【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

20 -「心繋の宝剣」

 住民達が準備に動いている中、俺は人手をどうしようか悩んでいた。


<ステータス>
 紋章Lv4
 ライフ 40/40
 攻撃力 3
 防御力 3
 マナ : (赤×2)(緑×18)
 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
 装備:なし
 補正:自身の初期ライフ2倍
    +1/+1の修整
    召喚マナ限界突破6


[SR] 猩紅しょうこう色のダイヤモンド (2)
 [マナ : (赤)]
 [マナ生成(赤)]
 [生贄時:マナ生成(赤x2)]
 [耐久Lv1]


[SR] マナ封じのペンダント  (1)
 [マナ : (赤)]
 [マナ生成 : (赤)]
 [マナ生成限界2/10]
 [耐久Lv1]


 支配下にあるモンスターは、確か計15体。

 こちらに連れてきているのは4体。

 赤マナは4に、緑マナは13だ。

 この集落の人達を守れるくらいの戦力は欲しいけど、今いるゴブリン達だけだとやっぱり少し心許ない。

 それにワイバーンの硬い皮膚を切り裂けるくらいの武器も必要だ。


(……あ、武器か!)


 すかさずデッキを確認する。


[SR] 心繋きずなの宝剣 (5)
 [装備補正 +X/+0 ※Xは支配モンスターの数]
 [装備コスト(3)]
 [耐久Lv2]


(……あった)


 このデッキに入っていた唯一の装備品。

 支配モンスターの数だけ攻撃力が上がる、不思議な武器。

 小型モンスターを大量に召喚して、この武器で止めを刺すといった戦略のキーカードだ。

 ただ、そもそも敵プレイヤーにリーチの短い武器で攻撃できる状況自体が稀なため、ゴミSRとして扱われているカードでもある。

 召喚コストも、装備コストも安くない。

 耐久Lvも低いため、呪文ですぐ破壊される。

 更には、小型モンスターを大量に召喚して維持できる戦況もそんな簡単には実現できない。

 故にゴミSR武器。


(でも、この世界なら相当強いんじゃないだろうか……)


 この時点で、既にマサトは15体のモンスターを支配下に置いていた。

 ということは、これを装備するだけで +15/+0 である。


(……それ強くね?)


 マナも潤沢にあるので、今のうち召喚しておこうと決断する。


(これでワイバーンも楽に捌けるはず)


 俺は、主に緑マナを使うイメージをしながら、装備品の召喚を行った。


心繋きずなの宝剣、召喚」


 大気中から緑の淡い粒子が目の前に集束し、刀身のないT型の柄が目の前に現れた。

 心繋きずなの宝剣のグリップを、握ったり念じたりしてみるが、何も起きない。


(やっぱり装備コストを支払わないとダメか)


 今度は、装備コストを緑マナで支払うイメージで念じる。

 すると全身から柄へと緑色の淡い光が走った。


<ステータス>
 紋章Lv4
 ライフ 40/40
 攻撃力 3 → 18
 防御力 3
 マナ : (赤×2)(緑×18 → 10)
 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
 装備:心繋きずなの宝剣 +15/+0
 補正:自身の初期ライフ2倍
    +1/+1の修整
    召喚マナ限界突破6


 攻撃力18!!

 バトルを一発で終わらせるくらいのエンド級の強さになった。

 これで、こっちの攻撃さえ届けば、大抵の物は破壊できるはず。

 ただ、MEでは武器を破壊できる呪文があるから過信はできないが。


 心地よい全能感に包まれながら、改めて宝剣の柄を握り直す。

 そしてイメージする。

 光る刀身が生えるイメージ。

 すると、柄から半透明に輝く光の刀身が出現した。


(おお、これは最高にカッコいい!)


 刀身の長さは10cm〜1mくらいまで自在に変えることができたが、湾曲させたりはできなかった。

 でもまぁ十分チートだろう。


 解体道具の目処をつけたマサトは、次に人手について考え始めた。


(うーん、人手…… 人手ねぇ……
 手持ちのマナでゴブリン5~10体くらいは一気に数を増やせるけど、長期的に考えた方がよい気もする……)


 今一気に増やすか、長期スパンで倍々に増やすかで迷う。


(マナは有限だからなぁ。
 まぁ、ゴブリン15体フルで稼働させれば運搬くらいなんとかなる気も。
 うん、今増やすより、今後のことを見据えて大量に増やす方向のがいいか)


 今後の方針を決めると、魔法陣を展開する場所について相談するため、マサトはネスへ相談しに向かうのだった。



 ◇◇◇



「ゴブリンを召喚する魔法陣を、この集落に?」

「はい、私が使役するゴブリンを、毎日1体ずつ、自動召喚する魔法陣をこの集落のどこかに設置したいのですが…… ダメですかね?」


 ネスさんは、少し驚いたような表情のまま固まっている。


(やっぱり唐突すぎたかな……
 そりゃいきなりよそ者から村の中にモンスターを召喚する魔法陣作っていいかと聞かれたら不安になるよな……
 あーくそ、失敗した……)


