覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第2話「佐藤萩村、わたしの旋律」

(誰か……助けてくれ……誰か……)

真っ暗闇の中、得体の知れない恐怖に追われていた。

(上手く走れない)

叫んでいるはずなのに、声が出ない。
あたりは暗く、俺が何から逃げているのかもわからない。
ただ、恐怖が追ってくる。

そんな中、先に見覚えある姿を見つけた。

(萩村……!)

萩村も、こちらに向かって走ってきている。
その顔は、恐怖に歪んでいた。
萩村は、こちらに向かって何か言葉を発しているが、何を言っているのかわからない。

(萩村!)

萩村の体が、痩せこけてゆき、何かを探しているように手をばたばたと動かしている。

(萩村……!)

萩村の体はほとんど骨と皮だけになり、萩村はその場に座り込んだ。

そういえば、俺の体もさっきから不安定だ。
そして、ひどく喉が渇いている。

萩村を見ると、腹から血を流している。
気づけば、俺の腹部からも大量の血が出ていた。

(気分悪い……)

俺は意識を失った。

* * *

目がさめて、まず視界に入ってきたのは見覚えのない天井だった。

(……どこだ?ここ…)

見知らぬ場所で目覚めて、まず俺は状況の確認をするため、辺りを見回した。

(ああ、さっきまでのは夢か……怖かった…)

そして、辺りの様子を見るにここは、病室...というよりはそう、学校の保健室に近い感じだった。

俺が刺された後、気絶したせいかここに来るまでの記憶がない。
思い出せるのは中学時代の旧友 江頭に襲われ、ナイフで刺され気絶したってとこまで。

(にしても……)

身体の状態に違和感を覚え、自分の身体を少し動かしてみる。

刺されたとしては怪我が見当たらない。
ナイフで刺されたとすれば、少なからず怪我をしているはずだが、歩行に不自由もなければ痛みを感じるところもない。

…そして、ナイフで刺されたというのに俺がいるのは病院ではなく、学校の保健室。
ここが保健室だと決定づけるための判断材料はないが、病室のようには見えない。

今の状況を確認していると、もう一つ大切なことを思い出した。

(そういえば、萩村はどうなった?)

