覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第26話「兄妹の終わり」

「着いたー!」
「長く苦しい戦いだった」

俺たちは、約2ヵ月の旅を経て、ようやく目的のストレスフル学園に到着した。
あとはアスモデウスと会って、仲間になってもらうだけで、当初の目的は達成となる。

「さて、じゃあアスモデウスに会いに行こうか」
「うん、でもここにアスモデウスの気配は感じないなあ……」

人間の俺にはまったく分からないが、ベルゼブブはここに、アスモデウスの気配は感じられないらしい。

「ここまで来てアスモデウスと会えなかったらかなり辛いぞ〜……」

それは本当に勘弁してほしいと思って、そう口にしたが、ベルゼブブはそれを否定した。

「いや、アスモデウスもそんなに遠くには離れていないみたいだから、ここに向かってるんじゃないかなあ?」
「そうかー、じゃあここで待ってるか」

アスモデウスがここに来るまでの間、俺たちは校内で休ませてもらうことにした。しかし……

「おいおい……勘弁してくださいよ…」
「………」

ベルゼブブは、絶句している。

休むなら保健室がいいと思い、そこに行ったのだが、さすが『色欲』の悪魔が統べる学校というべきか、保健室は、ほとんどただのラブホテルと化していた。

「出よう……」

そんなところで休めるはずもなく、俺たちは校外に出ることを余儀なくされた。

そして外に出ると、遠目にだが、こちらに歩いて来る影が見えた。

「あっ、あれアスモデウスじゃないのか?」
「ん?そうかな……」

ベルゼブブは、俺の指した影を眼を細めてみると、言った。

「あれ……アスモデウスじゃないよ。
あれは、天使だ……!多分、サリエルかな……」
「えっ!天使……!?」

俺は、ベルゼブブに促され、校舎の裏に隠れた。

「なんで天使が……?」
「うーん、多分依り代を捜しに来たんじゃないかな。見た所、契約している人間は近くにはいなかったし……」
「えっ、じゃあ、サリエルがここに来たってことは人が連れてかれるってことだろ?」
「うーん、まあその人間がサリエルとの契約に同意しなければ、彼は力ずくで契約を結ぼうとするだろうね……」

もしそうなれば、止めに入るが、今はまだなんとも言えない。
敵だからっていきなり殴りかかるのもちょっとね。

「じゃあ……一応様子を見て、危ない感じになったら行こう……!」

俺の言葉にベルゼブブは無言で頷く。

俺はまだ、知る由もなかった。
サリエルとの戦いが、ベルゼブブと共にする最後の戦いになるという事を。

* * *

「待てぇ!!」
「……なんだ?」

俺たちはサリエルの元へと飛び出していた。
契約を拒まれたサリエルは、ストレスフル学園の生徒に手を上げようとした。

「待てよ、ここの生徒に怪我はさせねーぞ」
「サリエル、君が今すぐ立ち去ったら私たちは見逃すよ」
「あぁ……ベルゼブブの依り代か、お前」

サリエルはそういうと、ゆっくりと目を閉じた。

そして、次にサリエルが目を開けたとき

「やば……!山ざ……」

ベルゼブブが俺の身体に素早く入ってくれたおかげでダメージはある程度軽減されたが、俺はその場に倒れてしまった。

「ぎゃぁああぁあっ!!」

サリエルから放たれた電撃に直撃した俺は激痛で転げ回った。

「いったぁあ……電撃……?」
(そう、サリエルの能力は『電撃』……防ぐのは難しいよ……!)

と言っても、防ぐことができないとなれば避けることになるだろうが、電撃を避けるっていうのもかなり厳しい気がする……

(サリエルが電撃を放つには少なくとも1秒間は目を瞑っている必要がある。
つまり、そのタメの時間に攻撃するんだよ)

なんだ、そんな隙があるのなら避けることだって不可能じゃあない。
そう思い、俺はサリエルの方へと走った。

俺がサリエルに近づいたとき、サリエルは目をゆっくりと閉じた。

(よし、隙だらけだぜ!)

俺が蹴りを入れようと、脚を伸ばしたとき、一瞬光ったかと思うとあたりは爆炎に包まれた。

「ぅあっつ!!?」
「残念だったな」

俺が前を向いたとき、同時にサリエルが目を開いた。

「ぎゃああぁあああ!!」

(……!?あいつの能力は…『電撃』じゃあないのか……!?)
(いや、能力は『電撃』で間違いない。
多分さっきの爆発は……
って、山崎!前!)

サリエルは、考える時間も与えてはくれない。
俺はサリエルの飛び蹴りをくらって吹っ飛ばされてしまった。

「った……鼻血が……」
(あっ、やばい、山崎!)

ベルゼブブの注意とほぼ同時に俺は爆発に巻き込まれた。

「ぐっ……いってえぇえ……」

(けど、わかった。この爆発は……
あいつの武器、『地雷』……だな?)

