覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第23話「ピースフル学園での戦い」

「まさかあなたたちが悪魔だったとは………」

会長は怒りと落胆の入り混じった声で言った。

「俺たちも残念ですよ、八木会長さん。あなたが天使の依り代だったなんてね……」

それに対して俺も、同じような雰囲気で対応する。

「そうね。私たち天使側、そしてあなたたち悪魔側は、決して馴れ合うことはない運命……
でも、戦う必要はないわ」

俺は今からでも戦うつもりでいた。
しかし、意外にも会長の方はそうではなかったようだ。

「私、あなたたちのことは嫌いじゃないの。今すぐここを立ち去るというのなら、追いかけてまで殺すということはしないわ」

正直会長の提案は、俺にとっては嬉しかった。
相手が天使とはいえ、蘭子ちゃんの時のように、仲良くなった人と戦うなんて、そんなことは嫌なんだ。

しかし、マモンはそうは思っていないようだった。

「お断りするわ」
「……なんですって…?」
「天使の依り代は八木会長、あなただけなんでしょう?だったら私たちは、そこの刻真副会長と、桃尻書記をいただくわ」

そういうとマモンは、手元にハンマーを取り出し、桃尻さんを思いっきり殴りつけた。

「ーっ!!」
「モモコ!!」

会長はマモンを睨み付けると、マモンの宣戦布告に答えた。

「わかったわ。戦うしかないようね…なら、手加減はしないわよ」
「ちょっ、待てよマモン!桃尻さんはもういいだろ!副会長さんも!」
「いいえ、山崎、私たち悪魔に依り代は絶対に必要なものなの。手に入れるのなら、早いほうがいいわ」

そもそも……なぜ、天使と悪魔が争う必要があるんだ……
俺がそう問おうとした時、横のベルゼブブが言った。

「おかしいよ、なんで私たち悪魔と天使はいがみ合って生きていかなければならないの!
お互い、その理由もわからないまま殺しあうなんて、意味がわからない!」

えっ、悪魔と天使も自分たちが戦う理由をわかってなかったの?

「いいえ、戦う理由ならあるわ」

会長が口を開いた。

「あなた方悪魔の、マモンさんが、私の仲間を傷つけた。それで戦う理由は十分よ」

八木会長さんの言うことも最もではある。
八木会長さんがいきなり殴りつけてきた、というのならまだしも、先に手を出したのはこちらだから。

「そうだ…!マモン!なんでだよ!なんでそこまでして依り代を求める!?」

俺の問いにマモンは、こう答えた。

「私に必要なのは、依り代だけでなく、このピースフル学園でのポジション。私はこのピースフル学園に滞在する必要があるの。
そのために、できれば会長が欲しかったのだけれど……」
「それは……なんのために?」

マモンがこのピースフル学園に来ることを目的としているのは理解したが、マモンがなぜピースフル学園を目的としているのかが分からない。

前に、『憤怒』のサタンを復活させるとは言っていた。
しかし、マモンはなぜそのサタンを復活させようとしている…

「この学園の上の役職の人間と契約すれば、私のできることも多くなる。
そうなれば、サタン様復活も達成しやすくなるわ」
「やめてくれよ……俺は戦いたくねーよ」
「ごめんなさい山崎。私は、サタン様を絶対に復活させるの。
そのためにはここで、戦う必要があるの。
例えあなたの望みでも、それだけは絶対に譲れないわ」

そういうとマモンは、桃尻さんを投げ飛ばし、その方向へ走り去っていった。

「ちょっ!マモン!」
「マモンめ…はしゃぎおって……クックックッ」

レヴィは意外にもテンション高めである。

「レヴィ!お前も戦うのか!?」
「オフコース……!我が右腕は、眷属を欲している…!依り代を得るしかあるまい……!」
「ちょっ、そんな……」

この前の蘭子ちゃんの件もあったし、レヴィは戦うことに否定的かと思っていたが、やる気満々である。

「お前、蘭子ちゃんのこと忘れたわけじゃないよな!まだ戦うのか!?」

俺が少し語彙を強めて言うと、レヴィは駄々をこねるように言った。

「えー、だって私、依り代欲しいし、こいつらとは別に仲良くないし!歩かされただけだし!」

レヴィってあれだな、自分の好きなようにしたいだけなんだな……

「というわけで、山崎。私は行くぞ。
そこの男!付いて来い!私が勝負してやる!」
「フッ、望むところだ」

なぜか上から目線のレヴィは刻真さんを連れて、行ってしまった。

残された俺たちは…

「八木会長さん……やめましょうよ、俺たち仲間でいいじゃないですか」
「ごめんなさい山崎さん。それは無理よ。
モモコと副会長が危険な目にあっている以上、私はそれを助けに行かなければならないの。
戦うつもりがないのなら、どいて。
私は2人のところへ行くわ」

「どうするの、山崎……!」

ベルゼブブが、不安そうに俺に問いかける。

「どうするって………俺は戦いたくないよ!でも、マモンとレヴィは仲間だから、助けた方がいいだろうな…」

どうすればいいのかわからない!
八木会長さんとは戦いたくない、というか誰とも戦いたくはないけど、マモンとレヴィが危ないのなら、助けてやるべきとも思う……

「困ったな……すごく」
「何も悩む必要なんてないさ」
「え?」

どごっ!!