俺が襲われているとき、助けに来てくれたのが萩村だ。
まああいつはたまたま見かけた江頭を追いかけて来ただけみたいだが…

不意に、横から声が聞こえた。

「……瀬川…?」

隣のベッドに目を向けると、萩村がいた。
萩村も今目が覚めたばかりのようで状況が今ひとつ理解できていない様子だ。

「萩村」
「瀬川。ここは病院か?なんか…学校っぽくないか?」

やはり萩村も困惑している。
ということはここは萩村の学校でもないのか。俺の学校の保健室とも違うようだし…

「俺にもわからないが……
 確かにどこかの学校の保健室のようだな。外に出て人をさがしてみよう。」
「そうだな。この部屋には他に誰もいないのか?」

あたりを見回してみるが、俺たち2人の他に人の姿は見当たらなかった。

「いないみたいだな」
「そうか、ま、いいか。行こう」

と、俺たちが外に出ようとするとそれよりも数秒早く扉が開き、1人の女性が入って来た。

「目が覚めていたのね」

入って来たのは美しい女性。学校の制服らしい服装から察するにやはりここは学校のようだ。
そしてこの人はこの学校の生徒だろう。

そのこの学校と思われる女性は、俺たちを一瞥すると自己紹介を始めた。

「初めまして2人とも。私はこの学校の生徒会長を務めています」

この学校の生徒会長をしているというこの女子生徒は 八木 雪奈というらしい。

「それで八木会長、ここはどこなんだ?俺たちはなんでここにいる?」

俺は自己紹介をするよりも先に、今の状況を知りたかった。
しかし、八木会長はそれには答えずに、後ろを指差して言った。

「ええ、それを話そうと思ってこの部屋に来たの。だけど、少し待って。3人目の新入生が目を覚ましていないわ」
「?」

後ろを振り返ってみると、誰もいなかったはずのベッドに誰かが眠っていた。

「はっ…え!?」

そこにいたのは、すやすやと眠る、白いうさぎのような肌に、濃い桃色の髪をもつ少女がいた。

俺は驚き、思わず声を出してしまった。

その声でその3人目の新入生とやらは目を覚ました。

しかし、俺と萩村が目を覚ました時には、俺たち2人以外は誰もこの部屋にはいなかったはずだが…

「!?……え、ここどこだ?」

やはり3人目も今の状況をよく理解できていない様子できょろきょろと部屋を見回した。

そんな戸惑いを見せる3人目のことはお構いなしに、会長は話し始めた。


「これで全員のようね。では、この学校についての説明をします。あなたもそこに並んでください」
「え?ああ、はい…?」

「ではまず、説明を始める前に軽く自己紹介をしておきましょうか。
私は、この学園の生徒会長を務めています、八木 雪奈といいます。
あなたたちは、今日からこの学園の生徒となるので、これから顔を合わせる機会も多いと思いますので、よろしくお願いします。
質問の時間は、あとで設けますのでその時にお願いします」

ぱちぱちぱち…
一応拍手する。
流石生徒会長というべきか……質問の時間を後で設けるあたり馴れている。

「では、右から順にお願いします」

自己紹介と言っても、何を言って良いかわからないが…

「鈴木瀬川です。
えー、少し大きな怪我をして…それで気を失って目がさめるとここにいました。」

「えー…俺は佐藤萩村といいます。よろしく。瀬川と一緒にいて、同じように怪我をしました。そして、目がさめるとここにいました」

「マイ*メロディです。よろしくおねがいします。えっと、駅で電車を待っている時にバランスを崩して電車に轢かれました。そして、気がついたらここで眠っていました」

名前が超気になりすぎるが、八木会長はスルーで話を進めていく。
まあ最近多い輝きネーム…?だっけ?それだろうな。初めてみた。

自己紹介が終わり、会長は話の本題にはいたが、

「では、説明させてもらうわ。ここは、私立ピースフル学園。
……あなた達は、死んだのよ」

「………」

突然会長の口から告げられた事実。
それはあまりにも突飛すぎて、その場にいる俺を含めた3人はただ黙って立ち尽くしていた。

会長は説明を続ける。

「一度死んだ者がもう一度人生を送るチャンスを得る場所。それがこの私立ピースフル学園」

俺たちが理解できていないのは察しているだろうが、それでも構わずに話を続ける会長に俺は質問せずにはいられなかった。

「ちょっ…待ってくれ!どういう事だよ?俺たちが死んだって…?そんなあほな」
「質問は後でして、と言ったのだけれど……まあいいでしょう。
あなた達は、覚えているはずよ。自分が目を覚ます前の、最後の記憶を…」

会長に言われて、俺はあの時のことをもう一度思い出す。

血を出したことなどほとんどないのでそれがどのくらい多いのかはよくわからなかったとはいえ、あの時の血の量は尋常じゃなかった。

確かにあれだったら、俺が死んだとしてもおかしくはない。
それに、マイメロの場合は、電車に轢かれたと言っていた。そんな事故に遭って生きていられるだろうか…?

「3人とも、理解できたようね。では、本題に移らせてもらうわ。」

まだ完全に自分の死を認められたわけではないが、とりあえずはこの会長の話に耳を傾けてみることにした。

ていうかさっきまでのが本題じゃなかったんだ。

「このピースフル学園は今、開校以来の最大の危機に面しているわ」

会長は、少し間を置いて言った。

「それは……学園長の不在」
「…?それがなんだっていうんだ?」

「私たち、ピースフル学園生徒会はこの学園の学園長をさがしているわ。
学園長は、それにふさわしい能力を持った者にだけ務まる。
そこで私たちは現実世界で死亡した者を集め、次期学園長をさがしているの。
さすがに、生きてる人間を攫うわけにもいかないしね」

ふーん・。・(興味がないのでコーヒーを淹れ始める)
というか話があまりにも現実離れしていてよくわからない。

「ここに集まってもらったみなさんには、ある大会に参加してもらうわ。」
「ある大会?それで学園長を決めるのか?」

会長はこちらに目を向けて頷いた。

「そう、察しがいいわね。そしてその大会は、『覇王サタンの聖誕祭』!!」

「」
「」
「」
一同、黙り込む

なんてこった...面白くなってきやがった…
なんだこの人。
急に出てきて何言ってんだ?

