シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第11話】入校試験③




 「リーヴァ先生……」

 姉さんが緑髪の女性を見つめている。

 「ローラ、そろそろ始めるから。ね?」

 「この人はリーヴァ。魔法士科の担当になるわ。私と同い年でこちらも元同僚。かつて『深緑の女神』なんて言われてたわね」

 「まぁ女神とは言っても、師匠の魔法が戦ってたリーヴァ先生の後ろで炸裂して、後光が差す形になっちゃって産まれた偶然の産物なんだけどね」

 シャンティーさんが情報のフォロー?をしてくれる。

 「ちょっと!無視!?」

 「さぁいってらっしゃい2人とも。みんなを待たせてしまったわね。ローズ、特訓の成果見せつけてやりなさい。それにショーも。くれぐれも今回は無茶しないでね」

 「はい!」

 「大丈夫。俺に出来る範囲で精一杯やってくる」

 「うん、よろしい!ほら、会場はあっちよ」

 母さんが示した方へ、ローズと並んで歩き出す。


______。


 「行っちゃったわね」

 「リーヴァ先生……」

 エリーゼがリーヴァを気遣う。無視されてるのだから当然だろうか。3人にとっては、なんでもない懐かしいやり取りなのかもしれないが。ただ1人は納得しないだろうが。

 「わたしの話って、コレだけ……?」

 リーヴァの嘆きは誰にも届くことが無かった。


______。


 「さ、気を取り直して。シャンティー、わたし達も試験会場に向かうわよ。試験官がいない試験なんて無意味だわ」

 「やや!そうでしたー!!それでは、師匠、エリーゼ、また後ほどお会いしましょう」

 「はーい、またあとでね〜」

 「先生、失礼致します」

 「さて、わたし達も行きましょうか。家族の晴れ舞台だもの。ちゃんと見届けてあげなくっちゃ」

 「……はい!それと……あの、お母様」

 「ん?なにかしら?」

 「また今度、お母様やシャンティー先生達の昔の話を聞かせてください」

 「全然いいわよ〜。でも『昔』なんて程前の事じゃないわよ」

 チクリとローラがエリーゼにクギを指す。

 「申し訳ありません!……お母様や先生方の若かりし頃の話を」

 「エリーゼ……?」

 地雷を踏みにいくエリーゼ。一旦は不発で済んだのに。
 会場へ向かうその後ろ姿に映える、長く伸ばした金髪の先が、少し焦げ付いていた。


______。


 「よし!これより試験を行う。ショー・ヴァッハウは前へ」

 「はい!」

 2人へ最敬礼。さっきの話を聴いていたら怖い人では無さそうなので、変に緊張していない。母さんに感謝、かな?

 「先ず初めに、わたしと剣を用いた模擬戦を行う。魔法の使用は一切許可しない。誤魔化しなしで、純粋なお前の力だけでかかってこい。どちらかが一撃入れたところで終了だ」

 シャンティーさんが前に出てくる。剣を構え、目の前に立っているだけで凄い威圧感だ。場数が違う。

 「分かりました。では……行きます」

 「よし……来い!!」

 「はっ!」

 左手に持った剣で右下から左上への切り上げ。姉さんとの稽古の中で、一番この出だしがしっくり来た。
 振り抜いてガラ空きな胴体が狙われる。のは分かってる。

 「隙だらけだ!」

 「突きかよ!」

 切り上げの勢いのまま身体を捻り、何とか掠める程度に済ます。このままじゃ終われない。

 「シィッ!!」

 回転の最中に剣を右手に持ち替え、左肩目掛けて振り下ろす。前世で傘を振り回してた甲斐があったってもんだ!何本無駄にしたっけかな……

 「なっ!?」

 利き手とは逆方向への攻めは、両手でのガードを余儀なくされますよね、先生!

 「コレで……!!」

 空いている左手で先生を殴るッ!!どこを殴ろう……?公衆の面前で胸に行くのは……。しかし顔は論外だし。あ、小手付けてんじゃん。剣離させたらカッコイイな。俺。

 「残念。悩み過ぎだ」

 「えっ!??」

 疑問が浮かんだところで、視界が90度回る。
 足払いでした。ちょーかっこ悪い。

 「ぶへ!」

 「敵に情は無用だ。特に戦場ではな。その判断の遅れが自分だけでなく、周りに死を招くこともあるんだ。よく覚えておけ」

 「……」

 「わたしが男なら迷わずに殴れただろう?子供のくせに生意気だな」

 俺にだけ聞こえる声で、シャンティーさんは頬を膨らましながら、ちょっと嬉しそうに呟いていた。

 「ほら、立て。休んでる暇はないぞ。そのまま魔法試験に移るからな」

 「ま、マジすか……。よっと」

 そう言って立ち上がる。足払いだけで、文字通り足蹴にされて呆気なく負けたのだから、肉体的に披露はほぼ無い。ちょっとへコんではいるけど……。

 「よし、じゃあ次の担当は私だ。よろしく」

 「はい!よろしくお願いします!」

 シャンティーと入れ替わるように、リーヴァが登壇。なにか言葉を交わしているようだ。さて、こっちでは無様晒さないようにしないと……。


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