覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第25話「VS.ウリエル」

側からは2人きりに見える体育館。
俺と八木会長さん、ベルゼブブとウリエルは静かに睨み合っていた。

(ベルゼブブ、ウリエルの能力って何か分かるか?)
(ウリエルの能力は確か…『爆発』……?いや、『光』……?)
(『光』?よくわかんねー……けど、『爆発』は強そうだな)

ウリエルの能力はまだ未知数、そんな中で無闇に突っ込むのは悪手……
とりあえず、警戒しつつ相手の出方を見るとしよう。

「お前、僕の出方を伺っているだろ?いいぜ、こっちから仕掛けてやるよ」

どっごおおおおおおおお!!!

ウリエルがそう言うと、俺の目の前が白く光り、大爆発を起こした。

「うどわああああ!?」

かなり威力高めの爆発に巻き込まれた俺は、体育館の中央から、壁にまで飛ばされた。

「『爆発』……か!ウリエルの能力は!」
(いや、多分それだけじゃあなかったとおもうけど……『光』も何か関係していたはず…)

ベルゼブブは、まだ何かあると言っているが、こんな能力にまだ何かあるとか…

(くっそ、『爆発』なんてどうやって対策すればいんだよ……)

そう考えていると、再び体育館が光る。

「やべ」

どっごおぉぉおん……

「ぶわー!……くっそ、強いな…」

しかし、先ほどの爆発にくらべ、少し威力が落ちていたようにも感じる。

(距離か?距離が離れていると威力は弱まるのか…?)

ウリエルの爆発が、左から追ってくるように連なってくる。

「とりあえず、距離を置いて戦って見るか、ちょうどベルゼブブの武器は弓矢、遠距離向きだしな」

俺は、ベルゼブブの弓矢を取り出し、弦を思い切り引っ張った。
しかし、俺が西側の窓を横切ったくらいのタイミングで、

どどどどどどどど!!!

「うっわぁぁああああ!!」

最初の爆発の比ではない大きさ、威力の爆発が俺を襲った。

「!?えっ、距離じゃあなかったのか…!?」

戸惑っていると、ベルゼブブが声をあげた。

(思い出した!ウリエルの能力は、『光』を、『爆発』させるんだ!!」
(『光』を、『爆発』?だったら、今の攻撃は、俺が窓際の日向にいたからあんな威力だったのか!?)
(多分、そういうことだと思うよ)

これは、俺にとって有利な情報であった。
ウリエルの能力が、光がなければ使えないものだというのなら、ただ、光を遮ればいいだけのこと!

「なるほどな…」

そうと分かった俺は、まず、西のカーテンを閉めてまわった。
この世界でも太陽は東から西に動くらしい、この時間帯は、西の光が強くなるからな。
ていうか異世界に太陽があるってなんか腑に落ちねーな。

「ほう、気づいたのか。ま、僕の能力は、少しでも光があれば使えるからな。威力は落ちるがね」

ウリエルは、『爆発』を使い、カーテンを燃やしてまわった。

「ちょっ、おいぃい!!それやられたら防ぎようがないじゃねーか…」
「防がせるわけがないだろう?僕が敵をみすみす逃すと思ったのか?死ね」

とりあえず俺は、体育館内の放送室らしき部屋に入った。
鍵は壊した。

「ふはー…あの能力強すぎねぇ?防ぎようないじゃん」
(うーん、どう戦うかな……)

ベルゼブブと話しながら、辺りをみていると、暗い中にうっすらとボタンのようなものが見えた。

「何のボタンだ……?」

ぽち

ボタンを押すと、外で大きな音が聞こえてきた。
すると、放送室のドアが爆発し、開放された。

「やっべ」
(あっ、山崎!みて、窓!)

ベルゼブブに言われて窓を見ると、シャッターが閉まっていた。
さっきのボタン、シャッターのボタンだったのか。

「やった、これで有利になったかなっ」
「残念」

体育館中の照明が点灯する。

「まじかよ……」
(でも、照明は壊せばいいだけだよ!)