「それっていつあるんだ?」
萩村が問う。やる気◎かよ。

「一ヶ月後です。 それまでは皆さんはこの学園生活を 楽しんでいてもらいます。
そして、この学園の生徒である以上聖誕祭から逃れることはできません」

「えー...面倒くさそう」
「面倒くさくありません。神聖な儀式です」

(そのノリがだるそうなんだよ)

逃れられないとか言葉を使っておいて面倒くさくないってどういうこと?
面倒くさい事に決まってるでしょ。

何はともあれ一ヶ月後に、この学園の学園長の座を巡る戦いに、俺たちは参加することになってしまった。

* * *

「なーんか、面倒くさそうだなぁー」

会長の話が終わった後、俺たちは学園内の施設を見て回るように言われた。
俺と萩村、それにマイメロでまわっていた。

「覇王サタンの聖誕祭?」

マイメロが話に参加する。

「ああ、結局、内容を聞いても答えてくれなかったじゃねーか?」
「まぁ、確かにそこは教えてほしかったなぁ」
「まーまー、面白そうじゃん?全生徒で行う大会とかさ」

萩村は楽しみにしていらっしゃる。
そういえばこいつ、昔から体育大会とか文化祭とかすごい張り切ってたよなぁ…

「それで、私たちってどこを回ればいいんだ?」

あてもなくふらふらしていたが、マイメロが問いかける。
萩村がそれに答える。

「んー、まあ学校で大事な施設って言ったら、自分の教室、保健室、体育館、トイレくらいじゃないの?」

トイレを施設というべきかどうかは不明だが、萩村の言う通り見て回るべきはそのくらいだろう。

「ならまず体育館に行くか。会長も話があるから一度見に来いって言ってたしな」

さっきの会長の話の最後、俺たちは学園内をまわった後、体育館に集合するよう言われたのだ。

とりあえず俺たちは、体育館に足を運ぶことにした。

* * *

体育館には、大勢の生徒が集まっていた。

「へーこいつらみんな学園の生徒なんだろうか?」
「大体200人くらいかな」

多分いまここに集まっているのは新入生ばかりだろうから、全生徒だと600人くらいか?

「いつ始まんのかな」
「もうそろそろはじまるんじゃねーの?」
「何を話すんだろうな」
「やっぱ覇王サタンの聖誕祭についてじゃねーの」

そう話していると、会長がステージに上がるのが目に入った。

「あ、会長がステージに上がってる」
「他の生徒会らしき人たちもいるな」

すると、会長はマイクをとって話し始めた。

「全生徒のみなさん、おはようございます」
「おはようございまーす」

会長の挨拶に続けて生徒たちも挨拶する。
ていうか新入生じゃない人もいたのか。

「さて、みなさん。覇王サタンの聖誕祭まで、いよいよ残り1ヶ月となりました。
そこで、生徒会は占い部の協力を得て、今回の聖誕祭について占いを行いました」

え?占い部てなに?変わった部だな

「占い部のタロット占いによると、今回の聖誕祭……かつてない波乱になる模様です。
みなさん、特に3年生のみなさんは、波乱に備えて準備を怠らないようにしてください。
以上で、私、生徒会長 八木の話を終わります」

ぱちぱちぱちぱちぱち……

「……なんだったんだろうな」
「うーん、あんなこと言われても俺たちはな……」
「でも、3年生はさっきの話を聞いてすげー気合い入ってるぞ。
占い部のタロットってすごい当たるんじゃないの?」

確かにマイメロの言う通り、話があるまでの3年生の雰囲気とは全く違う。

正直びびりながらも、1ヶ月後、俺たちは覇王サタンの聖誕祭を迎えることになるのだった。

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