覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第24話「モモコと刻真」

(まずあの釘に触ることは避けた方がいいわね……)

マモンは、呪術使いの桃尻モモコに、早くも苦戦していた。

「さて、私は一刻も早くあなたを倒して、会長の元へ行かなければならないの。すぐに終わらせるわ」
「フン……人間に私がやられるとは思えないわ」
「そうかしら、すぐにそう思えるようになるわ」

そういうと、モモコは釘をマモンに向けて飛ばした。

「釘はもう無駄よ、当たらなければ問題もないもの」

モモコの放つ釘をかわしつつ、マモンは軽やかな足取りでモモコの元へと走る。

「当たらなければ問題はない……それはあなたの攻撃も同じことよ」

モモコは、マモンの振り回すハンマーを俊敏な動きでかわし続ける。
マモンは、攻防の中でモモコに問いかける。

「桃尻さん、あなた、ウリエルとは上手くコミュニケーションできているの?」
「……何が言いたいの?私は会長には絶対の忠誠を誓っているし、会長からも信頼されていると信じているわ」
「私が訊きたいのはそういう事じゃないわ。
会長はウリエルの依り代、ウリエル本人とはどうなの?」

マモンは、モモコに微笑みかける。

「ウリエル様と……?」
「そう、あなたは、ウリエルとは信頼関係は築けているかしら」

モモコは黙った。
会長に天使が憑いていると知ってからも、モモコは会長とこれまでのように接してきたし、会長もそうであったと思う。
しかし、ウリエルが表に出ている時は交流がなかった。

「あなた、ウリエルを気に入っていないでしょう」

モモコは、返事はせず、黙って釘を投げた。
マモンも、答えを求めはせず、ただハンマーを振った。


「そんな重い武器を私に当てようなんて、少し甘く見ているんじゃない?」
「残念、私が使うのはハンマーだけではないのよ」

マモンが、そういうと同時に、空から数本のナイフがモモコめがけて落下してくる。

「っと……!危ない…」
「悪魔としての武器の他に、ナイフも携帯しているの」

マモンは、モモコがナイフに気を取られたその一瞬の隙を見逃しはしなかった。
モモコの視線が、少し上に向いたタイミングで、マモンは思い切りハンマーを振った。

マモンが振ったハンマーは、見事にモモコの頭部をとらえ、モモコは転がって行く。

「ーーっ!!」

(このタイミングで、完全にこちらの優勢に持ち込む…!)

マモンは体勢を崩したモモコを『引力』にて引き寄せる。
モモコは抗うこともできず、モモコのハンマーに直撃する。

「った……!!」

みしみしと骨の折れる音がモモコに伝わり、それに伴い激しい痛みがモモコを襲う。

「い〜〜っ……た!!」
「無理はしない方がいいわよ?あなたは人間だもの」

すでにモモコの左腕はほぼ動かなくなっていた。
しかし、モモコは釘を飛ばすことをやめない。

「もう無駄だと分かっているでしょう」

モモコの投げた釘はマモンからは遠い左右の地面に突き刺さった。

「無駄ではないわ」
「え?」

モモコがそう口にした時、地面に散った釘から、暗い稲光が放たれる。

「!?」
「これも私の呪術の1つ!
私が円形に設置した釘のサークル内に入ったあなたは、もう逃れられないわよ……?」

そう言ってモモコは、マモンに微笑みかける。
一方マモンは、全身の筋肉が硬直したように動けなくなっていた。

(油断したわ……釘は設置武器としての役割もちゃんとあったわけね……)

「さて、ようやく形勢逆転ね……
と言っても、あなたとはもう戦う必要もないわ。
あなたはそこに立っていなさい」

モモコはそういうと、校舎の方へと向かって歩き始めた。

「待ってちょうだい」
「……?」

「あなた、会長に不満はないの?」
「…はあ?
……私を惑わせて逃げるつもり?」
「そんなことはないわ。正直今のままでも弱ったあなたと契約することはできるもの。
ただ、契約するのなら、お互いの同意のもとというのがベストと思ったのよ」

