め走った。

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