ステージに上がり、矢を放つが、ウリエルはそれを破壊する。

「お前の良いようにさせるかよ」

ウリエルはその尖った目で俺を睨みつけながら言うと、ステージの『光』を『爆発』させた。

「いっ、た……!!熱……!」

いいかげんそろそろ爆発を食らうのもきつくなってきたが、その爆発を防ぐ方法はまだわかっていない。

(くっそ…どうすればいんだよ……
矢は壊されるし、照明のスイッチには辿り着く前にやられるかもしれないし…)

そこで俺は、1つ思い出した。

(そういえば、ベルゼブブの能力を使った矢はすげえ強かったよな…あれだったら、ウリエルの『爆発』にも耐えられるんじゃないのかな?)
(いや、わからない)

俺が考えていると、ベルゼブブが話しかけてきた。

(あの時は、ダメージの蓄積量が大きかったから矢もそれだけ強かったけど、今のダメージだと、ある程度の強さはあっても、あの時ほどの矢はできないよ……)
(そうか、いっぺん矢を放ったら、蓄積されたダメージは…)
(リセットされるよ)

だったら、今のところはまだ耐えて、ダメージを蓄積させるべきか……

「もう抵抗はやめたのか?」

俺の様子を見ることをやめたウリエルは、強めの攻撃をしかけてきた。

(熱……!でも、いいぞ、ダメージが溜まれば、お前を倒すための攻撃の準備も整うからな……)

「お前、ベルゼブブの能力『カウンター』で、一気にカタをつけようと思ってるだろ…?」
「えっ!……ばれてたか」
「はっ、僕がベルゼブブの能力を把握していないとでも?
一応、悪魔全員の能力は把握してるよ」
「けど、それがわかったところでどうにもなんねーだろ?
攻撃をやめるわけにはいかないんだしよ……?」

そういうと、ウリエルは会長の姿で、口角を上げて言った。

「いや、そうでもないんだよ…」
「はあっ?何ィ……」

そして、ウリエルの『爆発』が炸裂する。

「うっぎゃぁぁぁああぁ!」
「ホラ、カウンターしろよ?どんどん攻撃してやるから!!」

ウリエルの止まない攻撃に俺は防戦一方となる。
ウリエルはこちらの能力が『カウンター』だと知ってなお、このペースでの攻撃をしかけてくる。
何を考えているのか…

(くっそ……まだか!?ベルゼブブ!まだダメージの蓄積量は足りないのか!?)
(まだ、もう少し足りないよ!今の調子だとあと10発ほどは食う必要がある……!)
(あと10発ほどな……わかった、耐えるよ…!)

そして、それから数発『爆発』を食ったところで、ウリエルは唐突に攻撃をやめた。

「さて、ベルゼブブ。僕はこれから、最大の威力の攻撃をする。
その男は、この攻撃に耐えられるかな?耐えられれば、一瞬で、『カウンター』分のダメージが溜まるだろうな。
でも、耐えられなければ、『カウンター』するまもなく死ぬだろうな」

ウリエルの宣言に、俺たち2人は混乱する。
もしも今までのウリエルの攻撃が、全く本気ではなかったのだとしたら…?
そうだった場合、次に放たれるという最大の攻撃は今の俺にとって即死レベルの攻撃かもしれない。
だとすれば、ここまで溜めたダメージも水の泡となる。というか死ぬし。
だけど、それがもしハッタリだったら……?

「さあ、決断する時間をやるよ、ベルゼブブ。
今まで溜めたダメージを今、放つか?それとも、その男が僕の最大の攻撃に耐えられると信じるか?
……5分待ってやる」

そう言って、ウリエル(姿は八木会長さんだが)はその場に座り込んだ。

(どうするんだよ、ベルゼブブ……!)
(わからない…ただ、ウリエルは本気をまだ出していない、そこは本当だと思う。
でも今のダメージで放った矢が、ウリエルを射ることができるかどうか…)

確かに、威力が強くても、今のダメージ蓄積量だと矢の速度も遅いかもしれない。
だとすれば、ウリエルはかわせるかもしれない。
そして、攻撃手段のなくなった俺に最大の攻撃を放つ……とか。

考えていると、ひとつアイデアを思いついた。

(ベルゼブブ…溜めたダメージを数回に分けて放つってできないのか?)
(え…うーん、できるけど、それでどうするの…?)
(ウリエルの『爆発』でギリギリ壊されないくらいの矢をたくさん作って、照明を壊せばいいんじゃないのかな)
(それだけの矢が作れるかな…)

このピースフル学園の体育館はかなり広い。
その天井全体にさがっている照明を全て破壊するというのはかなり難しいかもしれない。

「うわー…どうすればいいんだよ、まじで…」

ウリエルが、残りの時間を告げる。
その残り時間が俺の寿命になるかもしれないと、思うとまじ怖い。

「あと1分だよ。まぁ、僕が頭の中で数えてるから正確じゃあないけどな」

残り1分………!!しかもウリエルの体内時計でのカウントだから、もっと短いかもしれない……!

