崩壊の兆しある世界にて(自主的に更新停止中)

辛味噌

検証の為に

 明日の支度も終わり一つ気になった事があって池の畔に戻ってきた。
水の精霊ウンディーネよ。ここに来たれ。」
 精霊魔法の精霊招来コール・スピリットを使ってみる。
 すると池から6歳児くらいの水で出来た幼女が出現した。特に用事があるわけではないのでそのまま送還する。
「精霊界から呼び出した精霊は普通に精霊界に帰るのか____。」
 もう一つ実験してみるか。女性陣が使っている離れに向かう。既に明りは落とされている。なんか夜這いみたいで嫌だな。精霊を視る事の出来る者は暗闇でも大雑把に周囲を知覚できる事もあって特にトラブルもなく居間リビングに到着。周囲を見回すとソファーでアリアが寝ている。目当てのエルナが見当たらない。と思ったら足元で寝ていた。危うく踏みつけるところだった。
 屈んでエルナを揺すってやる。
「おい。起きろ。大事な用事がある。」
 少し揺すっているとぼんやりとこちらを見てハッとして
「夜這いですか!ま、まだ心の準備が、それにアリアが側に居るのに恥ずかしい____。」
「冗談は良いから。ちょっと付き合え。」
 エルナのペースに巻き込まれそうだったので睨んでおく。


 こちらの心情を察したのかおとなしく着いてきたが外に出て月明かりに照らされた姿を見て
「あ~、その、俺が悪かった。着替えてこい。それから出かけよう。」
 寝巻き代わりに購入した透け透けのベビードール姿だった。その姿に不覚にもエロいという感情は湧かなかったが綺麗だと思ってしまった。俺の中ではイロモノ枠だったんだが。悔しい。
 無言で離れに戻っていったエルナが程なくして普通の服に着替えて戻ってきた。
「お待たせしました。」
「ちょっと高速飛翔ハイフライトで移動するから失礼するよ。」
 そう断っておいて横にして抱き上げる。いわゆる「お姫様抱っこ」である。上位森霊族ハイエルフらしく整った綺麗な容貌が頬を朱に染め慌てふためく様が妙に可愛いとか思うがそれを口にしてやるのもなんか負けた気分なので、無言のまま飛翔し目的地に向かう。

 半刻ほど飛行し、森の手前に降りる。落ちていた木の枝を取り
「我は綴る。第一階梯。彩の意。輝き、光、発動」
 真語魔法の光源ライトを枝先に唱える。
「少し奥へ進もう。」
 着いて来いと促す。
「森に来るならこの服は失敗したかな。残念。」
「奥までは入らないから問題ないだろう。」
「まさか初めてが森での青か___あいたっ」
 最後まで言わせず拳骨を落としておく。時々本気なのか冗談なのか判断に迷う。
 光源ライトの明かりに照らされて5分ほど奥へ進むと少し開けた場所に出る。
「頼みたい事がある。」
 これから頼む試みが上手くいけば俺らの計画が楽になる。
 俺の表情で冗談を言う状況ではないと察したのか大人しく続きを待っている。「
「エルナかガーランドのどちらかに頼もうかと思ったが、総合的に判断してエルナに頼む事にした。」
 時空収納インベントリから封書と水晶柱を取り出し
「これを持って妖精界に里帰りして欲しい。」
 綺麗な顔が歪んだ。泣きそうだな。何を思っているかは想像するに難しくない。
「早とちりするな。それなら態々ここまで連れて来ない。この手紙をエルナの師匠のエイリークに渡して欲しい。」
「え?わたし師匠の名前言いましたっけ?」
「名前は聞かなかった。前世の俺の事をよく聴かされたと言った。それにゆとり教育の上位森霊族ハイエルフにしては100歳程度でその完成度の高い技量と上位森霊族ハイエルフらしからぬ言動で誰だかわかったよ。」
「これを届けるだけですか?」
「体感時間は短いだろう。物質界こっちの世界と妖精界だと時間の流れは向こうは3分の1くらいか?俺らが王都から戻って来る前には戻ってこられるはずだ。転移結晶も預けるから旅装とかも必要ないだろうし今から行ってもらえると助かる。」
 エルナは差し出したままの封書と水晶柱を受け取る。
「解りました。リスクもなさそうですしすぐに終わらせて帰ってきますね。」
「すまない。リスクはある。生命を脅かすとかではないだろうけどね。」
「ど、どういったリスクなんでしょう?」
 少し声が震えている。
「この妖精界への帰還は俺の予想の裏づけを取る為の実験でもある。成功すれば行動の選択肢が増える。」
「はい。」
「俺と相棒がこの世界に降り立って直ぐに次元門ディメンジョンゲートを開いたが次元の壁は越えられなかった。この世界にだけある呪いのようなものだ。だが精霊界から精霊を召還し、送還できる事を確認して思ったのは、物質界同士での移動が制限されているだけではないのかという事だ。」
「要するに妖精界に戻り他の系列世界に行って、また妖精界経由でこっちの世界に戻れるかの確認ですね?リスクは戻れないかもしれないという事で間違いないですか?」
 頷く。
「急いで行って間に合うようなら王都まで追いかけます。建国祭を楽しんで戻るとなると往復で一ヶ月はかかりますよね?」
「妖精界で足止めされなければ早馬で十分追いつくとは思う。エルナの気持ちは解った上で言うのは卑怯だろうが、居てくれると助かるのは間違いない。」
 エルナの場合はエイリークに聴いた俺の話を妄想してそれに恋してる状態ではないかと疑っている。現実の俺という人物を見れば醒めるかとも思ったが案外本気かもしれないな。
「では急いで戻ってきます!建国祭ではデートして下さいね。」

