【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
189 - 「シルヴァー戦9―王都消失」
(何で城が爆発? ハインリヒがやったのか?)
中型シルヴァーを討伐し、空へと戻った直後、突然城が大爆発を起こした。
あたりを見回してみれば、街は火の海で、亀裂の入った地面からは、数多のシルヴァー達が噴水のように湧き出し続けている。
マサトが王都へ到着した時には、確かにまだ奮闘していたはずの魔導兵や兵士達の姿は、いつの間にか残骸や死体へと姿を変えていた。
唯一、空では使い魔ファージが絶えず応戦してはいるが、無尽蔵に湧き出してくる青銀色のシルヴァーに、徐々に押され始めているようにも見える。
(魔導兵でも、シルヴァー相手じゃ太刀打ちできなかったか…… と言っても、こっちも厳しいか。大量に召喚した使い魔ファージでも、さすがにこれ以上は数で圧倒される)
赤く燃える地上から、灰色の煙と青銀色のシルヴァーが空へと無数に立ち昇り、使い魔ファージで埋め尽くされた黒い空と交わる。
城の上空は既に青銀色に染まっており、その色は少しずつ周辺へと広がっているようだ。
そして、その青銀色の空の真下には、銀色に輝く女王シルヴァーが、特に何をする訳でもなく、再び空へと戻ったマサトをジッと見つめるように鎮座していた。
(元凶のあいつは静かだな。俺の出方を窺ってるのか? 不気味だ)
女王シルヴァーと、あの中型シルヴァーが放つ魔導砲の威力であれば、使い魔ファージは簡単に消し飛んでしまう。
だからこそ、それを敢えて撃たせてその中を闇の衣の無敵Lv3を頼りに突き進み、そのまま相手の口の中へ特攻して爆破するという作戦を立てていたのだが、どうやら一度の施行で警戒されてしまったらしい。
爆破が駄目でも、接触してさえいれば、失敗することが許されない神の激怒が不発に終わることもないと判断していたのだが、どうやら別の方法で女王シルヴァーへ接近しなければいけなくなった。
(まぁ魔導砲を封じさせれたのであればいいか。ファージの被害も少なくて済む)
マサトが気を取り直し、纏う炎の出力を上げる。
すると、その動きに反応するように、女王シルヴァーも動いた。
突如、口を大きく開き、停止。
(なんだ……?)
訝しんだマサトが目を細めた次の瞬間、マサトは身体を引っ張られるような感覚に襲われた。
「な!?」
引っ張られたと感じただけで、実際に身体への影響はない。
だが、マサトはこの感覚に見覚えがあった。
「マナ回収か!!」
女王シルヴァーの周辺から光の粒子が舞い上がり、その大口へと吸い込まれていく。
「不味い!!」
咄嗟に女王シルヴァー目掛けて飛び出したマサトだったが、青銀色のシルヴァー達がその行く手を阻んだ。
「くっ! 邪魔だ! どけ!!」
灼熱の炎で焼き払うも、次から次へと向かってくるシルヴァー相手に、中々進む事が出来ない。
「永遠の蜃気楼! 真紅の亜竜! 灰色の翼竜! 全員こっちに来い!!」
三つの咆哮が空に轟く。
個々に戦わせていたドラゴン達がすぐさまマサトの元へ駆けつけ、マサトへと群がっていたシルヴァー達を掃討し始める。
永遠の蜃気楼は光のブレス。
真紅の亜竜と灰色の翼竜は炎のブレスで豪快にシルヴァー達を焼き払った。
そのお陰もあり、マサトの視界が少しだけ開けた。
だが、開けた視界の先に見えた光景に、マサトは顔を引き攣らせるしかなかった。
「マジかよ…… あの中型も量産できんのか……」
女王シルヴァーの胴体から生えていた巨大な鎌のような触手――中型のシルヴァーが、次々と外へ産み落とされては、再び胴体に生えてを繰り返していたのだ。
そうやって増えた数体の中型シルヴァーは、すかさず口を大きく開き、その口を空へと向けた。
「くッ! 散開!!」
その刹那、紫色の光が瞬いた。
ドラゴン達に散らばるよう指示を出したが、中型シルヴァーの放った魔導砲の到達の方が早かった。
複数の魔導砲が青銀色のシルヴァーを焼き払い、直撃を受けたドラゴン達が悲鳴をあげる。
(不味い…… これを受け続けたらさすがのドラゴン達もやられる!!)
