崩壊の兆しある世界にて(自主的に更新停止中)

辛味噌

これはデートではありません。仕事です。

「おはようございます。実験成功ですよ。頑張った私を褒めてください!」
 この旅程から毎朝簡単な訓練を行っており、それが終了し出発の準備をしていたところにエルナがやってきた。概ね予定通りか。側によってきたエルナの頭をぽんぽんとしつつ
「ありがとう。助かったよ。ところで何か問題はあったか?」
 エルナは頭を振り
「何もなさ過ぎて逆に不気味です。それと師匠の返答は任せろとの事でした。あと近いうちに顔を見せろとの事です。」
 あいつレスティアからの監視はなしか。それとも想定範囲内での動きって事なのだろうか?しかしエイリークが協力してくれるのは助かるな。顔見せは暇を見てだな。上位森霊族ハイエルフの時間感覚なら10年後とかでも問題ないはずだ。
「あ、そうだ。」
 エルナは思い出したように
「そういえば廃村のあった辺りで汚物まみれの魔導従士マギ・スレイヴ2騎がのろのろと街道をこっちに向けて歩いてましたよ。こっちは幸い騎乗してましたのでさっさと追い越してきましたけど、臭う事におう事。」
「やっぱり生きてたか。ところで他に誰か随伴者とか居たか?]
「いえ。魔導従士マギ・スレイヴを避けるように100サートくらい離れて隊商とか旅人が居たくらいですね。」
 しかし1騎足りないな。
「もう1騎居なかったか?」
 エルナに確認してみる。すると
「居ました。居ました。廃村のあった辺りの汚物にほとんど埋もれてましたけど。しかし超巨大鵬ガルガンチュア・ロック鳥も極めて稀に見る生物ですが、それのフン爆撃の直撃とか末代まで語られるレベルの強運ですね。」
 可笑しそうに笑う。確かに強運だな。
 あ、そうだ。確認事項があったな。
「あと確認したいのは魔導従士マギ・スレイヴの特長とか装備は?背嚢は背負っていたか?」
「街道に撒き散らす汚物のほうが気になって意識してなかったけど。」
 そういって報告を始める。
 報告をまとめると、家紋なし。ただし肩に何かを削り取った痕がある。外観は不統一のように見えていくつか共通部品が散見。冒険者などが使うパッチワーク騎を装っているけど正規品。武器は腰の後ろに星球棍モーニングスターが懸架してあった事。背嚢は装備していなかった。

「あまり意識してなかったという割には視るべきところはしっかり見ているな。」
「ま~師匠からのちょ___教育の賜物ですね。」
 エルナをある場所へ案内する。

 目的地に着きそれを見て
「これって魔導客車マギ・ビークルじゃないですか!もうこんな贅沢許したんですか?」
 それは長さ8サートではあるが、魔導輸送機マギキャリアを客員輸送用に仕様変更した奴であった。外観は箱型だが飾り気もないが中身は特別仕様である。
「昨日から解禁したんだけどな。年少組みも結構疲労が溜まってたし、中にはモノフェーズ男爵とロナルド会頭も寛いでる。他の隊商やら旅人が合流して大所帯になり護衛の冒険者も増えたからね。もういいかと思ってね。俺らの共有資産だが、一応ロナルド会頭の所有物と周囲には告知してあるから対外的には問題ない。」
 ジト目で見るのはやめろ。
「俺らと同行すると便利アイテムやら魔法で楽ができるが、それが普通でないと実感してもらえれば今回はそれでいいのさ。」
 用事を済ませここまで急ぎで来たエルナに客車で休むように言い、再度労いの言葉を掛けて準備の終わった大所帯を確認し王都へ向け出発させる。全体の統括は相棒に一任する。俺はといえばエルナが乗ってきた馬を借りて元来た街道を戻る。さて仕事だ。





 それにしても汚物撒きちらしとか、暫くは街道警備の依頼は受けたくないな。
 のろのろ歩いていたとは言ってもそれなりの速度は出ているはずだ。このままだと昼過ぎには追いつかれるか?
 通常であれば魔導騎士輸送機マギ・ナイト・キャリアを使わないで移動する場合は背嚢を背負わせる。動けば発熱し自然冷却しにくい騎体は最終的に筋肉が弛緩し暫く稼動できなくなる。それを防止するために騎体内に冷却タンクを内蔵しているが、長距離移動時はそれでは足りないし、いつ給水出来るかわからないので背嚢に冷却水を積んでおくのが一般的である。冒険者で魔導従士マギ・スレイヴ持ちはそうしてるし、そうでないなら軍隊のように補給用の荷駄隊が随伴する。
 乗り捨てて後で回収ってつもりなんだろうな。なら迂回させて熱弛緩オーバーヒートさせてやるか。地形幻覚ハリューシネイトリーテレインで長大な地割れでも作って街道を一時的に塞ぐか。
「我は綴る。第14階梯。幻の意。地形、変化、変質、変容、虚構、制限、現実、反映、拡大、短縮、発動」
 宙に真語を綴りつつ呪句を詠唱する。脳内では魔法の演算処理が行われ真語魔法の地形幻覚ハリューシネイトリーテレインが発動した。目の前の街道を横切るように長さ10サーグkm、幅20サートの地割れが出現した。あくまでも幻覚だが、幻覚と認識できない者、幻覚と疑っても看破できない者にとっては本物と同じである。地割れに落ちれば墜落死したと認識し死亡する。
 本来は丸一日持つが、効果時間を半日に絞った。これで他の街道利用者への被害は少ないはず。

