俺の隣の席になった転校生は俺の事がお好き? ~白いワンピースが赤に染まる時~

片山樹

俺の隣の席になった転校生は俺の事がお好き? ~白いワンピースが赤に染まる時~

 この話は全てフィクションとして考えてほしい。
というか、そう考えて貰った方が途中で中途せずに最後まで読んでくれるからだ。

しかし、これだけ言わしてくれ。

今から話す話は少しばかり怖い話だ。
幽霊なんかよりも人間のほうが怖いぞって話。

じゃあ、語らせてもらう。

当時の俺は世間一般的には活発な悪ガキみたいな印象がある小学4年生だったが、かなり大人しめの奴だった。まぁ、元々人と関わることが苦手だったということも当てはまるかもしれん。

でも、そんな俺にも普通に友達がいて楽しい日々を送っていたんだ。

だけど、そんなある日俺の日常を壊すことが起きた。

それは梅雨のかなり雨が酷い日だったのを覚えている。

「はぁーい。皆に新しい転校生を紹介しまーす」
30代の女性担任が元気な声で転校生を呼ぶ。
その声に合わせ、こつこつとスリッパの擦れる音がした。

「初めまして、Aです」
(今回はめんどくさいので、彼女の名前をAとしておく。それと俺の名前も俺としておく)

彼女は別段、可愛いとも可愛くもないとも言えずただ普通の女の子だった。
背中につきそうな程、長い髪の毛は子供ということもありとてもさらさらだった。
それに彼女が着ている服はいつも高そうなワンピースとかだったのも今でも覚えている。

Aの簡単な自己紹介が終わり、担任が俺に微笑みながら言った。

「じゃあ、Aちゃんは俺君の隣に座ってね」と。
俺の席は一番後ろの窓側の席でクラスの人数が奇数だったということもあり、俺の隣の席は空席になっていた。

この選択が俺を変えたとも言っていいが、担任を俺は責めることができない。
なぜなら、彼女もAの奇行に気付くことはなかったからだ。

俺の隣の席に座ったAは俺に深くお辞儀をして、挨拶をしてきた。
俺はこの時、何となくだが恋心みたいなものを持っていたのかもしれない。
相手が挨拶したので俺も挨拶をし返すと、彼女は微笑んだ。

 それから一学期の間は特に何も起こることはなく終わり、二学期が始まった頃だった。
席替えをすることになった。元々、Aが転校してくる前日に席替えがあっていたこともあり、残り少ない7月にはしなかった。

先生が作った番号が書かれた紙を取って、次は誰の隣になるだろうと手を合わせて願った。

そして、皆に紙が行き渡り先生が黒板に座席表が書かれたものを張り出す。

それに合わせクラスの奴らが「やったー」とか「はぁー」などの声がしていたが、Aだけは椅子から身体を動かすことは無かった。
先生がAを心配して声を掛けるも返事がない。
そして先生がAを不審に思って、廊下に連れ出した。

 今考えると先生はAがいじめられているのではないか?
と心配に思っていたんだと思う。だから、とっても焦っていた。

そして、10分ぐらいした後、Aと先生が戻ってきた。

それで次はなぜか俺が呼ばれた。

俺が廊下に出ようとすると、友達がAちゃんに何かやったのかよなどと茶化しを入れてきた。
だけど、そんなのを無視して俺は廊下に向かう。

「俺君に頼みがあるんだ」
先生は優しく俺に問いかけた。
俺は適当に相槌を打ったと思う。

「あのね、Aちゃんは俺君のことを好きみたいなの。だからね、頼みがあるんだけど……クラスの皆と仲良くなれるように手伝って欲しいの」
今、考えれば俺じゃなくてクラスの中枢核に頼めばいいものを……と思ったが、A自体が俺意外とあまり仲良くしない奴だったのを先生が分かっていたからかもしれない。

当然、俺は嫌ということは言えず、先生の頼みを聞くことにした。

その結果、俺はまた隣がAになった。

先生が言うには、俺をAの隣に置いて俺の友達を巻き込んでクラスの皆と仲良くする的な作戦だった気がする。

「俺君……また一緒だね」
Aに俺は笑顔を向けられ、嬉しいと思う反面少し変わった奴だなとこの時ぐらいから思い始めていた。

それから、数日後。
体育の授業中に俺はとあることに気付いた。
それはAの身体の至る箇所にあざがあったことだ。
皆はそれを特に気にする様子はなかったようだが、担任だけはそれを見逃すことはなかった。
そして、またまた体育館の端で二人だけで喋っていた。