「母なる森への扉よ開け!」
 エルナの上位森霊族ハイエルフ語による文言によって空間が歪む。なぜ森へ連れてきたかと言えば上位森霊族ハイエルフが妖精界への扉を開ける場所は森の中だけだからである。
「行ってきます。」
 にっこりと微笑み空間の歪みへと消えていった。


 暫く待っても姿を現すこともないようなので、簡易式で転移テレポートを発動させ館の庭に戻る。
 突然の出現に先客が驚いて尻餅をついていた。
「いきなり現れてびっくりしました。」
「すまない。寝ていたと思っていたから配慮してなかった。」
 手を差し伸べて起こしてやる。小さく華奢な手だなと思った。気になっていた事を聞くことにした。
「ミズホはこっちの世界でやっていけそうか?元の世界が恋しくなったりしないか?」
 ミズホは少し考え込んでから
「心配してくれてありがとうございます。不安は多々あります。でも元の世界が恋しいとかはありません。」
「不安の内容は他者から殺意を向けられる事と人を殺してしまう可能性?」
「殺意っぽい感情を向けられることはありますけど、人を殺す可能性は滅多にないから確かに不安はありますね。ヴァルザスさんとかはどう考えているんですか?」
「慣れて何も感じなくなる奴もいるが、俺の場合は生き物の形をした物体として考えるようにしているな。そうは言っても自分の命には代えられないし、いざとなれば躊躇も後悔もしないかな。もし無理だと判断したら遠慮なく言って欲しい。未成年のミズホを迎え入れた責任者として責任は取るつもりだ。新しい道が見つかるまで援助でも何でもするよ。」
「なんでも____。」 
 そこは頬を赤らめるところかね?
「話は変わりますけど、一日25サーグkmとか移動距離短くないですか?」
「まずは強行移動ではないし、朝は朝食の支度やら野営地の片づけをして出発。お昼の休憩地を決めて食事と休憩。夕方になる前に野営地の候補地を探し野営の準備と夕飯の支度を始める。このあたりでだいたいは日が落ちる頃になる。荷馬の手入れは結構時間がかかって夜中になることもある。移動に割いている時間は考えているより多くはないんだよ。乗合馬車や馬での移動ならもうちょっと進めるが、馬は何日かごとに完全休養日を必要とするし、雨が降れば移動速度はかなり落ちる。石畳の街道は馬車だと滑るしね。それに旅慣れない者には長距離移動は負担も大きい。特に後半がね。」
 納得したようだ。
「便利な道具や魔法は多々あるけど、最後にモノをいうのは己自身の肉体だって事を忘れないで欲しい。も遅いし寝直すと良い。」
 ミズホを離れまで送っていく。

 面倒が起きないといいな。

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