「ヴァルザスはなぜこんな手の込んだ事をするのですか?それ相応の実力もあるのだし強引に排除とか、そもそももっと楽して移動も出来ましたよね?どうしてかなと思いまして?」
 馬上には同伴者が1人居てそう尋ねてきた。騎乗し現場を離れつつ
「寄生虫よけかな。」
「寄生虫ですか?」
「強い者、金がある者、他にはない物などを持っていると、それに群がり恩恵を受けたがる寄生虫が多くてね。俺としては鬱陶しい寄生虫に集られたくはない。持ち上げられた挙句に不要になれば裏切られるなんて何度も見てきたからね。」
 未遂に終わったけどアリアだってその一人だ。

 少し悩んでいたようだが
「でも正直それは穿ち過ぎだと思うのですが?そういう方が居る事は理解できるけど、みんながみんなそうだとは思えないの。」
「俺としては、俺の身内に被害が出る事だけは避けたいから穿ち過ぎで問題ないのさ。それに___。」
「それに?」
「力で現状を自分の都合のいいように変えることは出来るかもしれないが、それをやり続ければ今度は自分が力で踏みにじられそうな気がしてね。」
「そういうものですか?」
「そういうもんだ。」
 ん?ちょっと思いついた
「意地悪な事を聞くが、マリアは聖都にいたとき[聖女]として敬意を集めてたけど、あの生活が恋しかったりするのか?」
 ムッとしたがそんな表情も可愛いな。
「意地悪な質問ですね。はいかいいえで言うならはいですね。敬意とか尊敬より、私にもできる事があるんだって実感できるのが良かったんです。」
「何かに安易に縋る者、与えられるのが当然と思い込む者などは過剰な期待を寄せるし、期待に応えなければ声高に糾弾する。俺としてはマリアには程ほどにして欲しいな。」
 この話は終わりにしようって事で打ち切り暫くは会話もなく速歩トロットで進む。マリアを前に乗せてる都合でこれ以上の速度は出せない。会話がないのはマリアが乗馬慣れしてなく上下に揺れる移動に四苦八苦しているからである。そんな姿も可愛い。最早何してても可愛いとしか思わないのでは?とか思わなくもない。

 地平線のあたりに皆が移動しているのを発見したので少し速度を落とす。揺れが落ち着いたのでマリアが振り向き
「この間の話の事です。」
 続けるように促すと
「私とヴァルザスとの関係性については理解できてると思ってます。いま、ヴァルザスはどこを見ているのでしょう?」
 これはあれかな?ウケを狙うと怒られる展開かな。
 取り合えず会話しやすいように移動を常歩ウォークに落とす。
「10年色々考えたよ。気持ちは通じてたと思っていたが、もしかしたら吊橋効果だったのではないか?とか、実は利用されただけじゃないのか?とか色々ね。こっちの世界に拉致られてマリアの噂を聞いて最初に思ったのは安堵かな。」
「安堵ですか?」
 コテンと小首をかしげる。
「10年探し続けて見つからない焦りとか諦めもあったからね。今はリセットが一番かなと思っている。記憶が戻ってからゆっくり話し合って決めようと。」

「なんか微妙にはぐらかされてます?」
 ジトーって感じで睨んでる。
「マリアはあまり冷静に現状を考えられないだろ?」
 耳元まで顔を寄せ
「きみ、毎日の夢のせいで俺の事を意識しすぎだろ。」
 そう囁いてやる。一瞬で顔を真っ赤にし睨んでくる。
「記憶が戻るまで時間もあるだろうからその件は宿題にしておこう。マリアもよく考える事だ。」
 精神魔術師チャーマーならもうちょっと上手くやれるんだろうけどな。マリアにはじっくり悩んで欲しい。記憶が戻ったときにその思案は役に立つだろう。

「もうひとつ聞きたいことが。」
 きみまだ顔が真っ赤だぞ。
「アリアとエルナとミズホの事どう思ってるんですか?」
 あ、嫌な事聞いてきたな。同じパーティの一員ですとかいうと怒られるやつだろ。ニナを除外してきた辺りどっかのエロフになんか吹き込まれたのかね?
「アリアは三年ほど寝食を共にした弟子ではあるな。馬鹿だけど。エルナは使える娘だから置いているだけだし、ミズホは保護かな。」
 間違った事は言ってない。単に言ってない事もあるけど。表情を見た限り納得はしてないな。仕方ない。
「俺にとっては君の記憶が戻るまではあまり考えたくないネタではある。向けられている気持ちは理解しているが、安易に応えるのも不誠実だし、現状もあまり誠実とはいえないのも理解している。」
 考え込んでいるな。言葉は濁したが上手く伝わってるといいんだけどな。無言のまま6日目の目的地である宿場街に到着した。馬は借り物らしいので、この宿場街で返却することになる。
 先に馬を下りマリアが下りるのを補助してやる。アリアが門の前に迎えに来ていたのでマリアの事を頼み、もう一度馬に乗って宿場街の周囲を廻る。念のため今夜も警戒はしておこうと思い、その仕掛けをするところだ。


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