シスコンと姉妹と異世界と。
【第129話】討伐遠征⑲
「シャロンさんが先陣を切った後、エリーゼさんと私とで追撃します。先ほどショーくんからも言われたよう、エリーゼさんはその盾で攻撃を上手く殺してください。それに続く形でヴィオラさん、サニーさん、アリスさんの三人が魔法による攻撃で九尾を釘付けにして貰います」
「俺とローズは……」
「お二人には強力な魔法攻撃をもって、目標の殲滅をお願いします」
「と言われてもどこまで……」
「私はお二人の入学試験での様子を観させて頂いていました。ローズさんの、会場を破壊した母君譲りの魔法威力。ショーくんの柔軟な発想とマナの制御力。それらが組み合わされば更に高みへと届くことでしょう」
「了解です」
「うぅ……、分かりました」
段取りも付いたのでとりあえずお返事。ローズとしてはちょっと恥ずかしい黒歴史みたいな感じらしい。
「どうするローズ?」
未だ何も思いついてはいないのだが。
「お兄ちゃん。あの九尾が操ってるマナの属性って火と」
「闇だろ?」
「お兄ちゃん、よく気付いたね。座学はからっきしなんだとばかり思ってたのに……」
「そこそこはテストの時でも出来てるもんだぞ!?」
マックス五割強、くらいは。
「ま、まぁ、だからだ。俺たちは光系統の魔法で九尾をやっつけることになる。闇を克するのは光だからな。逆もまた然りなんだが」
「ちゃんと覚えてる……。感心感心」
ローズも姉さんも座学に関してはケチの付けようがない。才色兼備ってやつだ。
「じゃんけんみたいなもんだからな。これは覚えやすかった」
実際転生する前で手を付けていたファンタジー系ゲームでも、そんな感じで属性の優劣があったからスッと頭に入ってきた。というか元々入っていたようなものだ。
学校での座学においては詠唱や詠唱文の意味を紐解いたりすることが多いのだが、この世界の魔法はイメージをマナが具現化してくれるシステムらしいので、そもそも本来は誰でも詠唱が無くても魔法が使える筈なのだ。詠唱の意味を理解することでイメージしやすくする狙いなんだろうけど。
学ぶ姿勢は大切なんだろうが、それだけでは一つの魔法において一種類のイメージしか持てないのではないかと思い、俺は座学をある程度のところで放棄した。という前向きな言い訳。
そもそも詠唱省略が出来てマナによるイメージの再現度がほぼ百パーセントっていうのは、ある種の真理の到達点みたいなもので、一応そこに自分がいるのだと思うと本当に勉強なんかしなくても……。
って思ってしまう。
「で、わたしはどうしたらいいの?」
ローズの問いかけで意識が現実に引き戻される。
「んー、そうだな……。俺が魔法で目標、ってか目印? みたいなのを作るから、そこに向けてソルスあたりの光魔法を撃ってくれ」
「分かった! 全力をお見舞いしてやるんだから!」
「あーいや、全力じゃなくていいぞ」
「なんでよ!?」
ローズが驚きを隠さずに迫る。発言の意図が理解不能と言わんばかりだ。
「手を抜けって意味じゃなくてな。お前が全力だと最悪山が消し飛んで俺らまで塵と消えるからな?」
「お兄ちゃんなら何とかなるんでしょ?」
「即死したら無理だわ。あと、万が一全力ぶっ放して敵が死ななかったら、消耗したローズが危険に晒される。……、俺はそれが嫌なんだよ」
言ってから相当恥ずかしいことを宣ったのに気付いた。場合によっては愛の告白ともとれる発言だろう。
「お兄ちゃん……」
「ローズ……」
いろんな衝動が___劣情とも言う__がこみ上げてくるが、これだけ人の目がある中で行動を起こす程の根性は無い。
「っし、やるか」
「(意気地無し……)うん」
「フィーナさん、いつでもいけます!」
「分かりました! それでは皆さん、手筈通りにッ!! シャロンさん!」
「はい! ……秘技、黒闇行ッ」
切り込み役のシャロンさんが仕掛ける。駆け出した瞬間、シャロンさんの身体が霧散した。
「う?」
どこいった?
「上っ」
隣にいたローズが答えてくれた。
夜の中からシャロンさんが現れ、脳天目掛けてかかと落としを決めにかかる。靴の踵部分からは刃が出ている。仕込みのバリエーションはまだまだあるんだろうか。
「シッ!!」
「!!」
上方の敵に気付いた九尾が尻尾による迎撃を行い、見事にシャロンさんを捕らえる。が、シャロンさんの姿は再び霧散し、俺の隣に帰って来た。
「「水よ、清き力の源よ、慈しみの斬撃隣て我らが敵を打ち滅ぼせ!」」
姉さんとフィーナさんによる同時詠唱。二人でひとつの魔法を発動する訳じゃないから特に特別な効果は無い。
「「聖水鉤爪!!」」
剣に水の力を纏わせて連続して十字型に斬撃を放つ技。これは姉さんもわりかし直ぐに出来るようになった。なんだかんだでフィーナさんの放ったものと衝撃波の大きさも変わらない。
「当たった!」
「ヴァァウ!!」
魔法をくらった九尾が怒りの咆哮をあげながらも、尻尾で胴体を包むようにしてガード体制に入っていて、斬撃のダメージを抑えていたようだ。
「サニー、アリス、行くわよ!」
「分かってるって!」
「もちろん!」
ヴィオラさんの合図に二人が続く、
「「「凍てつく鋭槍!!」」」
長さ二メートル程の氷槍が各々の掌から出現。気持ち、辺りの気温が下がったような気がする。三方からの攻撃が九尾を捕らえようとしていた。
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