シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第112話】討伐遠征②




 鏡の中へ一歩踏み出すと、床から直ぐに草原のフカフカした感触へと変わった。

 「父さんっ」

 「おお、ショーたちか。良く来てくれたな」

 出迎えてくれた声の主は勿論父さんだ。身に纏っている国軍の筆頭騎士にのみ与えられる金の鎧が眩しい。自慢の金髪にこの鎧じゃ『黄金獅子』って呼ばれるのも納得だ。改めて見るとね。

 「お父様、ご無沙汰しております」

 「ああ。ローズも久しぶりだな」

 「お久しぶりです」

 「ひゃー、本物だぁ」

 隣でサニーさんが思わずという感じで感嘆の声を洩らす。

 「そんな父さんって凄いんすか?」

 「そりゃあ……ねえ? 軍の筆頭ならこの国でも五本の指に入ってもなんら不思議無いくらいなんだから」

 「俺からしたらちょっと不在がちな普通の父親なんで、そんな特別感無いんすよね……」

 普段はまぁ格好いいけど、母さん相手だとチワワ同然になってしまう。そんな父さん。

 「あ、そうだ、ショー。ちょっとこっちに来てくれ。……、ピューッ!」

 父さんが指笛で何かに向けて合図を出した。

 するとどこからともなく人影が出現し、目の前に降り立った。

 「うっ!?」

 グキッと音が聞こえたような着地。最後の最後に決まらなかった。

 「大丈夫……か?」

 「いえ、この程度のことでは……。醜態を晒してしまい申し訳ございません」

 「うむ……。まぁ気を取り直して。……、紹介しよう、この子は俺の」

 「これでしょ?」

 俺は小指を立てた。つまりは愛人でしょ? ということ。

 「「「……」」」

 うちの女生徒たちの視線が一斉に父さんに集中している気がする。まぁ完全に俺のせいなんだけど。

 「ち、違うぞ!? 皆も信じるなよ!?」

 「こんな大佐は初めて見ますね」

 「やっぱりうちの父さんって普段は馬鹿真面目なんですか?」

 「馬鹿真面目かと言われると微妙なところですが、あんなに慌てている姿は見せませんよ」

 「家と外とで全然違うんだなぁ……」

 「申し遅れました。わたくし、ラ・フィーナと申します。歳は十九。階級は中尉であります」

 髪は灰色で短め。ボブって言うんだっけ、このくらいの長さ。そして黒よりの青い瞳。とても整った顔立ちで綺麗なお姉さん、ってかんじ。あと、なんかヘルメットみたいな金属製の兜を被っている。ドラ○エとかでありそうなやつ。

 「ども……。ショー・ヴァッハウです」

 俺に続いてローズや他の皆もフィーナさんと挨拶を済ませた。

 「フィーナ君も学園の騎士過程卒だから、何かあったら気軽に相談に乗ってくれると思うぞ」

 「私に答えられる範囲のことならなんでも、どんとこいです」

 ぐっと両手で握りこぶしを作る。その仕草が可愛い。

 「フィーナさんは確か……、『水剣すいけんのフィーナ』として学園在学中も有名でしたよね? まだ父が学園長だった頃の話ですけど……」

 「まぁ、そう言われていた時もありましたね」

 「それでフィーナさんが今回の任務に参加してるってわけですねっ!?」

 「さすが俺の娘、理解が早いな」

 「すいけん、ってなんすか? 酒気帯び格闘の事ですか?」

 「違うわよショーくん。水の剣、って書いて水剣よ」

 ヴィオラさんに訂正された。

 「なるほど。だから火を使う魔物を想定して水か」

 「正解だ、ショー。だが普段からうちに所属しているから、今回だけの参加という訳ではないぞ。フィーナは諸君らの護衛となる為、今回の任務では我々とは離れて行動することになる」

 父さんからもお褒めの言葉を頂いた。

 「改めましてよろしくお願いします」

 ペコリとフィーナさんが頭を下げる。

 「「「よろしくお願いします」」」

 全員で頭を下げる。流石にまだ他人行儀なのは否めない。

 「よし。ではとりあえず拠点となる地点へと移動しよう」

 「皆様は自己強化魔法を用いての加速は行なえますか?」

 「「「はい」」」

 「姉さんは俺が一応補助するから」

 「なっ……、頼む……」

 一瞬怒りメーターの針が激しく動いた気がしたが、素直になってくれて助かった。

 「では行くぞっ。散ッ!!」

 ビュンッと風を巻き起こしながら父さんが消えた。

 「っべーな……」

 「案内は私がしますので……」

 フィーナさんが苦笑い気味に提案。

 「是非お願いします。父さん消えちまったし」

 「では、こちらです。もしはぐれたら何か魔法を打ち上げて頂ければ直ぐに向かいますので」

 「だってさ姉さん」

 「お前が一緒に来てくれるんじゃないのかっ!?」

 「うそうそ」

 「お兄ちゃん行くよー」

 「あいよー」

 言うと同時に、俺はその場に腰を下ろした。

 「乗って?」

 「乗るのか!? ……、これでいいか?」

 「肩車は勘弁してくだちい」

 シルク・ドゥ・ソレイユばりの連携が要求されるとなると、いくら姉弟とはいえ無理だ。太もも気持ちえかったなぁ。奇跡的に太もも部分は鎧が無かったのだ。通気性重視かな?

 「そ、そうだな……」

 とりあえずおんぶで発進した。走るというより跳躍しての移動。とりあえず俺の手と姉さんの脚に固定魔法を。

 「ッ!? どこを触っている!?」

 「ここじゃなきゃおんぶできませーん。もう固定魔法使ったから離せませーん」

 上半身は自由にしてあげてるので、俺の肩を掴む力が強くなったが気にしない。

 そんなこんなで移動すること十分弱。拠点ベースキャンプに到着した。


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