【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

153 - 「黒死病の魔女」


<ステータス>
 紋章Lv30
 ライフ 16/46
 攻撃力 99
 防御力 5
 マナ : (赤×5810)(緑×128)(黒×52)
 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
     炎の翼ウィングス・オブ・フレイム
     火の加護
     火吹きの焼印
 装備:心繋きずなの宝剣 +99/+0
     火走りの靴
     火投げの手袋
 補正:自身の初期ライフ2倍
    +2/+2の修整
    召喚マナ限界突破12
    火魔法攻撃Lv2
    飛行
    毒耐性Lv5
 疫病:黒死病ペストLv1 New


 ライフは20近くあるのに、新しく疫病「黒死病ペストLv1」が追加されたせいで、少し心許なく感じる。

 サーズを立つ際に、持参してきた特製回復薬をがぶ飲みしたのに全快できなかったのは痛い。

 MEで、疫病カウンターの扱いはどうなっていたのか…… 

 うーん、思い出せない。

 恐らく、弱体化や除去系だったと思うが……

 即影響がないようなので、それだけは助かった。

 早くローズヘイムに戻って、薬学者アポセカリーの二人に治療してもらわねば……

 目の前に浮かぶ、半透明のウィンドウを眺めていると、ウィンドウ越しにオラクルと目が合った。


「ああ、待っててくれたのか」

「おにいさまの用が済んでからで大丈夫ですよー。ぼくはお利口に待てますです! ふんす!」


 そうドヤ顔で胸を張るオラクルから状況を聞き出す。

 この禿山に生息していたゴブリン全て、オラクルの力によって支配できたことが分かった。

 オラクル曰く、30万はいるとか。

 多過ぎわろた。

 まぁ、数こそ多いが、ここに生息するゴブリン達は、はっきり言って弱い。

 個々の戦闘力は、今まで出会ってきたどのモンスターよりも劣るかもしれない。

 動きも対して速くないし、体重ウェイトが軽いので大抵の攻撃を簡単に弾ける。

 条件反射で避けまくったが、これなら不意打ちされても致命傷にはならないだろう。

 手足も細く、骨も脆いので素手で殴っただけで倒せる。

 まさに、新米冒険者の練習相手にはうってつけのモンスターという感じだった。

 そんな弱小ゴブリンではあるが、繁殖能力が群を抜いて高く、飢餓に強いという特徴をもっていた。

 共食いで仲間を食い殺す間隔よりも、子供を産む間隔の方が短く、食料がなくとも共食いだけで繁殖できるという驚異の能力だ。

 食べ残しについても無駄がなく、頑丈な骨は武器にするし、脆い骨はそのままバリバリ食べる。

 まぁ、骨もそんなに丈夫じゃないので、武器にしたところでタカが知れてるが……

 食べる量が究極に少ないため、排泄物もほぼなく、洞窟内が汚物塗れになるということもないという。

 恐るべし禿山のゴブリン……

 計画通りに支配できて良かった。


 ――ふと、昔を思い出す。


 VRで、兄とゴブリンデッキ同士で戦ったときのことだ。

 俺は大量のゴブリンを展開し、兄には配下のゴブリンがいない絶対有利な場面でそれは起きた。

 兄が笑いながら「まいどあり」と言ってオラクルを召喚。

 結果、俺のゴブリンは全て奪われ、そこで決着がついた。

 あのとき兄が使っていた卑怯極まりないデッキにいたキーカードが、このオラクルだった。

 むしろ、そのキーカードがある状態でゴブリンデッキ同士の勝負をすること自体が卑怯だったと気付いたのは数日後のことだったが。


 ――話を戻そう。


 オラクルの [カリスマ] 能力には、効果範囲がある。

 オラクル自身がそう言っているのだから、まぁ間違いないだろう。

 [カリスマ] の効果範囲は10km程度。

 [カリスマ] と同じく、[ゴブリン持続強化+2/+2] の効果範囲も10km程度だという。

 なので、ここにいるゴブリンは、最低でも 3/3 サイズということになる。

 そうなると、ゴブリンの首長がもつ [ゴブリン持続強化+1/+1] にも同じくらいの効果範囲があるのだろう。

 効果範囲は意外に広いが、ローズヘイムにオラクルを移した場合、ここにいるゴブリンの支配が解けてしまうので、オラクルをゴブリンのいる場所から離すことできない。

 ここのゴブリンを使う時は、オラクルとともにごっそり移動させるしかないだろう。

 出来ればゴブリンと人族が共存できる程度には教養を叩き込みたいが…… 

 うーん、ゴブリンを見た感じだと、相当難しそうだ。

 アホ過ぎて……

 因みに、支配したゴブリンの能力に大きく左右されるという前提はあるが、どんなバカなゴブリンであっても、簡単な指示くらいは従わせられるようなので、いざという時は軍隊としての起用が可能だというのは間違いないらしい。

