シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第116話】討伐遠征⑥




 「やっほー!」

 「えっ、マリー姉ぇ!? ……、どうしてここに?」

 「転勤よ転勤」

 宿前で出迎えてくれたのは、以前サニーさんに俺が貸し出された時に泊まった箱根の宿でお世話になったマリーさん。マリー姉と言ってても、実際は確か叔母だったはず。年齢は二十五でお付き合いしている人はなし。

 「アリス様、やはりここはアリス様のご実家の系列の宿でございましたか?」

 フィーナさんがアリスさんに問いかける。

 「……、国と民間の癒着だ」

 シャロンさんがぼそっと少し聞こえるくらいに呟く。

 「だから癒着違うってばっ!」

 その呟きが耳に届いたアリスさんが強く否定した。

 「でもまぁ結局、系列みたいね……」

 まぁマリーさんいるしね。一緒に風呂入ったりしたっけ……。

 「ん、ショーくん鼻血が出てるよ?」

 「あ、すいません……。思い出し鼻血が」

 「何? なんかエッチな事でも考えてたの?」

 鼻を拭かれながら、ヴィオラさんに問い詰められる。考えてましたよ、えぇ。

 「痛ぇっ!!? 何するんすかサニーさん!?」

 「なんでもなーい」

 なんでもない、でつねられるのはちょっとどうかと思うんですけど。

 「もしかして、ヤキモチっすか?」

 「なっ!? そんなんじゃないからっ!!」

 スパンと勢いよく頭をチョップされた。なんか薪の気持ちが分かったような気がした。

 「あたっ! 舌噛んだっ」

 叩かれてジワリ広がる鉄の味。一句出来上がった。

 「今晩は皆様の貸切となっておりますので、部屋もおひとり様につき一部屋使用していただけます」

 マリーさんがそう言うと、ちょっと周りがざわついた。なんだろう、やっぱみんな誰かと共同生活だから色々あるんかな。溜まってる的なね。ストレスよ、ストレス。そっちじゃない。

 「御飯は何時からですか?」

 ローズが目を輝かせながらマリーさんへ問いかける。

 「何時がいいかしら? どう、隊長さん?」

 「わたくしの一存で決めるのはちょっと……」

 フィーナさんはズバッと決めたりするのは苦手なようだ。

 「フィーナさん」

 「どうしたのショーくん?」

 「今日はもう任務で動くってことは無いんですよね?」

 「そう……ですね」

 「したらゆっくりめに午後七時とかでどうです?」

 「私は構いませんが、皆様はいかがですか?」

 「「「異議なーし」」」

 特にこれといった文句もなくすんなりとまとまった。

 「じゃ決まりね。七時には御飯を用意してるから食堂に集合してちょうだい。二階がちょうど七部屋だから、好きな部屋を各自使って。と言っても内装にはそんな違いがあるわけじゃないんだけどね」

 マリーさんはもう女将さんの感じではなく、完全に友達が家に泊まりに来たくらいの感覚で話している気がする。

 「あっ、お風呂も貸切だから好きな時使っていいわよ。ただ時間によっては従業員も一緒になるかもしれないからあんまり夜遅くにならないようにね〜」

 遠目にだが青と赤の暖簾のれんが掛かっているのが見える。間違いなくあれが男湯、女湯の入口だろう。別れてるのはありがたい……かな? まぁ残念な気持ちがゼロってわけでは勿論無いんだけど……。

 「したら、俺は一風呂入って昼寝するかな、久しぶりに」

 「久しぶりにって、お兄ちゃん休みの日って大概そんな感じじゃない?」

 「何を言うか妹よ。休みがあればちょこちょこ一緒に出掛けたりもしてるじゃないか」

 「「「なっ!?」」」

 「えっ、何?」

 急に皆がハモってこっちを見た? なんか変な事言ったか俺は。

 「ハァ……。お兄ちゃんのばか」

 「えっちょっ、なんで!?」

 スタスタとローズをはじめ、皆二階に上がっていってしまった。

 「難儀ですね、ショーくんも。とりあえず昼食の時に話してたことについて答えようと思うのてわ、部屋で一息ついたら私の部屋に来てくれますか?」

 「とりあえず上いってみて、部屋の番号なりを確認してからっすね」

 「そうですねっ」

 連れるようにして俺とフィーナさんも二階へ。部屋は番号で区切られており、俺の部屋は二〇五号室、フィーナさんが二〇二号室となった(残っていたのがその二部屋だけだった)。空いてる部屋は入口のドアを開けといてくれてたみたいなので、間違えて着替え中の女子を覗くことになったりはしなかった。残念。

 「なんかまぁ普通のホテルって感じだな」

 というのがまず感想。入って和室があって、ベッドが二つ並べられていて、窓側に椅子が二脚に小さなテーブルが一卓。

 「コンコン」

 「はーい?」

 「……、ごめんねショーくん。ちょっといいかな?」

 来訪者はシャロンさん。どうしたんだろ急に。

 「……、ちょっと教えて欲しいことがあるの……」

 シャロンさんは改まったような口調でそう言ったのだった。


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