「いくつか、質問しても?」


 ネスさんは硬直から復帰すると、驚きの表情から一転、真剣な表情になった。

 そして相手の思考を読むような鋭い眼光で、いくつかの質問を切り出した。


「そのゴブリンが、私たちを襲わない保証はありますか?」

「は、はい。私が使役するゴブリン達は皆一様に私と意識が繋がってますので、私が命令しない限りは、間違っても危害を加えることはありません」

「もし仮に、私たちに危害を加えてきたら…… マサト君はどうしますか?」

「私の命令なしに、守るべき対象に危害を加えることがあるとすれば、それは悪意に対する自己防衛か、その行為が最良の手段かのどちらかのはずです。悪意を持ってこの集落の人に危害を加えるようなことはありえません」


 ネスさんが抱くのはごく普通な不安だ。

 そしてその可能性はないと断言できる自信がなぜか自分にはあった。

 これもゴブリンとの繋がりを感じられるからだろうか。

 ただ、それを相手に証明するとなると難しい問題だ。

 結局は、信じてもらうしかない。


「では、この集落にその魔法陣を作る理由は何ですか?」

「この集落を守りたいから…… じゃ、ダメですかね」

「なぜ、この集落を守りたいと?」

「それは…… こんな過酷な環境で暮らす人達の助けになりたいと思ったからです。いや、自分なら助けになることができるという驕りも正直あります。でも、レイアに対して向けられた皆さんの笑顔を見て、温かい気持ちになったのも事実です。寝床をお借りする恩もあります。そんな理由では、ダメでしょうか……」


 邪な気持ちなど一切ない。

 それだけは事実だ。

 俺の気持ちが伝わったのか、ネスさんは表情を崩しながらこう言った。


「マサト君の想いは伝わりました。きつい言い方での質問になってしまって申し訳ありません。私も集落の皆の命を預かっている身、皆の安全については妥協できないのです。どうかお許しを」

「あ、いえ、そんな……」

「魔法陣は、そうですね…… 集落の北西側の壁沿いに洞窟があったはずです。そこを自由に使ってください」

「あ、ありがとうございます!」

「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。ご存じの通り、この集落には戦える者が少ない。外敵から身を守ってくれる存在が増えるのは、それだけでありがたいものです」


 ネスさんと暫く話をした後、俺は集落の北西側にあるとされる洞窟へと向かった。

 集落の北西側は、ガルドラ山脈の麓にあたる褐色の岩山が隣接していた。

 ところどころに大小の洞窟がある。

 どうやら倉庫として使っているようだ。

 一番大きな洞窟に入ると、中に木箱が積まれているのが目に入った。

 奥は暗くて見えない。


 俺は宝剣を取り出して、刀身を出現させる。

 案の定、光の届かなかった洞窟内が見渡せるくらいの明るさになった。


(ライト代わりに使えるとか、なんて万能な剣なんだ…… いや、夜に使ったら悪目立ちし過ぎるから使い難いかも?)


 洞窟内は外と違いひんやりとしている。

 先へ進むと洞窟内も徐々に狭くなっていった。

 天井に手が届くくらいの高さになったところで立ち止まる。


(これ以上先に何があるのかわからないけど、この辺でいいっしょ)


「ゴブリン召喚の大魔法陣!」


(と、もういっちょ!)


「ゴブリン召喚の大魔法陣!!」


 赤と緑の淡い粒子が、暗闇を幻想的に照らしながら幾何学模様を構築していく。

 光の線は壁を這うように浮かび上がり、魔法陣を形どっていく。


<ステータス>
 紋章Lv4
 ライフ 40/40
 攻撃力 18
 防御力 3
 マナ : (赤×2)(緑×10 → 6)
 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
 装備:心繋きずなの宝剣 +15/+0
 補正:自身の初期ライフ2倍
    +1/+1の修整
    召喚マナ限界突破6


[SR] 猩紅しょうこう色のダイヤモンド (2)
 [マナ : なし]
 [マナ生成(赤)]
 [生贄時:マナ生成(赤x2)]
 [耐久Lv1]


[SR] マナ封じのペンダント (1)
 [マナ : なし]
 [マナ生成 : (赤)]
 [マナ生成限界2/10]
 [耐久Lv1]


 マナを大量に使うと、なんだか気分がいい。

 散財したときの爽快感というかなんというか。


 取り急ぎ、この洞窟には見ゴブ1を見張り役として立たせておく。


(召喚されたゴブへの案内役として一応ね。大丈夫だとは思うけど)


 洞窟を出ると、いつの間にか青かった空が赤く染まっていた。

 日がガルドラ連山へ沈み、麓にある集落はゆっくりと暗闇に包まれていく。

 そしてぽつぽつと家々に明かりが灯り、食欲を唆る炊き出しの匂いが風に運ばれてやってきた。


 人がいる。

 今はそれだけで安心する自分がいた。

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