 ここの戦力はお察しだが、爆弾を持たせて特攻させたりすれば、かなり怖い存在になりうるだろう。

 ME同様、ゴブリンと爆弾、ゴブリンと自爆は切っても切り離せない関係にある運命らしい。

 まぁ、たとえ戦力にならなかったとしても、よい魔力マナ稼ぎ場にはなってくれそうだ。

 すると、オラクルが俺の太ももをちょんちょんとつつきながら笑顔で話しかけてきた。


「おにいさま、魔女が犬を二匹連れて向かってきてるみたいです。倒しちゃいますか?」

「魔女…… ああ、あの魔女か。確かヴァーヴァと名乗ってた」

「うん、おっぱいばいんばいんのおばさん」

「ばいんばいんって」

「ぼくも大きいおっぱいほしいな〜」

「いやいや、いらんでしょ。ん? オラクルって男の子じゃ……」

「あ、来ちゃいました。おっぱいばいんばいんのおばさん」


 突如、空から黒い大きな影が二つ落ちてきた。

 その影の正体は、火花の混ざった吐息を口から吐き出している黒い狼だった。

 その黒い狼の上には、長い髪を靡かせた魔性の美女――ヴァーヴァが乗り、鬼の形相でこちらを睨んでいる。


「誰がおばさんだってぇッ!? もういっぺんその言葉を口に出してみなッ! 全身の皮を剥いで引き摺り回してやるよッ!!」

「おっぱいばいんばいん!」


 ヴァーヴァの揺れる胸を指差し、オラクルがにししと笑う。


「エロ餓鬼が! 人の胸が揺れるのがそんなに楽しいのかいッ!? 呆れて物も言えないよ!」

「おにいさま、凄いね! ばいんばいん!」


 オラクルが心底楽しそうに、手で胸の形を作りながら上下に揺らす真似をしている。

 何がそんなに楽しいのか。

 俺には分からない。

 でも、まぁ、子供ってそういうとこあるよね。

 馬鹿にされた上に無視されたヴァーヴァは、額の血管を増やしているが――


「ぎゃーぎゃー煩い餓鬼だよッ! だからアタシは餓鬼が嫌いなんだッ! とっととアタシの前から消えちまいなッ!!」


 そう告げたヴァーヴァが、髑髏の装飾が禍々しい黒い大杖を振り下ろした。

 直後――

 黒い閃光とともにオラクルが横っ飛び――

 オラクルがいた場所へ黒い稲妻が落ち、バァーンッ! と音が弾けた。


「危ないなー。不意打ちはやめてほしいんだけど」


 腰に手を当てて、ムスッとしながらヴァーヴァを半目で睨むオラクル。

 まさか攻撃を回避されると思わなかったヴァーヴァは、その眼を見開き、少し焦った顔をしていた。


「な、なんで初見であれが避けれるんだい!? アンタに使うのは初めてのはずじゃないか!」

「おっぱいばいんばいんのセクシーで綺麗なおねえさまのことなんて、まるっとがばっとお見通しです! びしぃっ!」


 オラクルがドヤ顔でヴァーヴァを指差す。

 その指摘を受けたヴァーヴァは、まるで雷を受けたかのように驚き、固まった。


「ア、アンタ…… 今なんて言ったんだい……?」

「うにゃっ? おっぱいばいんばいん?」

「違う! その後だよ!」 

「まるっとがばっとお見通……」

「バカバカ! 違う! 行き過ぎだよ! 前! その前! ほ、ほら……」

「セクシーで綺麗なおねえさま?」

「ヒャァアア! そ、それだよ! アンタ本気で言ってんのかい!? 嘘だったら承知しないよ!?」


 そう言いつつも、両手で頬を抑える仕草をしながら、顔を赤らめてくねくねと身をよじらせている。


「ん? なんでぼくが嘘つく必要があるの?」


 オラクルの言葉にわなわなと身を震わせている。

 その言葉が余程嬉しかったのか、ついには自分から要求し始めた。


「も、もう一度言ってごらん。さ、さぁほら! 遠慮はいらないよ!」

「セクシーで綺麗なおねえさま」

「あああああ! なんて良い子なんだい!? こんな可愛い子、八つ裂きにするなんてとんでもない! おい、アンタ。この子に感謝するんだね。この子のお陰でアンタの命は救われたんだよ!」


