シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第70話】文化祭⑦




 「うわ寒っ!」

 「ほんと。足元からヒヤーっとするね」

 「ほいこれ」

 「わたしが持つの?」

 「多分持ってた方が楽しめると思うぞ」

 「ホント!? じゃ任された!」

 「んじゃ、前方よろしく! 殿はキッチリ務めるからな」

 「えっちょ、それは違くない!?」

 「いいからいいから、早く進め〜」

 「も〜。……ギャッ!!」

 お化け屋敷というから、ろくろ首だったりぬりかべだったり、吊るされたコンニャクだったり、そんなイメージをしていたんだが違ったようだ。

 ローズの目の前には血にまみれたサキュバス(←死んだフリ)の姿があったからだ。イロイロ出来なくて血の涙でも流したのだろうか。

 まぁ100%急に動いて驚かすタイプのものだろう。

 「ほらほら、死んでるから大丈夫だって」

 「うぅ〜」

 「でもサキュバスに襲われるなら死に方としては悪くないかもしれねーな〜」

 「殺されるの!?」

 「学校の中だからまず平気だってば。サキュバスって何だったかな〜。夜枕元に現れていい夢観させてくれる代わりに生命を奪われるんだっけか」

 「とんだありがた迷惑なやつなんだね!」

 「牛乳置いとくと生命は助かるらしい、なんて話もあるみたいだけどな」

 「へ、どゆこと?」

 「さーな。姉さんにでも聞いてみたら? 確か姉さんの持ってた魔物図鑑的な何かで読んだような気がするから……」

 「うん!」

 「じゃ、進むぞ」

 「うん……」

 結局ローズは俺の右腕にしがみついていた。やっぱりしっかりしてても中身は普通の11の女の子。怖いようだ。

 「「イテテテテテ!」」

 なんと足場がツボ押しのやつになっている。進めば健康になれるってか。健康になる=身を清める、みたいな発想なんですかアリスさん……。

 「この先を右だな。狭くなってるからそのままローズが行ってくれ」

 「怖い〜……」

 まぁ狭い壁に挟まれる以上は何かしらのアクションがあるだろうとは思うけど、進まなきゃ終わらないし。それにアリスさんが途中リタイアを許すほど甘くないと思うんだよな。

 「うわっ!」

 ローズと腕が離れたところを狙われたかのように、身体を壁の中に引っ張り入れられた。



______。




 「ッ!! ……お兄ちゃん? お兄ちゃん!? ……なにこれ?」

 さっきまで後ろにいたはずのお兄ちゃんは、1枚の紙きれへと生まれ変わっちゃったみたいだった。仕方無しにとそれを拾い読んでみた。

 「なになに……『お前の大切な者は預かった。返して欲しければお前の持つ解呪の札をこれより進んだ先の棺の上に貼れ。それは棺に眠る吸血鬼の封印を解くものだ。吸血鬼が世に放たれた後の世界がどうなるかお前には関係の無いことだがな。確認でき次第、お前の大切な者を解放してやろう。ADEW』」

 最後のADEWってなに? アデュー? 意味分かんない。お兄ちゃんがいなくなったのも意味分かんない!!

 「くぅぅ〜覚えてろぉ。こんな所で妹を独りぼっちにするお兄ちゃんにはとびっきりの償いをさせてやるんだから……うわっ!!」

 「うわぁ!!」

 なんか濡れた……。天井から水……? それに男の人が驚いたような声がその辺から聞こえたけど……。

 「よし進もっ。早くしないと出れないし、お姉ちゃんの晴れ舞台もあるし。まだ仕事も残ってるんだから!! やったるぞー!」

 わたしは死に物狂いで進んだ。天井からカエルが落ちてきたり、白装束の髪の長い人が井戸から出てきたり、様々な試練を乗り越えて今、目的の棺の前に辿り着いていた。

 あとはこの御札を……ここの部分に合わせて貼ればいいのかな? ……えいっ

 やり遂げた。わたしは棺に描かれた魔法陣の上に御札を貼ったのだった。



______。



 「ててて……うわ、壁の中もなんか通路みたいになってたのか〜。まぁじゃなきゃ仕掛ける側が動きようが無いのか……」

 「おい、わたしに対して何か言う事が無いのか?」

 「だってローズに今見つかったらダメってことなんでしょ? なんで姉さんまでここに入ってきたのさ……」

 「んっ……。つい、咄嗟のことで、な。この手はどうにかならないのか……」

 この手、つまり俺の手は左手で姉さんのB級の胸を、右手でお尻を鷲掴みにするようになっていたのだが、姉さんに姉さん諸共突っ込まれた所が想像より狭く(なんとか1人通れるくらいの設計)、状況的に動くに動けずにこうしているわけ。

 「これ以上下手に動かしたら物音たっちゃうよ……」

 それに俺から手を動かすことになれば、それは揉んだと取られてもおかしくない真似になってしまう。それは是が非でも避けたいことだった。

 「まぁ、わたしの失敗だしこの事は咎めないでおこう……。とりあえずローズが少し進んだらわたしがここを出る。お前はその中を通って先へ進んでくれ。ヴィオラが待っているはずだ」

 「う、うん……」

 そうしているうちにローズの姿が見えなくなる。

 「では、また後でな」

 姉さんも出ていってしまった。とりあえず俺も進まないとだ。ここはまあ仕掛け人側の通路だしなんの仕掛けもないし、すぐにヴィオラさんのいる所に回れるはずだ。

 「や、待ってたよ」

 「ど、ども……」

 「したら早速だけど、この棺に入ってもらうわね」

 「はぁ……」

 「ざっくり説明すると、ここでローズちゃんが着替えを済ませたエリーゼと相見える設定で、エリーゼはロースちゃんから御札を受け取り棺の封印を解いて君を呼び出して戦わせようとする。中に入るとわかると思うけど若干外の光が入るでしょ?」

 「えっと……はい分かります」

 「そこにエリーゼが御札を貼れば光が遮られる。その瞬間に君が棺を飛び出てエリーゼを脅かしてやってくれ」

 「ようするに……」

 「『ドッキリ大作戦』とアリスが言っていたぞ」

 やっぱりそういうことか……アリスさん。



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