【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

9 -「異世界3日目:悲鳴」

(あ、朝か…… 全然眠れなかった……)


 長い夜が明け、日の差し込みとともに小鳥たちがさえずり始める。

 夜中は滝の音のせいで周囲の物音が聞き取り難く、警戒にはとても神経をすり減らした。

 何も起きなかったから良かったが、モンスターが蔓延るような世界では、金輪際、滝の麓での拠点作りは避けようと心の中で誓った。


 結局、案内ゴブと狂信ゴブは朝になっても戻ってこなかった。

 だが、なんとなくだがまだ生きている気がする。

 まだ彼らとの繋がりのようなものを感じるのだ。


(召喚モンスター全てと、繋がりがある感覚はあるんだよな…… 見ゴブが死んだときは、この繋がりが確かに消えた気がしたし…… となると、まだあいつらは生きてるはず。こっちも無事に朝を迎えることが出来たし、一先ずは危機を乗り越えたと思っていいかな……)


 少しの間、無事に朝を迎えられたことにほっとしていると、洞窟の奥で魔法陣が作動したのが分かった。

 ゴブリンの大魔法陣による、ゴブリンの自動召喚だ。

 改めて見てみると、なんだかMMO-RPGでのモンスター自動ポップみたいにも思える。


(これ、もしかして、付与魔法エンチャントである魔法陣が破壊されるまで、それこそ無限にゴブリンを召喚し続ける、の? マジ? それって…… いや、す、凄いな。敵なら恐ろしいけど、味方なら頼もしい)


 もし、仮にここが異世界だとするのなら、とんでもないことをしているような気がしなくもない……

 召喚されたゴブリンは、ゴブ3と呼ぶことにする。


 マナ封印のペンダント、ウル山の紅水晶、ウル山の水晶の3つのアーティファクトにもマナが溜まったようだ。


[SR] マナ封じのペンダント  (1)
 [マナ : (赤)]
 [生贄召喚:マナカード1]
 [マナ生成 : (赤)]
 [マナ生成限界2/10]
 [耐久Lv1]


[R] ウル山の紅水晶 (1)
 [マナ : (赤)]
 [マナ生成(赤)]
 [マナ生成限界2/3]
 [耐久Lv1]


[UC] ウル山の水晶 (1)
 [マナ :(1)]
 [マナ生成(1)]
 [マナ生成限界2/5]
 [耐久Lv1]


 これで3マナ確保。

 昨日は合計マナだけ見ていたが、3マナ中2マナは(赤)だから、よく考えて使わないと勿体無いということに今更だが気が付いた。


(まぁ、気付けただけでも良しとするか)


 取り敢えず、召喚するものについては朝食を取りながらじっくり考えることに。


 昨日はジャガーの肉を食ったが、臭みが強く、筋が硬い上に不味かったので、ジャガー肉はゴブリン達に任せて、俺はウサギ肉を食べることにした。

 滝壺に沈めた大牙獣は、解体して木に吊るしてあるので、今日の夕飯は大牙獣肉になるだろう。


(ジャガーが不味かったからなぁ…… 大牙獣も期待はできないな。見た目が恐竜のような虎だし。いや、もしかしたらジャガーが不味かったのは、味付けが悪かっただけかもしれないけど)


 そんなことを考えながら、昨日食べきれなかったウサギ肉を焼いて食べる。

 味は大してしないが、常日頃から食事はプロテインとささみ肉という、味よりも高品質なタンパク質を優先する食生活を送ってきたため、この程度であれば不満すらない。


 食事も済み、今後の予定を考える。

 上流に向かうのは危険なことが分かったので、下流へと探索範囲を広げるしかないだろう。


(あんな恐竜みたいな獣のテリトリーがこんな近くにあるなら、いっそのこと拠点を捨てて本格的に移動するべきかなぁ…… でも、大魔法陣展開しちゃったしなぁ…… 貴重な戦力量産装置を放置していくのは勿体無い…… うーんむむむ…… 拠点移す場合は、誰か残して自動ポップするゴブリンの管理任せるか……)


 所持カードを1枚1枚丁寧に見直していると、驚愕の事実――元い、重大な見落としをしていることにまた気付く。


 いや、このゴブリンデッキ貰い物だし?

 今まで心の余裕がなくて、所持カードじっくり見れなかったし?

 このゴブリンのキーとなるカードに気が付かなくても、仕方ないじゃん?

 と、一通り自分を擁護した上で、一気に落ち込んだ。


[SR] 女王シュビラの結婚指輪 (3)
 [ゴブリン召喚コスト軽減 :(1)]
 [生贄時 : ゴブリン 3/3 召喚1]
 [耐久Lv1]



(ゴブリン召喚コスト軽減…… だ…… と…… なぜ今まで気付かなかった!? 俺のバカ阿呆間抜け!)


