シスコンと姉妹と異世界と。
【第109話】日常の終わり④
「アリス?」
「お兄ちゃん?」
後ろからドスの効いた声が掛けられる。魔法は使われていないはずなのに、身体が硬直してしまったような感じがする。
「「はい…………」」
ギギギッといった感じでふたり揃って振り返る。この辺は俺とアリスさんの息ピッタリ。
「「一緒に行こうか」」
「「はい……」」
寮を出ると、両脇を姉さんとローズに固められた。極められてるっていうのも間違いではない。でもローズは優しいんだこういう時。腕に柔らかい感触が伝わって、右半身は軽い恋人気分だ。左半身はもうリングに片脚突っ込んでるけど。
「ふたりは初めてか? あっちの寮に行くのは」
「初めてだね」
「わたしも初めて〜」
実際の所はサニーさんだったりゾラさんだったり、お姉さん方と出かける際に待ち合わせしたり送っていったりしたので、寮そのものに行くのは初めてではない。ただ、中には入ったことがないので初めてということでいいだろう。
余計なことは言わないのが吉、っていうのが本音だけど。10分ほど歩いたところで到着。特に連絡したわけじゃないから誰かの出迎えがあるわけではなかった。ただ、姉さんが周りから視線の集中砲火を受けていたような気がした。姉さんの方からこっちの寮に出向くことは少ないんだな、と感じられた。
「この部屋だよっ」
寮の中に入ると案内役はアリスさんへとバトンタッチ。早速ひとつの部屋へと先導してくれた。
「入るよー?」
「その声アリス? はーいどうぞー」
ん? 今の声は? 扉越しだとよく分かんないな。
「おっじゃましまーす♪」
「邪魔するな」
「お邪魔します」
「おっ、おっふ……」
最後のがもちろん俺。シャロンさんに会いに来たはずだったが、案内された部屋の中にいたのは(おそらく)この部屋の主であろうサニーさん。ベッドの上に下着姿で寝転んでいる辺りそういう事だろう。流石に他人の部屋でそれはないだろうし。多分。
「お兄ちゃん、目を逸らすどころかガン見って凄いね」
「なんかもう抗体っつーか、耐性みたいなのが付いてきちゃったのかもしんねーや」
最近は姉さんもローズも、恥ずかしがりながらも何だかんだで俺が部屋にいようがいまいが、気にせず着替えたりするようになってきてるので。
「エリーゼは普段ショーくんに何をしてるのかな……?」
「ふ、不埒なことはしていないぞ!?」
「ショーくんが来るなら前もって連絡して欲しかったかも……」
なんやかんやで俺も家族じゃない女子の部屋に来るのは初めてのことだ。うん、なんかいい匂いがする。
「ショーくん、わたしちょっと着替えたいから廊下出ててくれる?」
「うぇーいっす」
取り敢えず廊下に出てボーっと待っていると、不意に声をかけられた。
「あれ、ショーくん?」
「あ、シャロンさん。良かった、会いに来たんです」
「お姉さんにわざわざ会いに来てくれたの? でもちょっと心の準備が……。どうせ襲うなら夜コッソリわたしの部屋に来てくれた方がそのまま流れで……」
「ははーん、シャロンさんかなり上級者なんすね?」
かなり前衛的な変態なのかもしれん。一人で凄いこと言い出したもん。
「お姉さん初心者よ? サニーに用があったんだけどまあいっか。じゃ、わたしの部屋はこっちよ」
「えっちょ、問答無用ですか!? 痛たたたたっ」
みんなごめん。僕は力づくで誘拐されました。
______。
「ショーくん、お待たせしまし……アレ?」
「んー、どったのサニー」
「ショーくん居なくなってるんだけど……」
「何!?」
サニーがドアを開けて確認すると、ショーくんの姿は忽然と消えていた。
「お兄ちゃん、どこいっちゃったんだろ」
「お手洗いかなぁ?」
「でもサニーの部屋にも備え付けのあるし……」
「アイツなりに気を遣ったんじゃないか?」
あいつも女子の部屋でというのはやはり気にするんだろう、とエリーゼは言う。
「んー……、攫われた、とか」
「本当かアリス!?」
「勘だけどね〜」
実際には扉の向こうでシャロンの声が聞こえてたから、犯人の目星も付いてるんだけど。
「アリスがそういうなら……」
「そうなのかもしれないな」
「本当に?」
サニーとエリーゼは付き合い長いから、わたしの勘の鋭さは知っているけど、ローズちゃんはまだ信じちゃくれないか。
「怖いくらいよく当たるんだよー。占い師みたいな?」
「ああ。アリスの女の勘はなかなかに凄い。わたしが保証しよう」
「ふたりがそこまで言うなら……」
いきなり勘の保証人になったエリーゼ。そんなお人好しでこの先大丈夫かな……。
「多分、シャロン辺りが連れていったんじゃない?」
「あー、そう言えばさっき後で部屋に行くって言われてたかもっ! じゃ、早速、善は急げだよね!!」
サニーさすがに焦ってるなあ。まぁ下手したらショーくんの貞操の危機だし? でもそんくらいで流されちゃうくらいなら、もうわたしが頂いちゃってるような気もするんだけどね。
「追うぞっ」
「うんっ!」
姉妹も負けず劣らずの勢いで部屋を出ていった。わたしどーしよ。出遅れちゃったな〜。どうせショーくん無事には帰ってこないだろうし、待ってるか。よしよししてあげよっと。
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