その間も、女王シルヴァーは中型シルヴァーを産み落とし続ける。
魔導砲を放った後にできる一瞬の隙も、新たに生まれた中型シルヴァーが空へ向けて魔導砲を放つせいで、ドラゴン達は回避行動に専念しなければならず、反撃にでることができない。
だが、その魔導砲のお陰で、マサトの動きを邪魔していた青銀色のシルヴァー達も一緒に消え去った。
(よし! この隙に!!)
邪魔者が消えて自由になったマサトが、女王シルヴァー目掛けて急降下をかける。
迫るマサトを迎撃するべく、中型シルヴァー達が魔導砲を乱れ撃つも、闇の衣を身に纏ったマサトに効果はない。
すると、シルヴァー達はマサトに魔導砲が効かないと判断したのか、魔導砲の標的からマサトを外した。
魔導砲が止んだことで巻き添えで消されることがなくなり、再びマサトの進路上に群がってくる青銀色のシルヴァー達。
その数は圧倒的で、密集地帯は青銀色の壁と化していた。
「無駄ぁあ!!」
だが、勢いのついた人間火の玉と化したマサトは、その程度では止められなかった。
拳銃の弾丸が壁を穿つように、青銀色の壁を勢いよく貫通すると、そのまま女王シルヴァーまで数十メートルのところまで迫った。
「おらぁあああ!!」
背中から極太の火柱を生やし、ミサイルの如く加速していく。
加速した身体に飛来したシルヴァー達が次々にぶつかり、その度に身体に衝撃が走った。
だが、アメフトで鍛えたマサトのタックルは硬く、その程度の衝撃で身体の軸がブレたり、衝撃による恐怖でメンタルが動じることはなかった。
車に引かれた羽虫の如く、ぶつかったシルヴァーが次々にミンチになったが、闇の衣で3点以下のダメージが無効化されるマサトにダメージはない。
その勢いのまま、女王シルヴァーまで後十数メートルのところまで到達したその時――
女王シルヴァーが白く輝いた。
「なっ……ぐっ!?」
次の瞬間、白い壁のようなものが迫り、衝突。
その衝撃の大きさに、マサトの顔が歪む。
何かが割れたような音が聞こえ、割れた硝子のような白い光の破片が散らばった。
(なんだ!? 光の壁!? バリアか!?)
多少勢いを殺されるも、構わず加速するマサトへ、次々に白い光の壁が迫る。
「ぐっ…… いっ…… ぐはっ!?」
勢いに任せて何枚も突き破ったものの、その衝撃は無視できるものではなく、遂には勢いを殺され、光の壁によって外へ押し返されてしまう。
「な、なんだよこれ!?」
白い壁から少し距離を置いたマサトは、女王シルヴァーが白い光でできた球状の膜に覆われていることに気付く。
白い光の波動は、女王シルヴァーを中心に発せられていた。
更にはその周辺にいる中型のシルヴァーからも一定間隔で放たれ続け、それらが女王シルヴァーの放つ光の波動と合わさることで、巨大なドーム状のシールド――防御円を形成していたのだった。
「そんな防御手段ありかよ…… くそ!」
火球を数発放つ。
だが、防御円に阻まれ爆発しただけで、防御円に変化は見られなかった。
(ダメか! じゃあこれなら!)
