シスコンと姉妹と異世界と。
【第163話】北の幸24
「で、この洞窟がその魔物の住処って所みたいね」
アリスさんが地図を頼りに先導し一つの洞窟に辿り着いた。
ザ・ダンジョンといった感じが新鮮で楽しみだ。
拒否権の無い命令で強制的に来させられた訳だけど、これならちょっとばかりは来てよかったなと思える。
「一応、調査が第一目標で、討伐は二の次でいいんですよね?」
早速洞窟に、入るなり俺はアリスさんに尋ねた。
「倒せるレベルにあれば今日倒すし、一旦帰って準備すれば済むなら明日倒すし」
アリスさんの頭には滅ぼす事しか無いようだ。
聞いた俺が悪かったのだろうか。
「こういう所の魔物ってどんなのが出るんですか?」
ここのダンジョンに来てからは専ら、アリスさんとの会話が弾む。
元日本人同士、こういうファンタジー感にはグッとくるものがあるから、どうしても共有したくなってしまう。
アリスさんはこういう依頼も既に数多くこなしてきているんだろうけど……。
「所により全然違うんだけど、大概の洞窟は湿気てるからか、スライム系のは確実にいるね〜」
「スライムか〜」
思い浮かべるのはもちろん、水色のアイツ。
真ん丸お目目に空いた口の愛くるしい姿のアイツ。
「ショーくんが期待するようなスライムじゃないよ? 顔も無いしトンガリも手足もない。ホタテみたいに胴体を取り巻くように黒い点みたいな目があるけど、それも小さいから離れちゃうとよくわからないことが多いのよ。身体はゼラチン質で出来てるけど、なんかもう水溜まりが起き上がってくるみたいな感じよ?」
「うへぇ〜。でもすぐ倒せるお馴染みの雑魚感なんですよね?」
「いや全然。対策を知らないと普通に殺されるわよ?」
「スライムで!?」
「スライムで」
真顔でそう返されてしまうと、冗談ではないのだと嫌でも分かる。
「先生、対策をお願いします」
「うん。まぁさっきも言った通りゼラチン質なんだこれが。だから斬撃も打撃も効果無し。切れるし潰せるんだけど、すぐにくっ付いて再生しちゃうんだよね」
「なるほど……」
「だから基本的には魔法で消し飛ばすの。あと、洞窟が湿気てるから火系統の魔法の威力が弱まりやすいのも注意かも。下手に隙を作ると口や鼻から身体に入って、そこで留まって窒息させようとするから」
「攻撃方法がこんにゃくゼリーなのか……」
餅も詰まらせたりするよな。日本でも大体毎年お正月には数人死者が出てたし。
「凍らせれば、斬撃も打撃もしっかり効くよ。冷やすことで細胞が壊れて再結合しなくなるみたいなの」
「どうやっても魔法は必須か。……ん?」
「どうした急に人の顔をジロジロ見て。何かわたしの顔に付いてるか?」
「あーいや、何にも? ただの安全確認だよ」
姉さんはどうやって任務をこなしたのだろう。魔法なんて今年入るまでまともに使えなかった筈なのに……。
「エリーゼは基本的にわたしと一緒に任務こなしてたから……」
「あぁ〜……」
察しましたよ。
「ご苦労様です」
「今日はショーくんに任せるから」
「そ、そんな!? 押し付け……」
「適材適所と言いなさいな」
「はぁ……、わかりま痛っ」
石につまづいてしまった。話すのに夢中で足元が疎かになってたか。姉さんに怒られるヤツや……。
ただ、なんかつまづいた石が光ってる……?
「危ないッ!」
アリスさんが俺がつまづいた石を思い切り蹴飛ばす。
十五メートルほど飛んだところでボンとその石が爆発した。
「マジか? この世界の石って爆発物だっけ?」
「あれは『ばくだんいわ』よ。この洞窟内で息絶えた者の魂が岩や石に乗り移った魔物。さっきみたいに何も巻き込めずに無駄に爆死すると、それが怨念になってまた取り憑いて……って」
「なんなんすかその負の永久機関は」
「取り憑いた怨念が強いやつだと、さっきみたいな球体の身体から腕が生えるわ。敵を手で掴んで自爆するのよ」
それではもう『ばくだんいわ』じゃなくて『イシ○ブテ』だ。
「大丈夫か、ショー」
「姉さん……」
思ったより優しい声色に戸惑う。
「済まないな、洞窟で気を付けなければならないことも幾つかあったんだが、まだ話す前に遭遇するとは……。次はちゃんと守ってやるからな」
「……、スライムが出ても?」
「なっ!?」
姉さんがアリスさんを睨み付けるが、肝心のアリスさんはそっぽ向いてどこ吹く風だ。
「……スライムの時は、援護を頼む」
「ん。りょーかい」
そんなこんなで洞窟を更に奥へと進んでいく。
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