 ヴァーヴァが俺に眼を向けると、急に眉間にしわを寄せて睨んできた。


「んん? おにいさまは、おねえさまには負けないよ?」


 オラクルが余計な一言に、ヴァーヴァのこめかみがピクピクと動く。


「ほ〜、それは大した自信じゃないのさ。アタシは試してもいいんだよ?」

「いや、戦わなくて済むなら、それで。俺もあなたみたいに綺麗で魅惑的な美人を傷付けたくない」

「はぅぅうんッ!?」


 ヴァーヴァが急に仰け反り、地獄の猟犬ヘルハウンドの上から転げ落ちる。

 試しにオラクルの真似をして褒めてみたのだが、想像以上に効果覿面のようだ。

 もしかしたらオーリアよりチョロい人なのかもしれない。


「お、おい、大丈夫か?」


 近くに駆け寄ろうとすると、二匹の地獄の猟犬ヘルハウンドが「ガルゥウ」と喉を鳴らして威嚇してきた。


「よしな! アンタ達は手出しするんじゃないよ!」


 ヴァーヴァが「はぁ、はぁ」と息を荒げながら、ゆっくりと立ち上がろうとして、失敗する。

 ふらつき、横に倒れると、お姉さん座りの状態でこちらを見た。

 頬は赤く上気し、乱れた髪が胸元にかかり、とても色っぽい。

 腰まで裂けているスリットからは、肉質の良い太ももが大胆に露出している。

 その姿を見て、オラクルが興奮気味に叫んだ。


「うっひゃー! 悩殺ぽーず! すごい! おねえさますごいえろい! えろえろいよ! これは、さすがのおにいさまもメロメロだよー! 」


 ヴァーヴァがオラクルに視線を移す。


「……本当かい?」

「本当だよ! おにいさまとぼくは意識が繋がっているからね! おにいさまが興奮すれば、ぼくも興奮しちゃうんだ! ムラムラおにいさまは、ムチムチおねえさまにメロメロのばっきばき!!」


 この子は何言い出してんだ……

 いや、確かにムラムラはしたが……

 こういうことは口に出すものじゃないだろ?

 もしかして、何かの作戦?

 ヴァーヴァがポーっとした表情で、視線を俺へと戻す。


「ア、アンタ、アタシに欲情してんのかい?」

「……え? あ、いや、その、まぁ、うん。美人がそんな風に色気を出していたらそりゃあ誰だって……」

「そ、そうかい……」


 ヴァーヴァが俯き、小刻みに身体を震わせる。


「あ、本当に大丈夫?」


 そう言って近付いたその時――

 後ろ膝に衝撃が走った。


「なっ!? 膝カックン!?」

「にしし! おねえさま! 今です! 今がチャンスです! おにいさまを押し倒してしまいなさい!!」

「も、もう我慢できないよッ!!」


 ヴァーヴァに飛び付かれ、そのまま口を奪われつつ押し倒される。


「はぁはぁ…… もう逃がさないよ」


 馬乗りになったヴァーヴァが紫色の長髪を背後へ振り払うと、肩にかかっていた服を外す。

 するすると音を立てて、胸を隠していたものが地面へと落ちる。

 露わになる大きな果実に、自然と視線が吸い寄せられ――


「フフフッ、なんだい、アンタもやっぱり男なんだねぇ。安心したよ。思う存分楽しもうじゃないのさ」

「あ、いや、ちょっと……」


 抵抗しようとした俺へ、オラクルが耳元で囁いた。


「おにいさま、糞以上に役に立たない矛盾だらけの倫理観は早く捨ててくださいね。ここはこの人を籠絡して仲間に引き込むべきです。と、言うことで、ぼくは事が終わるまで洞窟探検してきますので、ゆっくりと子作りに励んでください! じゃっ!」

「ちょ、お前、口悪…… ってそんなキャラだったのか!? ってか子作りって、あっ……」


 再びヴァーヴァに口を口で塞がれる。

 絡み合う舌。

 主張の強い香水の香り。

 それに、辺り一面に充満する濃い血の臭い。

 先程まで戦闘を繰り返していたせいもあり、身体は既に臨戦状態だった。

 『リスクが高過ぎる!』『抑えろ!』と叫ぶ理性と、『そのままやっちまえ!』『漢を見せろ!』と煽る性欲がぶつかり合うも、オラクルの『もしかしてビビってますですか?』という一言に、理性が完封される。


