シスコンと姉妹と異世界と。
【第186話】父と迷子なチビッ子と⑮
「はっ……んっ……あっ……」
意識が覚醒し、聴覚保護が切れる。
するとどうだ、こんな嬌声が聞こえてくるではないか。
「…………?」
とりあえず目を開けてみるが、眼前にはフェリの背中だけが広がる。加えてなぜか金縛りにあったかのように身動きが取れない。
淫魔とはいえ、長年生きているとはいえ女子、こう密着してるとなんかいい匂いがするッ!!
……まぁ要するに、すげぇ目覚まし効果があったわけだが。
目覚まし効果の理由はもう一つ。
俺の掌の中にあるふわとろな何かだ。いやまぁ分かってるんだけどさ、そこはほら比喩的表現に留めとこうかと思ったわけで。
ただ、その感触を得ている腕、掌は俺の意志とは関係無く動いている。これは比喩ではなく直接的な事実だ。
確実に俺の手の自由はフェリによって奪われている。
ていうかコイツ、三人ひとつのベッドに川の字で寝てる間にナニしてくれてんだ。使ってくれてんだ。
あ、ちなみに俺が真ん中に寝ています。
パッと見外はまだ暗いから、余程運が悪くなければユイは寝てるだろうが……。まぁ、下に使われなくてよかったと思うべきなのか。
前世から現界までの人生(キャリア)三十年間童貞を貫いた俺(そのせいで魔法使いになってるわけじゃないよね!?)では、百戦錬磨の淫魔を満たす事など出来ぬだろうに。
ああくそ、フェリのやつ魔力供給も兼ねてしてやがるな。段々また眠くなってきやがった。
こうなったら最後くらい俺の意思で思いっきり揉んだろ……。
と、魔が差して。
俺はフェリのたわわに実ったそれを力いっぱい鷲掴みにした。
……少し、膝の辺りが湿っぽくなった気がした。
___何時間か後。
目が覚めたわたしは、どういう訳だかショー君を後ろから羽交い締めにしていた。仮にも王様が男の子と密着して寝たってなったら、結構マズいことになるかも(ショー君が、だけど)!?
……、とりあえずサッと顔を洗ってフェリさん(起きた時には姿が消えていた。朝日が駄目だとかそんな性質があるのかな?)が残していった冷たいお茶を啜った。
壁に掛けられた時計を見ると午前七時半。
普段の自分だったら寝坊の部類に入る。
とりあえず、一人大きなベッドで眠る少年を起こす事にした。
「お兄ちゃん、起きて」
「ん〜? ロ……ユイか。……zzzzz」
肩を揺すると返事はしたが、一瞬で寝落ち。ショー君もまだまだ子供だなぁ。
「もう……、わたしも二度寝しちゃうよ? ほらちょっと、そっち詰めて? もう、仕方ないからお姉さんが添い寝してあげよう。ん、……案外これはこれで、フェリさんがいないから二人で丁度いい大きさなのかも」
背中合わせに寝てみると、そんな感想を持った。
王宮ではこうやって好きな時間に寝るなんて出来ないし、まして日付を跨いでから寝ることの方が多い。二度寝なんか以ての外だった。
「学生生活かぁ、一度でいいから行ってみたいなぁ。……、行っちゃおうかな。いやいや、警備上の問題とか色々あるし? でも騎士学校に攻め込んでくる輩なんていないもんね……」
あれ? 今日は火曜日だからショー君も学校がある。いっそついて行ってしまおうか。決定。
王宮へは騎士学校から転移してしまえばいいか。探しに来たフィーナには悪いけど、その方がずっと楽だし。
でも金曜日には祝賀会で顔を合わせることになるんだし、学校に迎えに来る時について行っちゃうのもアリかな。
どっちにしよ〜。
でも来週の火曜日にルナさんの魔具屋に行く約束もある……。またこっちまで来るのは来週でいっか。事務仕事は無いけど、色々とこなさなきゃいけない雑務はあるし。
考えてたら頭痛くなってきたし、寝ちゃお。
ここ数年で二度寝なんか初めて。なんか楽しみ、いい夢見れそう。
___暫くして。
「よく寝た……」
おあっ!? なんで目の前にユイの顔が!?
俺の背中側で寝てたはずじゃ……。
「十一時っておい……学校行くどころじゃないじゃん。もうサボっちまって、このままユイをどっかに送ってやらないと」
寝過ぎじゃねえか俺? いやでも、フェリが俺から精力吸い取っていったわけだし、仕方ないのか?
「え? ちょ、ユイっ!?」
寝惚けてるんだろうか抱き枕にされる。
身体が、動かん……。
って、ユイの力マジで強いんだった!!
ルナさんの店のドアぶっ壊すくらいだしな。
そんなことより、このままじゃ漏れる、ヤバい!!
「(ナビ子、助けて! 家のトイレの座標固定頼む!!)」
「(お任せ下さい!)」
一日ぶりに呼んだからか、どこかご機嫌そうなナビ子の声が脳に響く。
「『転移魔法(テレポート)』!!」
……なんとか、俺の精神的、社会的尊厳は保つことが出来た。
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