シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第114話】討伐遠征④




 「どこにって、街にですよ?」

 フィーナさんはさも当然のごとくそう言った。

 「……、先に言って頂けると嬉しかったのですが……」

 全員が思っていたであろうことをヴィオラさんが言う。

 「も、申し訳ございませんでしたっ」

 フィーナさんは紅くなった顔を隠すかのように頭を下げた。

 それぞれ軽装に着替え直して再出発。ほぼ全身を鎧で覆う姉さんに時間が掛かった。それでも文句をひとつも言わないあたり凄い。俺がフィーナさんと同じことしたら篭手でガツンといかれそうだけど……。

 「何故……街に? 警備かなにかでしょうか?」

 「えと……シャロンさん、違いますよ。そんなに警戒しなくても大丈夫です。わたくしたちは昼食を食べに行くだけですよ」

 「え?」

 「そして、昼食を済ませたら滞在する宿へ移動します」

 「宿ぉ?」

 アリスさんが語尾と眉を吊り上げる。

 「さっきの拠点に寝泊まりするんじゃないんすか?」

 「あそこには隊所属の人員が寝泊まりします。魔物が出るのは満月の前後、晴れた夜に限るので今夜は疲れを癒して明日に備えてもらいます」

 「……わかりました」

 姉さんも渋々了解したようだ。まぁ思ってたのと違うってのはわかるけど。

 「ここです」

 「フツーの食堂じゃないすか?」

 店構えも特にこれといって変わったところもなさそうなんだけど。『大食館』っていうらしい。大食漢と掛けてるんかな。うん。てか、そもそもワープしてきたけど、ここは何処なのよ。

 「ここ……」

 「さっ、入りますよ」

 アリスさんが何かを言いかけるも、それを遮るようにフィーナさんが店内に消えていった。

 「いらっしゃいませ! 何名様でいら……」

 「「「???」」」

 ウェイターの男性がフリーズした。急にブレーカー落ちて電源オフになったみたいな止まり方だった。

 「やっぱりウチの系列だわ。日本地図でいうと山梨県辺りになるわね、ここの店は」

 アリスさんがそっと耳打ちしてくれる。その情報はありがたかった。

 「え、アリスさんはお店を経営されてるのですか?」

 「父がですけど」

 「お、お嬢様っ。どうしてこんな辺鄙へんぴな所へ足を運んでいただけたのでしょうか?」

 「ちょっと任務でねー。入ったのは偶然なんだけど」

 「左様でございますか。少しでもお嬢様一行様のお力となれるよう、我々一同尽力させていただきます故」

 「そんな堅苦しいのはいいから。皆に美味しいご飯を提供してちょーだい」

 「お安い御用です! では、こちらの席へどうぞ」

 どこにでもあるよね系列店。実際どんくらいの経営規模なんだろう。マックぐらいの店舗数は抱えてそうなもんだよな。それに食事だけってわけじゃなさそうだし、マックとしまむらを足したくらいの経営規模とか? これはこれでよく分かんねーな。

 「ご注文に関してなんですが、只今のお時間、こちらの『伝家のほうとう』のみの提供となっております。お味が塩と味噌がありますので、どちらか一方をお選びいただけますでしょうか」

 ウェイターさんが手作りチラシのようなメニューを見せながらそう言った。

 「じゃ、俺は味噌で」

 「私もそれで」

 「「「「わたしも味噌で」」」」

 「わたしは塩で」

 「両方で」

 サニーさんが塩、ローズが両方(二人前)、あとの皆が味噌味を頂くことになった。

 「アリスさん、『伝家のほうとう』ってネーミングはどうなんすかねぇ……」

 「わ、わたしが考えたわけじゃないんだからっ。そんな目で見ないでちょーだい」

 「『伝家の宝刀』と掛けてるのは分かりますけど、いささか滑った感が強いっすよね……」

 「……今度帰るようなことがあれば、わたしからパパに再検討を申し入れておくわ」

 たわいもない談笑が一段落した頃、ほうとうがテーブルに運ばれてきた。

 「「「いただきます」」」

 全員で手を合わせる。このスタイルはこの世界での共通の儀式のようなもので、なんか日本人としてちょっと嬉しい。

 コブシシの肉に南瓜や人参などの野菜や、謎のきのこ類など様々な具材を平たいきしめんと煮込んだものが『伝家の宝刀』であった。


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