今度は接近して心繋の宝剣で斬りかかる。
斬った場所に裂け目ができたものの、すぐさま新たな防御円によって修復されてしまう。
「厄介過ぎる! なんだよこれ! 亀作戦かよ!」
中途半端な火力では、この防御円を抜くことはできそうにない。
かと言って、対象に接触していない状態では、最後の切り札である神の激怒は使えない。
しかし、硬直状態が長引けば長引くほど、有利になるのはシルヴァー側なのは間違いなく――
その証拠に、防御円の中では、女王シルヴァーが中型シルヴァーを増やし続け、防御円の外には青銀色のシルヴァーが今も湧き続けている。
このままでは、敵の戦力は増える一方だった。
そして再び強力な進化を遂げることがあれば、その時点で人類側の敗北が決まる。
「防御に徹底すれば勝てると踏んだのか…… くそ…… 背に腹は変えられないか」
マサトは女王シルヴァーの防御円から距離を取り、再び上空へと戻ると、心繋の宝剣をしまい、右手を振り上げた。
身体から紅い光の粒子がぶわっと溢れ、振り上げた右手の掌に集まり、紅い光の球体を形成していく。
光の球体はぐんぐんと成長し、直径1m程の大玉へと膨れ上がる。
だが、女王シルヴァーは守りを固めるだけで、そこから動こうとしなかった。
次々に生まれる中型シルヴァーが、防御円の形成に参加し、女王シルヴァーが展開する防御円をより強固なものへと変えていく。
(これを見て逃げないということは…… あれで防ぐ自信があるのか? それなら!!)
マサトがより大量のマナを掌に込める。
すると、再び紅い光の球体は膨れ上がった。
――2m
――――3m
直径が4mに近付いた時、マサトの身体を紫色の電光がバチバチと走り始めた。
だが、まだ痛みはない。
おそらく、闇の衣の無敵Lv3効果だろう。
「ここらへんが限界か」
光の球体が直径4mを超えると、シルヴァー達の動きに変化が起きた。
それまで防御円の近くに群がり、様子を窺っていた青銀色のシルヴァー達が、マサトの行動を阻止しようと、一斉にマサトへ向かって飛び始めたのだ。
「そうだろそうだろ。さすがにこれは耐えられないよな! ファージ!!」
マサトの言葉に応じ、使い魔ファージ達が再びシルヴァー達と相対する。
それにドラゴン達も加われば、青銀色のシルヴァー程度に抜かれることはない。
シルヴァー達の焦ったような行動に、マサトは勝利を確信しつつ、最後の一言で呪文を完成させる。
「これで終わりだ! 火の玉!!」
[UC] 火の玉 (X) ※Xは赤マナのみ
[火魔法攻撃LvX]
赤マナの分だけ超強力な火の玉を放てるX火力呪文だ。
たった10マナで空を喰らう大木をも簡単に吹き飛ばした火の玉に、今回は限界まで赤マナを注ぎ込んだ。
恐らく100マナは軽く超えているだろうくらいにしか、マサトは把握していない。
目的は女王シルヴァーの撃破、ただそれだけだ。
マサトの言霊に応じ、紅い光の球体が、巨大な紅蓮の火の玉へと姿を変える。
その全力の火の玉を、マサトは女王シルヴァー目掛けて放った。
「いけぇええええ!!」
まるで隕石が落下していくように、巨大な火の玉が地上目掛けて落ちていく。
そして、女王シルヴァーが展開している幾重にも重なった強固な防御円へ、マサトの放った巨大な火の玉が衝突したその時――
王都全てを飲み込むほどの強烈な閃光が発生した。
やがて閃光が消え、世界が色を取り戻す――
その世界は、数分前の世界とは思えないほどに、周辺の景色を一変させていた。
王都から離れた上空で、肉裂きファージに連れられていたハインリヒ三世が、その光景に息を飲む。
「王都が…… 一撃で…… 余は悪い夢でも見ているのか……」
◇◇◇
王都から南へ離れた山岳地帯。
ガザの南西の砦――フィデリティ砦へと続く山道には、王都ガザから逃げてきた住民達が長い列を作っていた。
住み慣れた王都を背に歩く住民達の表情は、皆一様に暗い。
振り返れば、王都の様子が一望できるが、誰も振り返ろうとはしなかった。
振り返ったとしても、そこには辛い現実が見えるだけだからだ。
だが、そんな住民達を更なる悲劇が襲った。
世界が一瞬だけ白く染まる程の閃光。
その閃光に、皆が目を細めた直後、声を上げる間も無く地震と突風が襲う。
恐怖と不安で顔を青くした住民達が、恐る恐る王都へと振り向く。
そこには、巨大なキノコ雲が昇り、第三城壁含め、ガザ全てが消えて無くなっていた。
言葉を失ったまま、呆然と立ち尽くす住民達。
絞り出したかのような震える声で、誰かが呟く。
「ああ、神よ…… どうか…… どうか、主人が無事でありますように……」
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