シスコンと姉妹と異世界と。
【第93話】貸し出し権⑲(サニー編)
「ショーくんはタオル持ってきてないの?」
「一応ありますけど……あそこに」
「ん〜?」
サニーさんが振り返ると同時に桃が出現した。あー、ここが湯けむり桃源郷かぁ〜。それともバーミ○ンかな……、なんつって。
「ッ!! ……、見たでしょ?」
「え? 何をですか?」
シラを切りながら改めて身体を反転しサニーさんの方向へと顔を向ける。テレビ番組みたいにバスタオルを巻いてるわけじゃないから、そら後ろからだと見えてしまいます。隠すならどっかの100%のピン芸人みたいに上手いことやらないと……。
「見るなって言ってるでしょ!」
サニーさんはおおきく振りかぶって、手元のタオルをこちらへとストレートに投げ込んできた。だが、俺にはかすりもせずにタオルはマリーさんの頭の上に直撃。野球なら危険球で一発退場、澤村賞ものである。
「イヤーー!!」
サニーさん、何やってるんだろ。自分で自分の身を隠してたタオルを投げ捨てて、恥ずかしくなってお風呂にダイブするなんて。いろいろ破茶滅茶である。
「とりあえずわたしが出るから、向こう向くか目瞑るかしといてちょーだいな」
「じゃあわたしが目隠しするから、ショーくんは目瞑ってて」
「……、何でわざわざ前からやるんですか?」
「後ろだと色々当たるからじゃないかしら」
「「…………」」
考えが至らなかったのはこちらの不徳の致すところでございます……。
「はい、大丈夫です。マリーさんお願いします」
「おまかせあれ」
マリーさんが湯船から上がり、ひたひたと足音が離れ、そしてまた近付いてくる。ちょっとして、ポフッとタオルが頭にかけられた。
「ありがとうございます」
「それじゃ、ごゆっくり〜。じゃ、おやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
「……、で、結局サニーさんはタオルが無くなったと」
「面目無い……」
結局背中合わせに
「責めてるわけじゃないっすよ」
「……、ショーくんは今日……楽しめた?」
「はい。楽しかったですよ」
「どんなことが?」
「そうっすね……。みんなでこうして旅行に来るってだけで楽しかったですし、美味しいもの食べたり人助けしたり……、サニーさんのお尻を」
「最後ので台無しだよっ!? てゆーかやっぱり見てたんだね!?」
「だって、普通に顔みて話してたら後ろ振り返るんですもの〜……」
「うぅ〜、いいもんね。お返しにショーくんが寝てる間にあーんなことやこーんなことしてやるんだから」
「期待して待ってますよ〜」
「も〜、バカにしてるでしょ〜」
「そ〜んなこと、ないですよぉ〜?」
「絶対バカにしてる! 年上は敬うものでしょ!? まぁ、それはそれとして……、また……今度さ、どっか行きたいところ決まったら付き合ってくんないかな? 今度はもうちょっと落ち着いた所を2人で回りたいな……」
そんな言い方をされてしまったら、男として断るわけには、引き下がるわけにはいかないというもの。男の心の動かし方をよくご存知でいらっしゃる。まぁ普段の突き抜けた明るさだったり天真爛漫さからみれば、なんとなくわかる気がする。なんやかんやで気になってしまう存在、みたいな。
「はい。いつでも付き合いますよ」
「……ッ」
「どうしたんです? もうのぼせちゃいました?」
「だ、大丈夫。なんでもないったら……もう」
「?」
「それより、ちゃんと言質とったからね? 期待しちゃうわよ〜、わたしの白馬の王子様っ☆」
「頑張ります……」
この後20分くらい他愛もない話をして、俺から上がった。サニーさんがこっちを見なければ問題ない、の一点張りで押し切ることに成功。よくよく考えてみたら俺が脱衣場で待ち伏せするカタチになってしまったのだが、そこまでは頭が回っていなかった。
「あとはどう戻るか、ね」
「サニーさんが出てくる時はみんな寝てたんですか?」
「うーん、多分☆」
「姉さんとかアリスさん辺りは最悪気配の変化とかなんかで気付いてそうなんだよなぁ〜」
「獣みたいな嗅覚だね」
「確かに……」
部屋に戻ると、俺の布団の中で姉さんが寝息をたてていた。全てわかっているぞ、ということなんだろう。寝ちゃうあたり詰めが甘いような気もするけど……。
(この場合は……、どうするのが正解ですかね?)
(うーん、エリーゼお姉様的にはショーくんがそのまま一緒に寝るのが百点満点なんだと思うけど、起こしちゃうのも悪いもんねぇ……。わたしの布団で一緒に寝よっか)
(えっ、でも……、いいんですか?)
(さっきまで一緒にお風呂入ってたんだから、もう今更何も気にならないわよ☆)
(じゃあお言葉に甘えて……)
一緒に布団に入れば当然というか、甘い、いい匂いがして妙に落ち着かない。リトくん、オラに理性を分けてくれ〜、なんて思っていると、隣りで寝ていた(はずの)ローズがコロコロ転がってこっちに来た。多分これ姉さん以外全員起きてるんだろな。
明日を諦めて俺は寝ることを決め込んだ。
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