シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第127話】討伐遠征⑰




 「日陰に全身が入ったりしたら言ってください。俺が直ぐに魔法をかけ直しますんで! あと、朝になったらどうしようもないですから、それまでに決着をつけます!」

 「月が雲に隠れるくらいなら平気?」

 ローズからの問い。

 「それくらいなら大丈夫のハズ! でもまぁいきなり心臓ぶち抜かれたりしたらさすがに助けるのは難しくなるけどな」

 「お兄ちゃんいるから大丈夫でしょー」

 「おいおい……。手は抜くなよ?」

 ジリ貧の小康状態から朝になって、狐火が行方をくらましたとしたら、俺の腕の呪印がどうなるのか分かったもんじゃない。ふっと一緒に消えてくれるなら待つけど。

 (ショー様、もう少しで開けた所に出ます!)

 (おっしゃ!)

 ナビ子からのナビ。呪印が付けられてから、ナビ子が人の形をかたどって出てくることは無くなっていた。俺とナビ子の間に呪印が挟まることで上手いことマナを変換出来ないらしい。ナビ子は呪印のことを、夫婦間における姑のようなもの、と喩えていた。

 「そろそろです!」

 「分かりました。では皆さんここで一旦止まってください」

 フィーナさんが静止の合図を出す。

 「当初の手筈通り、各々の魔法による中距離攻撃を主軸にし、決定機を探りましょう。近距離においてはエリーゼさん、シャロンさんの御二方にお願いします。長距離間における牽制や味方の支援についてはショーくんにお願いします」

 「「「了解!!」」」

 「では行きましょう」

 五、六分ほど進んだところで山頂と呼ぶにほど近い、開けたところに出ていた。

 「あ、あれ! あそこに何匹かで固まってる!」

 アリスさんが直ぐに見つけた。さすが目がいい。

 「レベル二が三匹に、レベル一が三匹の合わせて六匹か……」

 尻尾の数の話である。決して始まりの街直後に出てきたスライムの話ではない。

 「先手必勝!」

 サニーさんが詠唱を始める、と思ったが篭手にルーンが刻み付けてあるんだった。

 「水の波動アクアウェーブ!!」

 ざっぶーん!!

 「へ?」

 まともに食らったけど、もう終わり? 俺の出番無し的なやつ?

 「終わった……のかでしょうか?」

 さすがにフィーナさんも戸惑いを隠せないでいる。

 「そうだ。ショー、腕はどうだ?」

 「ダメだよ姉さんっ、まだ消えないっ!」

 「ショーくんそんな芝居じみた感じじゃなくていいから」

 「うっ、アリスさんにマジなツッコミされると……」

 「それどういう意味? あとで部屋に来ること」

 は?(威圧)的な強い意志を感じる。怖い。

 「はい……」

 「ねぇ、なんかマナがあの六匹の所に集まってるんですけど……」

 ローズは他人よりマナを感じ取りやすい。

 「でももう弱って……、ない?」

 シャロンさんも何かを感じたようだった。

 「あれは!!??」

 ヴィオラさんが言うと同時に六匹が一つの炎に包まれた。
 魔法マジックカード、融合を発動! みたいな感じで、六匹のシルエットが光に包まれたまま崩れる。

 「どうなるんだよこれ……」

 「いい予感はしないですね……」

 「……来るッ」

 そう呟いたのは誰だったか分からないがとりあえず変化が訪れた。

 「オオオオォォォォン!!!」

 という雄叫びと共に炎の中の光が安定し新たな力を形成する。

 「あちゃー」

 「マジか……」

 アリスさんと俺が頭でイメージしてたのが近かったのかもしれない。同じような声が漏れた。

 「あれは……資料で見たものと同じです!」

 フィーナさんが叫ぶ。

 「キュウビじゃねえか……」

 九つの尾に加え、体格も大幅に大きくなっている。足から肩までで二、三メートル、頭からお尻までも同じくらいの長さだろうか。そしてその胴と同じくらいの長さがある尻尾ときた。

 「ショーくんはご存知だったのですか?」

 「お兄ちゃん、キュウビ? って何?」

 「九つの尾、と書いて"九尾"とすることもあれば、九つの火と書いて"九火"とする二種類の通り名があります」

 ローズの疑問をフィーナさんが取り次ぐ形で解決。

 「ボスやな、マジで」

 「どうショーくん、燃えてる?」

 「もちろんすよアリスさん!」

 「それでは皆様、行きますよ?」

 「「「討伐開始!!」」」



 

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