マモンの言ったことは、嘘ではない。
マモンは実際にこの状況を抜け出すことは不可能でなく、契約に同意がある方が良いとも思っている。

身動きが取れず、不利にも見えるマモン、その余裕な態度がモモコを焦らせていた。

「私が会長に不満を持っている、そんなはずがないわ」
「いいえ、持っているはずよ。あなたは、ウリエルがいると知った時から、不満があるでしょう」

モモコは、反論しなかった。

「あなたは確かに会長を信頼している。
でも、ウリエルの言いなりになり、あなたよりも、ウリエルを優先する会長に不満があるでしょう?」
「そんな……」

「私の依り代になりなさい。会長を、救いに行きましょう」

モモコは呪術を解いた。

「私があなたの依り代になるのは、別にあなたのためじゃない。
私が、会長を好きだから」
「それでもいいわ」

マモンは笑った。

2人は契約を結び、校舎へと向かった。

* * *

「さーて、刻真真一、真剣でなく良いのか?」
「女相手に真剣なんて使えないさ」

そういうと刻真はレヴィに木刀を向けた。

「そうか、後悔することになるぞ」

レヴィは木刀を振り回すと、木刀を構え歩き出した。
それを見て刻真も木刀を構える。

がつーーーーーん!!

「ーーっ、痛っ…!!」

刻真の木刀が、レヴィの肩に勢いよく振り下ろされる。

「ふっ、手の長さがあるぶん、俺の方が有利なようだな」
「フン、私はそんなズルには屈さないぞ……クククク」
「いや、ズルっていうかな……」

痺れる左肩を揉みながらレヴィは思う。

(いったぁあ〜〜〜!ちょっ、私木刀両手で持ってるんだが!?
くっそー、強いな、思ったより……
鎖が使えれば、まだ戦いやすいんだが……剣勝負って言っちゃったしな…)

「すごい痛いだろ?木刀で殴られたの初めてだろ。
まだやるか?降参してもいいぞ」
「フンッ、降参などしてたまるか!貴様こそ、命が惜しければ今すぐ帰宅しろ」

刻真はレヴィの言葉を笑い飛ばす。

「ばかだな、俺が負けることはねーよ」

そう言って、刻真は木刀でレヴィの右肩を突いた。

「いぃいーーーったぁあ!!」

不意を突かれたレヴィは激痛で転げ回る。

「ひぃ〜、ふぇーひぃーん…いったあいぃ〜……」
「もうやめろよ……すげえ可哀想なんだけど……」

刻真の良心が痛むが、レヴィは勝負をやめようとはしない。

(マモンと山崎はちゃんと勝ってくれるはず……
そんな中、私だけ負けられるか…!)

「なら、別に剣は使わなくてもいいんだぞ。
剣勝負だとあんまりにも俺が有利だからな」
「敵の情けを……私が受けるとでも思っているのか!!」

(受けないとは言っていない。クククク……)

レヴィの思惑も知らず、刻真はレヴィの真摯な態度に感動している。

「レヴィアタン……!お前、かっこよすぎるぜ…
違う形で出会っていれば、俺はお前の依り代になっていた」
「そうか……それは残念だな……」

(お互いに)

2人は向き合い、微笑みを交わした。
そして、

「……行くぞぉお!!」
「来い!レヴィアタン!!」

2人が吠えた時、レヴィから放たれた鎖が刻真を縛り付けた。

「ーーっ!!?」

鎖はじゃらじゃらと音を立てて刻真を締め付ける。

「痛たたた!!おいテメエ!?お前…!剣勝負じゃ……!?」
「ククククク……剣でなくとも良いと言ったのはお前だあぁはははははー!」

唖然とする刻真。

「さぁーて、覚悟するんだな……ひはははは!!!」
「くっ…殺せ!」
「ククククク、望み通り殺してやる!!」

レヴィは思い切り木刀を振り下ろした。(流石に殺すつもりはないが)

「……なんてな」

そういうと、刻真は笑みを浮かべた。

「え?」

刻真を縛り付けていた鎖が切れ、刻真は木刀を振り回した。

「え……なんで…?」
「残念だったな。お前、俺を甘く見てたな」
「えっ、え?どうしたの?」
「お前が鎖を出すのなんて、予備動作で見切ったよ。
すぐに鎖は斬ったさ」
「いや、でも木刀……」

レヴィがそういうと、刻真は一本のナイフを取り出した。

「そんなナイフで!?鎖を!?」
「強く…ならにゃあ…
鉄ぐらい…ブッた斬れるように…!!!」
「黙れよ……」

「さて、勝負はついたよな?」

そういうと刻真は、レヴィの頭を木刀で軽く叩いた。

「じゃあな、俺は会長の元へ向かう。
……お前があの時、本当に剣で勝負していたら、契約も考えてやったよ」
「終わった後でなら…どうとでも言える…!」
「はは、そうだな」

刻真が見えなくなったあと、レヴィは泣いた。

「ぎえぴーーー!!悔しいぃーー!
ひぃーん、ひいぃーん〜……」

* * *

「さてベルゼブブ、戦おうか……」

八木雪奈、加納山崎。
体育館にて、2人は向き合っていた。

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