「っ、ぷはぁ、はぁ…… ちょ、いや、あ、もういいや…… なるようになーれ……」


 抵抗するのもバカバカしくなり、そのまま欲に身を委ねる。

 紫色の髪が、ヴァーヴァの動きに応じてサラサラと踊る。

 そのリズムは徐々に激しくなり、ついには俺の上で暴れ狂い始めた。

 その姿が、また魅惑的で、いつの間にか俺も必死に腰を動かして応じていた。

 洞窟内に、度々悩ましい喘ぎ声が響き、山彦のように木霊し続けること、小一時間――


「地面が冷んやりしてて気持ちいいな……」


 地面に大の字に寝転がりながら、天井の見えない暗闇を見つめる。

 どのくらいそうしていたかは分からない。

 全て事を終えた今は、頭がボーっとしてしまって何も考えたくなかった。

 視線を胸の上へと移す。

 疲れ果てたヴァーヴァが胸の上で吐息をたてているのが見えた。


「白眼で言動がちょっと怖いけど、普通に美人だよな……」


 ヴァーヴァの行動に抗えなかったといえば嘘になる。

 オーリアとノクトの事があってから、性に対して抵抗が無くなったのかもしれない。

 まさかこの人とやれんの? と顔をもたげた性欲に、理性が働かなかった。

 オラクルが言うなら…… と無警戒に受け入れてしまった。


「あー、ダメだダメだ。今は考えるな」


 なんで俺はこんなことしたんだと後悔しそうになる気持ちに蓋をすると、改めてステータスを表示し、現状の状態を確認した。


 すると――


「おいおい…… なんだよこれ……」


 性欲に身を任せた代償として、得てしまったモノ――


「いつの間にか、黒死病ペストLv1がLv2になってんじゃん……」


 ヴァーヴァと肌を重ねたマサトの肌には、先程にはなかった黒い斑点が複数浮かんでいた。



◇◇◇



 入り組んだ洞穴の先、ヴァーヴァの喘ぎ声が微かに聞こえるその場所で、オラクルが壁に向かって立ち止まり、何やら口をもごもごと動かしていた。


『もしもーし? 聞こえてますかー?』

『聞こえておるから安心するのだ。それで、首尾はどうなったのかの?』

『もっちろん、任務完了ー! ばっちり! そこそこ使えそうなおねえさんだったから、言われた通りおにいさまを仕掛けたら、素直に子作り始めちゃったー』

『ふっふっふ。それでいいのだ。さすがだの、オラクル』

『にしし、ぼくもおかあさまにまた会えるなんて考えもしなかったよ。また一緒に世界征服を目指せるね!』

『そう焦るでない。われとそなたがここに召喚されたと言うことは、あの厄介な冒険者――ハンスも現れる可能性もあるということなのだ。慢心せずに、今は地盤を高めることが先決だの』

『はーい。あのハンスに二回も足元をすくわれたら笑えないもんね! 今度は負けないぞー!』

『ふっふっふ。その時は頼りにしておるからの』

『まっかせてよー! でも、まさか召喚されてすぐにこんな命令を受けるとは思わなかったよー。びっくりしちゃった』

『われには全てお見通しだからの』

『ははー、お見それしましたー。おかあさまも相変わらずだね! ここでも子供をたくさん産んでるの?』

『そうだの。だが、毎日屈強な子を産み続けた昔と違って、今は勝手に召喚されているから楽ではあるの』

『そうなんだー。てっきり、おにいさまとの子をぽこぽこ産んでるのかと思ってたよー』

『ふっふっふ。旦那さまとの子は、ゆくゆくの。今はまだ旦那さまの考えが堅い。旦那さまと子をもうけるには、旦那さまにもう少し子作りに寛容になってもらわねばならんからの』

『なるほどー。そのための布石かー。仲間に引き込むとしても手段が強引だなーと思ってたけど、それなら納得!』

『この世界はまだ未知なることが多い。くれぐれも油断するでないぞ』

『もっちろん! 前みたいなミスはもう懲り懲りだからね! あれは悔しかったなぁー』

『くふふ、そうだの』

『おかあさまも気を付けてね!』

『そなたもな』

『うん!』


 念話が終わると、「んー!」と背伸びをしながら一息つく。


「さってと、おにいさまとおねえさまの情事はまだ当分終わりそうにないし、ここの宝物庫にでも行ってみるかな〜。なんか使えそうなものがあればいいけど」


 そう吐き出すと、オラクルは両手を頭の上で組み、鼻歌を歌いながら、スキップで暗がりに消えていった。



◇◇◇



「りゅうきしさまとばぁば、おっぱじめちゃったど…… おだ…… いつまでこうしていればいいんだど…… いまさらはなしかけられないど……」



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