背後から声が聞こえたと思うと、突如顔を思い切り殴られた。

「山崎!!」

不意を突かれた俺は、そのまま勢いよく吹っ飛んでいき、2〜3メートルほど転がった。

「いった……!え?」

俺を殴ったのは、明らかに八木会長さんだった。
さっきまでとは雰囲気が違うが、こちらを睨みつけ、殺意を向けているのは、確かに八木会長さんの眼だった。

「はははは、雪奈は本当馬鹿な。悪魔を逃すなんて、クズみたいな行為だ。
そんなこと、僕がさせるわけないだろ」

そいつが、八木会長さんの名前を口にしたことで俺はようやく気づいた。

「え?あ、そうか…ウリエルが表に出ているのか!」
「よう、ベルゼブブ、その依り代。雪奈はお前たちを見逃そうとしたみたいだけどな、それは無理だぞ」

八木会長さんの姿をしたウリエルは、こちらに敵意を剥き出しにして歩いて来る。

「さて、お前も遠慮しないでいいぞ。雪奈とお前、僕とベルゼブブは敵、だからな!」

そういうとウリエルは、俺を思い切り蹴りつけた。
勢いよく蹴り飛ばされた俺は、体育館らしき建物に突っ込んだ。

「いったたた……クッソ、戦いたくねー…」
「山崎!大丈夫!?」
「あぁ、ベルゼブブ、俺の中に入ってくれ」
「戦うの……?」

ベルゼブブは、少し悲しそうな表情を浮かべ、俺に確認する。
俺はそれに躊躇しながらも答える。

「戦いたくないけどな、八木会長さんと違ってあいつは、俺たちを殺す気でいるんだ。
俺は、お前を守るためにここにいるんだ。戦うしかないよ」
「………わかったよ。ありがとう山崎、戦おう!」

俺たちは、覚悟を決め、ウリエルと向き合った。

* * *

「さて、桃尻さん。まず単刀直入に提案するわ。
私の依り代にならない?」

生徒会室を飛び出したマモンは、グラウンド西側で桃尻モモコと対峙していた。

「私の依り代になることを、今ここで受け入れれば戦う必要はないわ。
もちろん、私が八木会長を傷つける必要もなくなる」

マモンの目的は、あくまでこのピースフル学園に眠る『憤怒』の悪魔 サタンの復活。
モモコや、八木会長と戦うことではない。

しかし、マモンの提案に、モモコはこう答える。

「断るわ。私が従うのは、この世でただ1人、会長だけなの」

それを聞いたマモンは、少し残念そうな態度を見せた。

「そう、仕方がないわね……」

そういうとマモンは、再びハンマーを取り出した。

「なら、強引に契約を結ぶしかないわね」

それを見たモモコも、 ポケットから、一冊のノートを取り出す。

「?本なんて読みながら戦うつもり?そんな余裕はないと思うけれど」
「私の戦いには、この本が必要なの。そして、これもね」

そういうとモモコは、胸ポケットから、数本の五寸釘を取り出す。

「あなたが会長に危害を加えるというのなら、私はそれを全力で阻止する!!」

モモコが釘を2本放つ。
釘は目標から遠く離れた地面に突き刺さる。

「どこを狙っているの?それに、そんな釘が当たった程度で、私が倒せるとでも?」

マモンは前進し、勢いよくハンマーを振る。
モモコはそれを見切り、その場に釘を刺す。

それを見ていたマモンに、1つの考えが思い浮かぶ。

(……?釘を当てにこない…?
もともと釘は地面に設置することが目的……?だとすれば…)

マモンは、ハンマーで地面をえぐり、釘を掘り返す。
その瞬間、マモンの視界が真っ赤に染まり、光で眩む。
同時に、爆発音と共に火炎がマモンの全身を包み込む

「くっ!あっつ……!?」
「残念、私が釘を地面に設置することで、それが攻撃だと思ったようね」

モモコはうずくまるマモンを見下ろし嘲笑する。

「私の攻撃は、『呪い』。おそらく私が、この世界で一番の呪術師だと自負しているわ」
「呪い……!?くっ、面倒ね……」

(私の『集中』、『引力』とは相性が悪いわね……どう戦うべきか…)

* * *

「……で、お前はなんだったか?麻美だったっけ?玲香だったっけ?」
「我が名はレヴィアタン、この名、しかとその心に刻み込め……クックックッ」
「えっ、どっちでもないのか……」
「玲香は私の偽名だ…クククク……」

レヴィアタン、刻真真一は、グラウンド東側にて対峙していた。

「時に刻真よ、貴様、私の眷属となる気はないか?
私の力を使えば、この世界を意のままに操ることも不可能ではなくなるぞ……クククク…」
「お前などに頼らなくとも、俺の実力があれば世界など容易いさ」

刻真はレヴィの誘いを断る。

「ほう……では、見せてみよ、貴様の実力を……」

そういうとレヴィは、勢いよく刻真に飛び蹴りを食らわせた。
無防備な腹に飛び蹴りを食った刻真は、そのまま前方へ飛ばされていった。

その先にあったのは剣道場、刻真はそれを好機と見た。

剣道場に突っ込んだ刻真は、木刀を片手に、レヴィの元へと戻ってきた。

「さて、俺の剣は強いぞ……」
「ほう、では私も、剣で応えよう」

レヴィは、剣道場の用具の中から木刀を奪うと、刻真と向かいあった。

(さて、私も剣は多少使えるが………この刻真とかいう男、なかなかやるようだな…)

7人は、それぞれの場所で、戦い始めた。

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