【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
244 - 「プロトステガ攻城戦3―闇刃」
「うっ…… ま、まずい……」
鷲獅子のホーネストとともに、女騎士のアネスティーが地上へと落下していく。
浮島プロトステガから脱出した直後、島からの逃亡者を逃がさんと動き出した一つ目の浮島巨人兵が放った熱光線をもろに浴びてしまったのだ。
被弾する直前、ホーネストはアネスティーを庇るように体勢を入れ替えたため、アネスティーが即死するような事態は回避できた。
だが、ホーネストは意識を失う程の深刻なダメージを受けてしまっていた。
「ホーネスト! 起きろ! 起きてくれ!」
鳥の子色の美しい翼は無残にも黒く焼け焦げ、赤く爛れた皮膚が酷く痛々しい。
アネスティー自身も相当なダメージを負っていたが、自分の事よりも長年共に戦ってきた相棒であるホーネストの心配が優った。
変わり果てたホーネストの姿に、アネスティーは瞳に涙を溢れさせながらも、今は悲しんでいる場合ではないと歯を食いしばる。
「早く治癒を……」
焦る気持ちを鎮め、詠唱に集中する。
だが、落ちていくアネスティー達に追従していた黒い靄がそれを阻止した。
「魔力弾!」
「きゃあっ!?」
黒い靄から放たれた黒い弾丸が、治癒魔法に集中しようとしていたアネスティーの横腹に当たり、ホーネストの上から弾き飛ばす。
「うぐっ…… し、しまった!?」
「ヒョッヒョッヒョッ」
不気味な笑い声とともに、黒い靄の塊が迫る。
その靄からは、黒く染まった瞳を大きく見開きながら狂気的な笑みを浮かべる男が、アネスティーへ短杖を向けていた。
(くっ、ここで終わる訳には……!!)
アネスティーは咄嗟に剣を抜き、落下しながらも左手を前に向け、剣の先を男へ向けて構える。
「剣技――飛び立つ雷鳥!!」
素早く突き出した刺突の先から青い雷撃が発生。
その雷撃は一瞬で黒い靄の男へと迫ったが、男はそれを難なく躱してみせた。
「そんな見え見えの攻撃が当たるとでも思いましたかぁ?」
(やはりこの体勢では満足に剣技も使えない! だが、このままでは私もホーネストも……)
「ヒョッヒョッヒョッ、お返しデス! 闇刃!!」
男が振るった短杖から、三日月状の黒い刃の光が放たれる。
それは、触れたものを切り裂く魔法の刃だ。
アネスティーは剣を盾にして防御姿勢を取るも気休めにしかならず、黒い刃は容赦なく腕と胸部から肩にかけての鎧を切り裂いた。
「くっ……」
だが、アネスティーの身に着けている鎧は魔法耐性の高いミスリルの鎧である。
衝撃によるダメージこそあるが、単発ではミスリルの鎧を断ち切るまでの威力はなかったようだ。
しかし、空中故に踏ん張ることもできず、攻撃魔法を受けた衝撃で身体が回転してしまう。
必死に男を見失わないように首を回すも、飛行魔法を習得していないアネスティーが圧倒的に不利な状況は変わらない。
無防備な状態のアネスティーに迫った男は、笑みを浮かべて嬉々として魔法を行使し続けた。
「まだまだですよぉ! 闇刃! 闇刃! 闇刃!!」
「うぐっ…… ぐっ…… きゃあ!?」
男が放った黒い刃が次々にアネスティーの身体を刻む。
さすがのミスリルの鎧も、連続で魔法を受けたことでひび割れ、徐々に欠け始めた。
防具で保護されていない肌は裂け、鮮血が宙を舞い、みるみるうちにアネスティーの身体は血塗れになっていく。
だが、男は攻撃の手を緩めない。
男がここまで執拗に攻撃を繰り返すには訳がある。
高高度からの落下であっても、鷲獅子騎士であれば無事に着地するための魔法を習得しているからだ。
だが、それも魔法を行使できなければ、落下の衝撃で命を落とすしかなくなる。
プロトステガの魔法使い達は、それを熟知していた。
(このままでは私もホーネストも…… どうすれば……)
苦痛に顔を歪めながらも、近くに仲間がいればと周囲を見回す。
だが、上空には黒い靄が他にも三体。
更なる追っ手が迫っているという絶望的な状況が分かっただけだった。
アネスティーとともにプロトステガを訪れていた仲間も、プロトステガの魔法使い達によって追撃を受けており、散り散りにさせられていたのだ。
(ここまで、なのか……)
そう諦めかけたアネスティーの視界に、数メートル先にまで迫った男の顔が映り込む。
人を嬲るのが楽しくて仕方がないという顔だ。
「もう終わりですかぁ? では闇に沈みなさい」
狂気的な笑みを張り付けた男が、再び短杖を振り上げ、魔力を練り上げる。
短杖の先に黒い光が集まり、男の詠唱で黒い刃と化した。
「ダークブぶっ!?」
だが、その詠唱は最後まで発せられなかった。
短杖を振り下げる直前に、凄まじい勢いで横から飛来した紅蓮の炎の塊によって弾き飛ばされたからだ。
「なっ!? なんだ!?」
アネスティーは目の前の出来事が理解できず、無意識に弾き飛ばされた男の行方を目で追った。
男は、身体に纏わせていた黒い靄を霧散させていた。
黒いローブを靡かせて、そのまま意識なく暗闇に染まる陸へと落ちていく。
(何があった!? やったのか!? あの炎の塊はなんだ!?)
男を弾き飛ばした炎の塊を探す。
暗闇の中で眩いばかりの光を放つそれは、大きく弧を描いて方向転換すると、落下するアネスティーに迫った。
(く、くる!?)
焦るも、迎え撃つほどの体勢にない。
だが、次の瞬間、アネスティーは自分の目と耳を疑った。
「加勢しよう」
その炎の塊は、炎の翼を生やした男だった。
▼おまけ
・簡易魔法
[C] 闇刃 (黒)(1)
[闇魔法攻撃Lv3]
「その刃は、死を運ぶ鎌にも、拷問の鞭にもなる。どちらも、俺たちにとっては絶望でしかない――プロトステガの囚人ライオス」
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