決断できずに悩み続けていても、構わずウリエルのカウントは進み続ける。

「残り10秒」

(どうする……!?)

「残り5秒」

(俺は、矢は放った方がいいんじゃないかと思う。ベルゼブブは……)

「3、2、1」

(わかった、放とう!山崎!!)

「0」

ウリエルがタイムアップを告げたのと同時に渾身の力を込めて矢を放つ。
勢いよく放たれた矢は真っ直ぐにウリエルのもとへと進み、ウリエルと丁度重なった時

「っと!」

ウリエルは、すんでのところで身体を捻らせ、矢をかわした。
目標を見失った矢は虚しく体育館の壁を突き破り直進していく。

「嘘……だろぉ〜……」
(山崎、ごめん……次の攻撃、耐えて…)
「いや、無理かも………」

こちらに向き直ったウリエルはその八木会長さんの顔で、美しくも不気味な笑みを浮かべて言った。

「さて、これで終わりになるか……?」

そして、ウリエルのセリフが終わったその瞬間、彼女は現れた。

ばっごおおおおん!!

「っ!?」
「っえ……!?」

素晴らしくきまった登場の仕方をしたのは

「待たせたわね。山崎、ベルゼブブ!」
「ま、ま、ま、マモン!!」

涙が出てきた。
このタイミングで来てくれるだなんて……背景に、「ドン!!」が見えた気がしたわ。

「桃尻……!お前裏切ったのか…!!」

ウリエルは怒りを露わにし、モモコさんの中にいるマモンに詰め寄る。

「すみません、ウリエル様。でも私、あなたのいいように使われる会長を見てられないんです」

モモコさんがハッキリと言う。

「と、いうことらしいわよ、ウリエル」

モモコさんと交代し、マモンが話し始める。

「お前たち……!まあ、良い。雪奈にはモモコはマモンに殺されたと言っておいてやる……死ね」

「!!!」

ウリエルはそういうと、恐らく今まで最大の『爆発』を放つ。
その威力により、体育館全方向の壁は散り、屋根には所々穴が空いた。

そんな威力の爆発に巻き込まれた俺たちも、もちろんただではすまない。
俺は、もう動くこともできなくなっていた。

「う……っぐあぁ……」
「山崎……!!」
「フン、まだ死んでいないのか。まあいい、これでここに射し込む光の量も増えた……
次の攻撃はこんなものじゃないぞ……!」

もう一度爆発を食らうとして、それも、さっきのものよりもさらに大きいものとなると、確実に死ぬ。
ああ、死ぬの怖い。

「山崎……!私の『集中』で、ウリエルの注目を集めるわ……!
その間に、『カウンター』を放って!」

死にそうになる中、マモンが作戦を伝えてくれるが、俺のこの身体ではそれが可能かどうかは不安だ。
しかし、やらなければ死ぬだけだ。

「わかった……この威力なら、倒せる…」

正直、立つのがやっとで、弦を引くのもかなりきついが……そうしなければこの状況はどうにもできない。

「さて、モモコ、覚悟しろよ……!」

すでにマモンはウリエルの注目を集めて、俺に攻撃が向かないようにしてくれている。
俺は精一杯、力を振り絞り立ち、弦を引く。

「……くっ、きっつ…!」

マモンが、ハンマーでウリエルの頭部を殴打する。
それに対し、ウリエルは自らの武器と思われる、トンファーを取り出し、マモンを思い切り殴る。

(マモンが時間を稼いでくれている間に、なんとか矢を放たないと……!)

しかし、俺が矢を放つよりも先に、マモンが倒れた。

「っ、マモン!?」
「ようやく来たか、刻真……!」

マモンの後ろには、木刀を振り回す刻真さんの姿があった。

「お待たせしました、ウリエル様…」
「ああ、にしても油断した。
マモンの『集中』、か。危ないところだったよ……」

(最悪だ………!あと少し、あと少しでこの矢が放たれたのに……!!)
(山崎、ごめん!もう、無理かも……)

「ベルゼブブ……これで、終わりだ」

その時、ウリエルの背後から、聞き慣れた声が聞こえる。

「諦めるのは早いぞ、山崎!」

驚いたウリエルが振り向いたときにはもう遅く、八木会長さんの顔は、木刀の柄で勢いよく殴られた。

「ーーっ!!」
「ウリエル様!!」

殴られたウリエルはそのまま転がって行き、その姿を視認する。

「レヴィアタン………!!」

(マモンもレヴィも、お前ら最高すぎるぜ……!)

