シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第71話】文化祭⑧




 ドッキリ大作戦。人生初の仕掛け人である。着替えた姉さん、フルパワーのサキュバスの姿も楽しみではあったけど、それはまあ脅かした後に観賞するとしよう。

 だが、相手は姉さんである。半端にやるとキレられて思わぬ反撃を喰らうのは目に見えている。そうだ、これはドッキリという名の命のやり取りなのだ……。

 (となると、本気でやるしかないよな、ナビ子?)

 (ええ。やるからには本気で遊ばないとです)

 そう言いながら棺の中でナビ子が飛び回る。氷の妖精の様な姿でかつ手のひらサイズであり、小さくてとても可憐で可愛らしい。

 (でも、なんでその姿なんだ?)

 (簡単なことです。冷却魔法の使用によって辺りがマナに満たされていたので、それを借りた結果です)

 (まぁ事情はわかってると思うけど、棺の前に人が来たら知らせてくれ。スリーカウントだと嬉しいな)

 (承りました〜♪)

 (随分嬉しそうなんだな?)

 (嬉しいというか楽しいというか……。なにせこういうことは初めてなわけじゃないですか。それに)

 (それに?)

 (いつもショー様と一緒にいるという、ズルをしている人にお仕置きを与えるチャンスですので)

 (なんたる当てつけだよ! お前そんなふうに思ってたの!? なんだよ、すげー怖いじゃんか!!)

 (わたしはショー様の温もりも未だ知らないのですよ……? それなのにショー様は……先程も実の姉の胸を揉みしだいていたではありませんか)

 (しだいてない! 止めろ止めてお願い!!)

 (……もう一声)

 (お前が人間になったら、出来ることならなんでもしてやるから頼むよホント……ッ!!)

 (言質をとったということで。しっかりわたしの頭に記憶しておきますからね?)

 (はい……)

 ……なんで、俺は謝った上に何でもしてやるなんて約束をさせられたのだろうか。チョロ過ぎね、俺……。

 (さあ、そろそろターゲットが来る頃合いですよ。わたしはカウントに専念しますので、あとはいかようにでも)

 (普通に驚かすだけだから! ……よろしく)

 (では……)

 足音、というか振動が伝わってくる。確かにこっちに近付いてきているようだ。音が聞こえないのは割とこの棺が密閉空間に近いってことかな? 息大丈夫!?

 (……3……)

 足音が途切れた。緊張するな……。

 (……2……)

 (……1……)

 光が遮られた……今だッ!!!

 「うわぉぉぁぁぁぁああ!!!」

 「いやぁぁぁぁああああ!!!!!!!」

 「やった…………って、あれ?」

 「……」

 「え、ローズ???」

 脅かすことには大成功。しかしそこにはローズが泡を吹いてぶっ倒れていた……。

 どゆこと……??

 (とりあえず他のお客様の迷惑になる前に、ローズさんを抱えてここを出た方がよろしいかと)

 (そ、そうだな)

 とりあえずもうすぐそこが出口みたいだしな。ナビ子の言う通りにしよう。自己強化魔法起動、っと……。

 「よっと……」

 「う、うーん……」

 「……気がついたか?」

 「……」

 まださすがにダメか。とりあえず部屋まで連れてくか……。

 廊下にローズを抱えて出ていくと、並んでいる人達がややざわついた。どれだけ恐ろしいんだ、とか、優しい彼氏さんね、とか色々言われていたようだった。僕は犯人で、兄なんです……。

 寮に向かって歩いていると後ろから肩を叩かれた。振り返るとそこには、『ドッキリ大成功!!』と書かれた看板を持つアリスさんとヴィオラさんが破顔一笑といえる笑みを浮かべて並んでいた。

 「なっ、どういう……」

 「とりあえず話は部屋に行ってからにしましょ」

 「そっすね」

 部屋に戻ると見慣れた人物の顔があった。

 「アレ、クラリスさんじゃないですか。店の方はどうなってるんですか??」

 「お昼過ぎてお客さんも減ったし、みんなそれぞれ仕事にも慣れたみたいだから、抜けてきたんですよ」

 「まぁそれで、ローズちゃんを寝かせるためにベッドを整えたりするように言っといたのよ〜」

 「部屋にはだって鍵が……」

 「そこはまぁ学園長権限を顕現した、とでも言おうか」

 「上手くないっす……」

 「そんなぁ〜……」

 ホントにこの人が周りを巻き込む人たらしなんだろうか……。姉さんだけ振り回されてるだけで、全然フツーの人ってかんじなんだけど。

 「とりあえずローズを降ろすか」

 強化魔法使ってるから感じる重さは6〜7キロぐらいなもんだろうか。太った猫とかと同じくらい? まぁ大体月面での重さ位になるんだろう、この出力なら。

 「ん?」

 なぜか首に回された腕が離れずに密着してくる。

 「ローズ……?」

 「……」

 だんまりである。

 「……ローズちゃーん、起きないとアッツい目覚めのキッスをしちゃうわよ〜チュッチュ〜」

 色々と思い出してしまう。事故的とはいえアリスさんと初チューを交わしてしまったりと一悶着あったのだから。……顔が紅くなってきそうだ。

 「……おはようございます」

 決まりが悪そうにローズが起きた。降りないけど。

 「あの〜、一応どういう事か説明してくれませんか?」

 「おっけー。じゃあクラリスは手筈通りにお願いね」

 「はい、かしこまりました」

 「手筈?」

 「ローズちゃんとショーくんがこの後店に顔出せないってのを伝えに行ってもらうのよ」

 「……俺たち何されるんですかこれから?」

 「ただ、ローズちゃんが目を覚ます時間に関しての想定はもう少し掛かると思ってたから、そういう段取りにしちゃってただけよ」

 「まぁ人来ない中で突っ立ってるよりはいいですけど……」

 「でしょ? まぁエリーゼの舞台までゆっくり寛いでってよ」

 俺らの部屋なんすけどここ……。

 「お姉ちゃんの舞台って何時からなんですか?」

 「今から1時間ちょい後の5時からよ。楽しみ?」

 「はい。お姉ちゃんが何を歌うのか……」

 「地声だけじゃさすがに体育館では足りないですよね?」

 「ちゃんとそこら辺はわたしが用意してあるわよ〜」

 「なかなかアリスの発案は面白いものだったから、それも後で見てみるといいよ」

 マイクをどうやって再現したか、ってことだよな……。

 「まぁ、とりあえず事を簡単に説明するわね。といっても簡単なタネ明かしってだけなんだけど」

 「はい、お願いします」




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