シスコンと姉妹と異世界と。
【第128話】討伐遠征⑱
「どうせ呪印のせいで俺が狙われるんだろうから、俺から突撃します!」
この場でレディーファーストを実践しようなんてつもりは毛頭無かった。俺の心臓に毛は生えてなかった。
「敵の出方も分からないままではッ」
フィーナさんが止めようとするが、もう俺は止まれない。
「こっちから動かなきゃ、向こうも多分動いてこないっすよ!」
なんとなくそんな気がするからだ。
「俺の健康、返してもらうぜぇぇ!! 加速!」
地面を力いっぱいに蹴り九尾との距離を一気に詰める。
「喰らえ!」
ひゅひゅん! ドン! バキ! ゴロゴロゴロズザァ……。
九尾の振り回した尻尾が俺の顔面と肋を捉えてはじき飛ばした。身体がくの字にひん曲がり、そして地面を激しく転がり止まる。
「これ骨ヒビくらいは確実に逝ってるな……。しゃーない。ウル・ヒール」
自己再生を起動。正直、尻尾であんな圧力で押しつぶすように殴ってくるとは思わなかった。男の俺でもここまでダメージ入るんだから相当だろう。それも月の加護を受けている状態だというのに。
それをちょっと離れた所で見ていたふたり。
「えぇ……」
「なんていう出オチ……。お煎餅みたいだった」
サニーとアリスは少し呆れていた。当然それなりには心配してはいるが、なんだかんだでアイツなら大丈夫だろう、というよく分からない自信というか安心感があった。
「でもまぁ、無闇に突撃するのはダメってのは分かったわね」
「じゃあどうするの?」
「こうするのよ! 次はわたしが魔法攻撃行きます!!」
アリスが気合を入れて叫ぶ。
「その辺に転がってるだけの無益な石ころよ。今この瞬間、あなたたちに役目を与えます。突撃せよ、石礫!!」
アリスも詠唱省略はある程度のレベルで使えるが、寵愛持ちのショーには及ばない。ので、補助する意味合いもあって戦闘時には詠唱することが多いのだった。その内容についてはテキトーなのか適当なのかは定かではないが。
十センチ程の無数の石が九尾目掛けて襲いかかる。
それを受けて九尾は、通り名の所以たる尾を大きく広げた。そして各尾の先端部分に火の玉を作り出していた。
「そんな小さな火の玉で防ごうっての? 甘い!」
次の瞬間、火の玉が煌めいた。直後熱線が火の玉から無差別的に大量に発射され、降りしきる横殴りの石を焼き消した。
「うわっ!?」
サニーが慌てて飛び退く。
「全方位に無差別攻撃と来たか……。狡いなー」
アリスが敵ながらあっぱれと感心している。
「盾が……」
エリーゼの盾が熱戦によって焦げていた。溶かされるまでいかないあたりかなりの耐久力を誇る一品のようだった。
「策を講じますので、ショーくんを起こしてきてもらえますか?」
フィーナはローズにそう頼み、ローズもそれを快諾した。
「お兄ちゃん、生きてる?」
「ああ。まぁ骨逝きかけたけどな。治したから平気だわ」
「熱線が伸びたときもカサカサっと少し避けてたもんね」
「人をゴキ○リみたいに言うなよ!?」
「フィーナさんが作戦建てるって言うから来てくれってさー」
「分かった」
吹っ飛ばされていたところから駆け足でみんなの元へ戻った。
「ショーくん、身体の方は平気ですか?」
フィーナさんが心配してくれた。隊長はやっぱこうじゃなくっちゃね。部下思いの優しい獣耳美人だなんて、最高じゃないか。
「治したんで大丈夫です」
「治した……」
「月の加護ある状態でもヒビいってたんで、あの尻尾の一撃は確実に威力殺して受け止めるか避けるかしないとヤバイっす」
「そ、そうですか。にしても近距離においては尻尾による迎撃、魔法を用いた物理攻撃にも尻尾の先からの熱線で迎撃。接近戦を行うには陽動が要りますね……」
「それならわたしが……」
「シャロンさん、やれますか?」
「今度は失敗しない」
「初撃で仕留めるわけではないですから、深追いや無理は禁物です。全員無事で帰ることが第一ですから」
「はい、心得ております。危機感を煽る程度の攻撃後にはすぐ離脱します」
「その手段も用意出来ていますか?」
「直ぐにでも出来ます」
まだ、ってことか? でもそんなに手間じゃなさそうな口調なんだけど……。
「ショーくん、準備手伝ってくれる?」
「へ? イイっすけどそんな大層なことするんすか?」
「まぁ、ある意味ではそうかもね。ほら、こっち来て」
「あ、はい」
この時の俺は、手招きされるままにシャロンさんに近づいてしまった。
「はい、ちゅー」
「※☆◎▼♪!#?✕」
「その唇の跡を目印として瞬間移動する魔法があるのよ。だから消さないでね?」
「シャロン、貴様ッ!?」
「エリーゼお姉様、これは必要なことです」
「だ、だからといってその、弟に口付けするなど」
「頬ならば……と思いましたが、唇の方が」
「よろしくない! ショーもショーでなぜ避けない!?」
「……」
「ダメよエリーゼ。ショーくんの意識は別次元に旅に出てるわ」
「お兄ちゃんってばホントに……」
「ほら、ショーくん、帰ってきて!」
「はっ!? なんか頭痛い……」
「わたしが叩いたから!」
サニーさんが晴れやかな笑顔を咲かせて言うから、なんか悪い気はしなかった。
「と、ともかく気を取り直していきましょう!」
「はい!」
フィーナさんの鼓舞に応えたのは俺だけで、なんか微妙な空気になった。頬を撫ぜる風は生ぬるかった。
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