俺は精一杯引っ張った弦を離し、矢を放った。

矢は大きな音を立てながら八木会長さんの腹を貫き、体育館の床を抉りながら進んで行く。

「ぐああああああああ!!!」

八木会長さんの腹には大きな穴が開き、血が止まらなくなっている。

「はぁ、はっ、は」
「ウリエル様ぁあ!!」

俺は力なく倒れた。
正直言いたかったが、「やったか!?」は、言わないようにした。
しかし

「まだ、死んではいないぞ……」

ウリエルは血をぼとぼとと落としながらこちらを睨みつけていた。

「やってくれたな………僕がここまで追い詰められたのも…初めてかもしれないな……」

(くっ………そ……)

もう既に声を出すこともできなくなっていた。

「お前は僕の全力の攻撃で殺してやる……」

そういって、ウリエルはこれまでのものとは比べ物にならないほどの『爆発』を起こした。

死を覚悟して目を瞑っていた俺だったが、意識はある。
恐る恐る目を開いてみると、ボロボロになった体育館の天井が目に入ってきた。

(……あら?生きてる……?)

「あなたの攻撃なら……すべて私が食らったわよ……」
「『引力』………か!!」

マモンが俺を庇ってくれたのだ。
本当最高……

「さて、次は私の番かな」

そういうと、レヴィはマモンから、ダメージを、『奪取』した。

「…………〜〜っ!!っくー、きついな…やはり……!」

俺とマモン、そしてレヴィ本人の3人分のダメージを食ったレヴィは、苦しそうに悶える。

「何を……やってるんだお前…?」
「すぐわかるさ、これは……貴様を倒すための準備さ……!」

そういうと、レヴィは、ベルゼブブの『カウンター』、弓矢を『奪取』した。

「……はっ!?お前の『奪取』は、1人ずつにしか使えないはずだろ!?」
「あいにくと、物体としての存在でないものはいくつでも保有できるんだ」

そういいながら、レヴィは思い切り弦を引いた。

「………ベルゼブブ、マモン、レヴィアタン…お前ら、やってくれたな……!」
「ああ、じゃあな」

レヴィは、矢を放った。
矢は、ウリエルを再び貫き彼方へと見えなくなった。

「く……あ…」

ウリエルは、力なく倒れ込んだ。
気の抜けた俺は、それと同時に目を閉じた。

(……疲れた…身体中が痛い……)

レヴィはダメージを負ってくれたが、俺が一度『カウンター』を使うまでのダメージは攻撃として使ったので、俺の身体に残ったままなのだ。

ベルゼブブは、俺の身体から出て、俺を担いでくれた。

「お疲れ、山崎。馬車に戻ろう」

俺たちはその日、部屋を分けることも忘れ、泥のように眠った。
間違いが起こるなんてことはもちろんなく、戦いの疲れは、無事に癒えた。

* * *

ウリエルとの戦いから、1週間が経った。
やはりベルゼブブの力か、怪我の治りは早かった。

「さて、ありがとう、山崎、ベルゼブブ。
私たちはここに残るわ」
「ああ、ウリエルに勝てたのもお前らのおかげだよ」

もともと、マモンの目的はこのピースフル学園に滞在して達成できるものだったので2人はここに残る。

ちなみに、八木会長さんはあの時の記憶がないらしく、モモコさんが、マモンの依り代になったことも知らないらしい。
八木会長さんには、それは教えないようにするらしい。
なんでも、モモコさんと刻真さんからの頼みで、八木会長さんが傷つく可能性ごあるから、だそうだ。

そしてウリエルは、会長をおいて、どこかへ去っていってしまったらしい。

「さーて、じゃあ俺たちの次の目的地はストレスフル学園だな」
「今回は本当に山崎が死んじゃうかと思ったよ」
「死ねねーよ、妹を置いてな」
「くっさ」
「ひっど!」
「あははは!冗談だよ!」
「じゃ、行こうか!」

そんなやり取りを終え、俺たちは馬車を後にした。

「見送りなら、ここまででいいぞ?」
「ええ、じゃあ、元気でね」
「貴様ら、絶対に『次の世界』に行けよ!私もすぐに行く」
「ああ、じゃあ、またな!ふたりとも!」

そうして、俺たちはそれぞれの道を歩み始めた。

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