覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第1話「鈴木 瀬川」

子供の頃を思い出していた。

「松田です」
「あっ、江頭?今出るー」

俺は靴下を履きながら、片足で玄関へ向かった。

「よっ、おはよう、瀬川」
「おはよう」

出迎えてくれたのは幼馴染で同じ中学の親友 松田 江頭と、同じく幼馴染の親友 佐藤 萩村の2人。

いつものように軽い挨拶をかわし、自転車に乗って学校へ向かう。

俺たちはお互いの家が近く、親が知り合いだったということもあり、小学校に入学する前からの友人だった。

小学校ではいつも一緒にすごし、クラスが違っても放課後にはいつも集まって遊んでいた。

中学校に進学してからも俺たちは部活にも入らず放課後に集まって遊んでいた。
他に友人は何人もいたが、3人ですごす時間が最も多かった。

そんな俺たちだったが、中学の卒業も近づいてきた頃、江頭は勉強に集中するといって、俺たちとの付き合いが減っていった。

そして、高校進学を境に、俺たちは全く会わなくなった。

* * *

いつもと同じ時間、いつもと同じ服装、それにいつもと同じ音楽を聴きながら、いつもと同じ乗り心地の悪い電車に乗って、俺は学校へ向かっていた。

(この時間は乗ってる人が少ないのが数少ない利点だな…ま、それでも他の時間よりはって程度だけど)

俺の名前は、鈴木 瀬川。
高校一年生。

趣味は特になし。
特技も特になし。
部活には入っていない。

つまらないプロフィールではあるが、俺はこれで不満はなかった。
これまでの人生、特に大きな出来事もなく、これからも大したことのない普通の人生を送るのだろうと思っていたが…

まさかあんなことになるとは…


「次は〜○○〜○○〜」

停車を告げるアナウンスがあると座っていた数人の乗客は降りる準備を始め出した。
俺が降りるのはその次の駅なのでそこまでは座らせてもらう。

電車が駅に着き、停車すると、数人の乗客は外は流れて行き、代わりに外から数人が乗り込んでくる。

その出入りする数人の足音に紛れて、重いものが落ちるような音が車内に響いた。

「……ん?」

(誰かのバッグか何か落ちたのかな)

最初はそう思ったが、俺は少し先の方で、その音の原因を目にした。

(人……かな…?)

少し近づいて見に行ってみるとそこには腹部から血を流して倒れる通勤中のサラリーマンと見られる男がいた。

「……え?…嘘だろ…」

死んでいるかどうかはわからなかったが、重傷なのは間違いなかった。
こんな時に馬鹿な発想かもしれないが、そのとき俺は、これがドッキリだったら恥ずかしいからスルーしようなどと思っていた。

そして、俺が少し離れた席に移動して電車が動き出すと、再び電車の揺れる耳障りな音が車内に響き出した。

その音に紛れて再びあの音が聞こえた。


ーーーーーどさっ

「!?」

(嘘だろ!?またかよ…もう動き出したし、逃げられねーじゃねーか!本当に殺人なのか!?)

しかし、それにしては周りの乗客は全くと言っていいほど騒がない。
俺はそれに異常な違和感と恐怖を感じた。


緊張と恐怖に耐えながら電車に揺られていると、ようやく目的の駅への到着を告げるアナウンスが流れた。
実際には20分も経っていないであろうが、体感時間はその何倍にも感じられた。

なにはともあれ、これ以上あの電車の中にいると気が狂いそうだったので早急に降車した。


しかし、俺が電車から降りると、目の前には血のべっとりと付着した刃物を持つ、恐らく俺と同い年くらいの男が立っていた。

男はこちらに視線を寄せると、話しかけてきた。

「よう……瀬川」

男は俺の名前を呼んだ。
顔を確認しようとするが、男はフードを被って顔を隠していた。

「っは……っ!?」
「久しぶりだな……」
「え?いや、え?誰だお前……」

男は、俺のことを知っているようだったが、正直こいつが知り合いだろうがそうでなかろうが関係なかった。
気がつくと俺は、一目散に駅を飛び出していた。

「はあっ…!はっ…!」

(誰だあいつ!?怖すぎる………!
あんなやつと一度でも関わった覚えはないぞ…!!関わる予定もない!)

ただ逃げることに精一杯だったので、まわりを全く見ていなかったため、しばらく走ると道に迷ってしまった。

「くっそ…どこだよここは…?」

俺が辺りを見渡していると、背後から声が聞こえた。

「瀬川。逃げるなよ……」
「!!」

追いつかれていた!
こいつはこの街に住んでいるのだろうか。全く息が切れていない。地理を把握して俺を追いかけていたのかもしれない。

逃げることは諦めるしかないと悟った俺は、仕方なく話をして見逃してもらおうと考えた。

「えっと…俺のことを知ってるみたいだけど…誰だ?」
「……何?覚えていないのか?」
「ごめん…覚えていない……」

男は少し悲しんだような、怒ったような声で静かに「そうか…」とだけ呟くと被っていたフードを取った。
その顔を見たとき、俺は思い出した。

「江頭……!?」

やはり俺の記憶は正しかったようで、江頭の表情は少しだけ晴れたように見えた。

「久しぶりだな、瀬川」
「あ、あぁ…!でもお前、なんでこんな……なんで、なに、何やってんだよ……?」

声が震えているのはわかったが、俺はそれでも話を広げようとした。

「……お前とはさ、高校進学するまでよく遊んでたよなあ…」

江頭は少し寂しそうにこちらを見て言った。

「ああ…そうだな…」
「だけどよ、高校に入ってからは全く会わなくなったよな……」

そして、こちらを見て微笑した。

「そ、そうだな……」

目の前にいる江頭は、俺の記憶の中のそいつからは変わり果てていた。
そして、江頭が俺に歩み寄って来たかと思うと、腹に衝撃を感じた。

「……は?」

腹に突きつけられたナイフ、そこからじわじわと滲み出る血をみて、気を失いそうになった。

「ちょっ…待…」

突然のことに俺は理解ができなかった。

「じゃあ〜なー。会えてよかったぞ瀬川」

そういうと、江頭は去っていった。
そして江頭がすぐそこの角を曲ろうとしたその時、江頭が誰かに殴られて倒れたのが目に入った。

「……!?」
「誰だてめ……ってお前!萩村!!」

その名前には、非常に聞き覚えがあった。
そう、俺たちが中学のとき一番遊んでいたのが、俺と江頭と萩村の3人組だった。

「おい……久しぶりだな萩村も!」
「ああ、久しぶり」

萩村は、俺と江頭の先ほどまでのやりとりを見ていたようで、怒りを露わにして江頭に言葉を返した。

「しかし、たまたまお前を見かけたと思ったらまさかこんな…」
「ははは。ちょうど良かったよ萩村。お前とは瀬川と同じくらい仲良くしてたからなあ」

そんな会話が意識の奥でかろうじて聞こえていた。
俺はもう助からないとわかっていたので、萩村には逃げてほしいと思っていたが、次の瞬間、薄れていく視界の端で、血を流して倒れる萩村の姿を俺は見た……

* * *

「ーーっ!?……ここは………」

次に俺が目を覚ました場所はこの、私立ピースフル学園だった……

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