おそらくあいつは地雷をノーモーションで設置できるんだろう。
そして、その武器の持ち主であるサリエル自身は爆発には巻き込まれないのだろう。

「だったら……」

俺はベルゼブブの弓矢を手元に出すと、弦を思い切り引いた。

「こっちも動かずに遠距離から攻撃するさ……」

俺の放った矢は真っ直ぐにサリエルめがけて飛んで行ったが、距離があったため、かわされた。

「あたらんよ」

そう言ってサリエルは目を閉じた。

(よし、今のうちに近づいて……)

「お見通しなんだよ……!」

サリエルは1秒が経過する前に目を開け拳を突き出した。
しかし、それは予想済みだったのでかわすことができた。

「何……!」
「残念だったな」

俺の拳は、見事にサリエルの顔面にヒットした。

「おーし、反撃行くぞ!」
「馬鹿が……!」

サリエルはそう言い残して、校舎の方へと走り去っていった。

「っ!?何してんだ……」
(山崎!!早く追いかけて!依り代を得ようとしてるんだよ!)
「あ……っ!そうか…!」

俺は慌ててサリエルを追いかける。

「おいっ、待てぇえ!!」

しかし、俺が追いついたときにはもう既に遅かった。

「あ……っ!くそ……遅かったか……!」

そこには、邪悪なオーラをさらに肥大させたサリエルの姿があった。

「さぁーて、ま、依り代がいなくともお前程度の悪魔倒せただろうが……
ガキが少し気になる事を言いやがるんで本気出しちまいそうだ……」

依り代にされた生徒の近くにいた他の生徒たちは、怯えながら何か言っている。

「お前みたいな天使野郎……先生が来れば……一瞬で……!」
「うるせぇな、クソガキ」

サリエルは冷たく言うと、静かに、しかし力強く腕を振った。
その腕に無防備に当てられた、契約悪魔も憑いていない少年は絶命してしまった。

「……っあ……!」

少年の死体が転がる。

「タ、タカシィイ!!」
「うっうっ、うわぁぁあぁあ!!」
「うぉっえっ、ぉええええ」

「やかましいんだよ……ガキども……」
「お前……!!」

サリエルの視線がこちらを向いたと思うと、サリエルは一瞬で俺の目の前へと移動した。

「っ!!?」

両の頰に激しい痛みが走る。
目で追うことはかなわなかったが、どうやら殴られたようだ。

(はっやい……!)
(どういうこと!?サリエルは……『瞬間移動』の能力も持っていたってこと……いや、違う……)

「ほら、反撃できるか……?」

サリエルは、目にも留まらぬ速さで攻撃を続ける。

(いや……瞬間移動だとこの攻撃の速度は説明できない……)

「くっそ……」

攻撃の合間に見てみると、サリエルは目を瞑っている。

(電撃をためているのか……!)

「ほら……次の俺の電撃で命を落とすことになるかもな……?」

絶対絶命だと思われたが、その時、サリエルの攻撃が止んだ。
前を向いてみると、そこには生まれてから見たこともないほどの、美男子が立っていた。

「……え……誰だ?」

ベルゼブブには、それが誰か分かっている様子だった。

(アスモデウス……!!)

「アスモデウス……!?このかっこいい兄ちゃんが……!?」
「アスモデウスだと……!?」

そのアスモデウスと呼ばれた青年は、怒りに身を震わせ、その眼力で刺し殺さんばかりの迫力でサリエルを睨みつけた。

「先生ぇ!!」

少年らがアスモデウスに寄り添ってくると、アスモデウスは近くに転がった殺された少年の死体を一瞥した。

「サリエル……しでかしてくれたな……!!」
「……ははっ、アスモデウス……お前も殺してやるよ……」

挑発するサリエルを尻目に、アスモデウスは俺に歩み寄ってきた。

「ベルゼブブの依り代か……ありがとう、戦っていてくれて。
もう、僕が来たから大丈夫だ」

そういうと、アスモデウスはサリエルの方へと歩いて行った。

「さーて、アスモデウス……
テメエもすぐに殺してやるからな……けど、その前に……!!」

サリエルは、一瞬目を閉じて、こちらに顔を向けた。

「先にこっちを始末するとするか……!!」
「っ!!ベルゼブブ!避けるんだ!!」

直感的にその攻撃が危険だと感じた俺は、慌てて避けようとするが、電撃をくらってしまう。

「ぎゃっ…ぁああぁあああああ!!」

肉の焦げる音が俺の耳にうるさく耳障りに響く。
しかし、それ以上に全身を焼けるような痛みが走り抜けて俺は気を失いそうになる。

そんなぼやける視界の中、俺はこちらに走ってくるサリエル、それを追いかけるアスモデウスの姿を見る。

この距離だと、アスモデウスがサリエルに追いつくよりも先に、サリエルが俺の元へ辿り着くだろう。
かと行って、俺は電撃で痺れて動けない。

(くそ……ベルゼブブと一緒に……『次の世界』に、行きたかった……なぁ……)
(大丈夫だよ!きっと、大丈夫だよ!今までも、なんとかなってきたし……)

ベルゼブブはそう言うが、どう見てもアスモデウスはサリエルに追いつけない。

俺は、決断した。

「死ね!!」

サリエルが届く直前に、俺はかすれる声で、必死に言葉を紡いだ。

「ベルゼブブ……契約……破棄だ……」

俺がそう言った瞬間、ベルゼブブの身体は弾かれるように俺の身体の外に出て行った。

「……はっ?山崎……!?」

サリエルも戸惑っているが、既にサリエルの攻撃は止められず、俺の身体を貫く。

「ぐっ……!!」
「なっ!!?お前……!契約を……!?」
「ベルゼブブは絶対死なせないと決めたんだよ……!」

俺はサリエルの腕を掴んだまま、気を失った。

「うわぁああ!!山崎!死なないでよ!!山崎!!」
「サリエル、お前!!」

アスモデウスがサリエルを思い切り殴りつける。

「山崎!山崎起きてよぉ!」

ベルゼブブの声は空しく響いていたが、その声は俺に届くことはなかった。

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