 このアーティファクトを先に召喚していたら、これまで何枚のマナカードを節約できただろうか。

 いや、よくよく振り返ってみると、この指輪を先に召喚する余裕もなかったように思えるので、きっと気付いていたとしても、このタイミングまで召喚しなかった…… かもしれない。


(よし、考えるのをやめよう。後悔しても仕方がない。先のことを考えよう。後悔先に立たず、だ)


 因みに女王シュビラというのは、固有名ユニークネイムを持つゴブリンの女王だ。

 勿論、その女王ゴブリンカードも1枚だが所持カードに入っている。

 そのカードは、最高レアリティである「URユニークレア」。

 計6マナなのでまだ召喚はできないが、固有名持ちだけあって非常に強力なカードだ。


(うーん…… ゴブリンの召喚コストが軽減される指輪は、やっぱり今からでも召喚しておいた方がいいだろうか。でも召喚コストが(3)だから、ここで(赤)を2マナ使うのはなんだか勿体無いんだよなぁ…… それに今指輪を召喚しても、所持マナが0になるので追加召喚は厳しいし……)


 今のうち、ゴブリンの首長を召喚しておきたいのだが、指輪を召喚してから首長を召喚するとなると、マナカードが追加で2マナ必要になってしまう。

 迷いに迷った末、指輪の召喚よりもゴブリンの首長を召喚することに決める。

 後のことよりも目先の戦力を優先した。

 兄がいたら、きっと「あちゃー」という顔をするだろうなという自覚はあったが、目先の不安が無視できない性格だから仕方ないだろと言い訳する。


「ゴブリンの首長、召喚!」

[R] ゴブリンの首長 2/2 (赤x2)(1)
 [ゴブリン持続強化+1/+1]


 複数のアーティファクトから粒子が溢れ出し、いつのもように人型の形を形成した後、空気中へ霧散した。

 ゴブリンの首長は、上は革製の帽子に革製の羽織、下は革製のパンツ(のような腰布?)といった服装だった。

 手には身長を超えるロッドを持っている。

 ロッドは先端が螺旋を描くように丸くなっており、外縁には棘がついている。


(思った以上に強面だな…… やっぱり蛮族の首長となると、荒々しさも兼ね備えてないとダメなんだろか。あの杖って、もはや武器だよな? 殴られたら痛そうというより、頭に穴が空きそう……)


 ゴブリンの首長は、首長ゴブと呼ぶことにする。

 首長ゴブの能力がちゃんと効いているかどうか確認するため、ゴブリン達のステータスを確認してみると――


< 今の拠点戦力 >
* 木偶ゴブ 5/4(木の棍棒 +1/+0、ゴブリン持続強化+1/+1)
* 戦長ゴブ 3/3(ゴブリン持続強化+1/+1)
* 紅蓮ゴブ 3/3(ゴブリン持続強化+1/+1)
* 見ゴブ1 2/2(木の槍 +1/+0、ゴブリン持続強化+1/+1)
* ゴブ1 2/2(ゴブリン持続強化+1/+1)
* ゴブ2 2/2(ゴブリン持続強化+1/+1)
* ゴブ3 2/2(ゴブリン持続強化+1/+1)
* 首長ゴブ 2/2
* レッサードラゴン 0/1


(おお、一気に強くなった感じがする)


 因みに、首長ゴブの能力であるゴブリン持続強化能力は、重ね掛けすることができない。

 首長ゴブを2体召喚しても、ゴブリン持続強化が+2/+2になることはない。


(首長ゴブの能力のお陰で、大牙獣ともある程度渡り合える戦力になったんじゃないだろうか。やっぱり仲間が多いと安心感が違うなぁ)


 戦場での指示出しは、戦長ゴブに一任しておく。

 首長ゴブには後方に控えて貰い、護衛として紅蓮ゴブを付ける。

 戦長ゴブが攻撃に参加すれば、ゴブリンの攻撃力が更に強化されるはずなので、大牙獣が3/3の強さであるなら、ゴブ1~3達でも相討ちに持ち込める算段だ。

 最初はゴブリン達を駒として使うのに躊躇いがあったが、いつの間にかその躊躇いも消えていた。

 現実世界では、長時間VRをプレイすることの弊害に警鐘を鳴らす団体も存在したが、直面してみると「なるほどこういうことか」と少し納得したりもした。


(もはやここが現実なのかVRなのか判断できないんだよなぁ…… はぁ……)



◇◇◇



 下流へ移動する準備のため、戦長ゴブに木の槍を予備含めて数本作ってもらっていると、突然滝壺に何かが落下した。


 ドボォオオン!


 一瞬驚いたものの、一目見てそれが狂信ゴブだと分かると、急いで滝壺に飛び込み、狂信ゴブを救出した。

 狂信ゴブは疲労困憊の様子だったが、俺の顔を見ると一瞬微笑んだ後、気を失った。

 俺は狂信ゴブを自分の寝床へ寝かせると、ゴブリン達に周囲を警戒するように伝える。


 すると、下流の方から大牙獣の低い咆哮が聞こえた。

 そして、その咆哮のすぐ後に女性の悲鳴。


(女性の…… 悲鳴? ……いや、確かに聞こえた! 女性の悲鳴が! 大牙獣に襲われている? だとしたらまずい!)


 助けないという選択肢はない。

 この世界に来て、初めて聞いた人の声なのだから!


「ゴブリン達よ! 近くにいるであろう大牙獣を駆逐しろ! そして襲われている女性を救い出せぇええ!!」


 ウガァアアア!!!


 俺の命令にゴブリン達が呼応すると、戦長ゴブを筆頭にゴブリン達が次々に森へと突撃する。

 首長ゴブと紅蓮ゴブは拠点待機だ。

 俺も木の槍を手に持ち、森へと突撃した。


<ステータス>
 紋章Lv2
 ライフ 40/40
 攻撃力 3(木の槍:+1)
 防御力 2
 マナ:なし
 加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
 装備:なし
 補正:自身の初期ライフ2倍
    +1/+1の修整
    召喚マナ限界突破5


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