【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
21 -「異世界5日目:狼と犬と猿」
目を開けると、そこには木製の天井が。
顔を横へ向けると、すぐ近くにレイアの寝顔がある。
結局、昨日の夜はレイアの誘惑に抗えなかった。
激しくベッドを揺らした後、いつの間にか力尽きて、そのまま一緒に眠ってしまっていたらしい。
(こんな美人と、こんな関係になれるなんて夢のようだ…… 夢のような場所ではあるが……)
ちょっとした出来心で、レイアにかかっていた布を捲ろうとしていると……
「……お前はいつも早起きだな」
「うおっ!? お、おはよう」
(お、起きてたのか。 心臓が口から出るかと思った……)
「ふふ、見たいなら見て構わない。遠慮するな」
朝から誘惑してくるレイア。
男の欲望を満たしてくれる魅惑の美女が、一糸纏わぬ姿で目の前に横たわっている。
張りの良い、とても大きな…… 大きな……
下半身にズキンッと痛みが走ったことで、少し正気に戻る。
(あ、危ない……
また欲望に体を支配されるところだった……
これ、ハマると抜け出せなくなるパターンじゃないか……?)
褐色の美人の妖艶な微笑みに、末恐ろしさを感じる。
(落ち着け…… 落ち着け…… おっさんの裸…… おっさんの裸…… おっさんの裸……)
必死に自分の性欲を抑え込もうと、意識を集中する。
「つれないな…… 我慢は体に毒だぞ?」
「ちょ、だめ、す、ストップストップ!」
レイアが俺に体を預けてくる。
すると突然動きを止めるレイア。
「まずい。来る」
「え? な、何が?」
素早い動きでベッドから抜け出し、洋服を着始めるレイア。
「マサトも早く服を着ろ! ネネがやってくる!」
(そ、それはまずい!
あの子に知られると色々脚色された上で一気に集落に広まるからな……)
そっと窓の隙間から外を見ると、黒い尻尾をピンッと上に伸ばしたまま、嬉々とした表情で走ってくるネネの姿が視界に入った。
(あ、こいつ故意犯だな……)
◇◇◇
本日は晴天なり。
雲一つなく澄み渡る青空に、清々しい気持ちになる。
ネネが突入してきた直後は少しドタバタしたが、集落では着々とワイバーンを運搬するための準備が進められていた。
集落の広場には、複数の背負子と大八車のような木製の人力荷車が並べてある。
集落から運搬に参加するのは、レイアと他3人のみ。
1人は狼人のガル。
こげ茶色の体毛を身に纏った狼のおっさんだ。
筋骨隆々で隻眼、両耳は先端が何かに齧られたように千切れてる。
もう1人は犬人のポチ。
白毛の青年で背が低い。
つぶらな瞳が特徴で、とても鼻がきくらしく、ガルと2人でこの集落での狩人担当をしているとのこと。
最後の1人は猿人のゴリ。
見るからにゴリラな黒毛のおっさん。
ガルよりも体格が一回り以上大きく、こちらも筋骨隆々。
寡黙だが、気は優しいらしい。
極度の近視らしく、少しヒビの入った眼鏡をかけている。
木こり担当だそうだ。
今は、俺とレイアを含めて5人で、この後の打ち合わせをしている。
「ガルとゴリはそれぞれ荷車を、ポチは周囲の警戒」
「あいよ~。だがレイアの姉ちゃんよ、こんな大勢で森入って、本当に大丈夫なんだろうな?」
「ワイバーンを単騎で討ったマサトが護衛に入る。心配は不要だ」
「マサトさんがワイバーンを単騎で討伐したって話は本当だったんですね!? うわぁ! 凄いなー! そんな英雄みたいな人に出会えるなんて!」
胡散臭そうな眼を向けるガルとは対照的に、ポチは尻尾をブンブン振り回しながら目を輝かせていた。
猿人のゴリは、表情を変えずにその様子を見守っている。
「目的地までは、俺の配下であるゴブリンも一緒に皆さんを守ります」
「たった2体のゴブリンで何ができるってんだか……」
「えーっと…… まぁいざとなったらその場である程度は召喚できるんで」
「………」
ガルは俺の言葉に少し呆気にとられたようだったが、何か言い返そうとして止めたみたいだ。
「ガル、その辺にしておけ。マサトの言っていることは事実だ」
「そうは言うけどな~、そんな突拍子もない話をすぐ信じろっていう方が……」
「まぁまぁ、ガルさんそう言わずに。現にマサトさんがゴブリンを従えているのは周知の事実ですし、今回の任務はネスさんの指示でもあるので信用しても良いとボクは思いますよ」
「あ〜はいはい分かった分かった。分かったから擦り寄ってくんなポチ。鬱陶しいわ!」
ポチさん、顔が白い柴犬そっくりだからか見ててなんだか和む。
この人もここにいるってことは辛い過去をもってるのかな。
ガルさんは明らかに何か拷問を受けてたような傷が多いし、ゴリさんは体格からして労働奴隷系だろうか。
俺の考えを見透かしたかのように、ガルが再びこちらに睨みを利かせてきた。
「あんたが今何考えてんのか分かるぜ」
「え? あ、いや、その……」
「まぁ安心しろや。おれぁ片目も耳も半分ねぇが、あっと鼻も半分死んでるが、その分周囲の気配には敏感なんだ。足手まといにはならねぇ〜はずだぜ?」
「ああ、そんな。足手まといとか全く考えてなかったですよ。本当です」
「ふ〜ん。そうか。ならいいんだがよ〜」
ガルさんは気配に敏感なのか。
また岩陸亀に突然噛み付かれるようなイベントは避けたいから助かるな。
ゴブ郎は念のため先に拠点へと遣いに出しているし、見ゴブはネネと一緒に卵の見張りを任せてある。
「お前達、無駄話はそこまでにしてそろそろ出発するぞ」
レイアの言葉をきっかけに、俺たちは荷車へ背負子を積み込み、ワイバーンを討伐した場所へと出発した。
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