多分だが、このような会話があったんだと思う。

「ねぇ、Aちゃん。その痣どうしたの?」

「え……転びました」

「そんなはず、ないよね? だって、後ろに痣ができるわけないでしょ?」

その後、すぐに二人は戻ってきたが、先生は困ったような顔をしていた。


それから1週間程、Aが学校に来ることはなかった。
話によると熱だったそうだ。

俺が今日も休みなのかなとか不思議に思っていると、長かった黒い髪を切った彼女が俺の隣の席にいた。
といっても、セミロングになったぐらいでばっさりということはなかったけど。
それでもあんなに美しかった髪が無くなったのは少し勿体ない気持ちだ。
彼女は読んでいた本から、顔を逸らし俺を見てこう言った。

「お、おはよう……」
いつも元気な声ではない彼女だったが、この声だけは元気だった。
それに顔を朱に染めていたような気もする。
勿論、俺も顔が熱くなった。

「お、おはよう。風邪は大丈夫なのか?」
俺がそう訊くと、彼女はうんと頷き何かを訴えるような目で見てきた。
この時の俺は乙女心というものが分からない奴だったのでその目には返事を返すことができなかった。

だけど、今なら分かる。

彼女は俺に『髪とっても似合っているよ』と言われたかったのだろう。

それから、一週間程が経った頃だった。
俺は先生に呼び出されていた。
それもAのことについて。
先生が言うことはAがいじめにあっていないか?
などのことだった。
俺はそれを聞かれ、俺が知っている範囲ではそんなことはないと強く否定しておいた。

すると、先生は言ったんだ。

「そうね……それならもうあれしか……」
先生の表情はとても悲しそうだった。

それからまたAが休むようになった。
俺は隣の空席を見ていると、後ろの友達が俺を茶化してきた。
もう、本当にうざったい。
だけど、そんな茶化しを聞いているとこんな声が聞こえてきたんだ。

「俺の親が言ってたけど、Aって親から虐待受けてるらしいぞ」

そんなことを言った奴に反応して、このクラスの皆がAが虐待を受けていることが伝わった。
俺はそんな根拠も無い噂を信じることは無かったが、体育の時に見た至る箇所に残る痣が説明がつかなかった。

「じゃあー授業始めるよー」
元気な声で教室に入ってきた先生とは裏腹に俺たちの心はどこかで暗かった。
それを察したのか、先生が皆に尋ねるとクラスのお調子者が訊ねた。

「あの、Aって虐待受けているんですか?」と。

先生は一瞬ビクッとなったのが「そんなわけないでしょー。それより早く授業しましょー」と言って場を濁した。
その後も俺達が先生を問いただすも先生は「そんなことありえないわよ」としか言わなかった。

それから数日後、Aが学校にやってきた。
この日のAの格好は白いワンピースでとても可愛かったのを覚えている。
だけど、それとは逆に腕にできた紫の痣はとても目立っていた。

それでも俺達は誰一人として、その痣については何も言わなかった。

その日の放課後は雨がとても酷い日だった。
傘は持ってきておらず、どうしようと困っていると先生が俺の所に来て「ちょっといいかな?」と言われ俺は先生の後ろについて行った。
職員室に着くと先生は適当な席に俺を座らせ、今日のAはどうだった? と訊ねてきた。
俺は特に何もなかったですよと言い、一応先生も気付いているだろうがAの腕にできた痣について教えておいた。
その後、先生から今のクラスの雰囲気などを聞かれ、適当に話しておいた。
数十分先生と話した後、先生は仕事がまだ終わってないらしく、ありがとうと言って、俺との話にピリオドをつけた。

 俺が教室に戻るとやはり俺の友達などはいなかった。あるのは、俺のランドセルがあるだけだ。
俺はランドセルを背中にからい、下駄箱に向かった。
外はまだ雨が止んでおらず、傘を持ってきていない俺は帰るかどうか迷っていた。
もしかしたらこれからずっと雨が止むこともないだろうと察した俺は急いで外に出た時だった。

俺は驚愕的な瞬間を見てしまった。

 それはAが飼育小屋の生き物を殺している姿だ。
Aの白かったワンピースは赤く染まっている。

生き物と言えど、学校単位で育てている鶏だ。
その鶏が鳴いているが、その叫びは雨で全く聞こえなかった。

Aが手に持っているのは、カッターナイフのようだ。
そのカッターナイフが鶏にグサリと突き刺さり、血が溢れ出る。
俺は突然の出来事に驚き、地面に突っ伏した。

俺が地面に突っ伏した音に気付いたAがこちらを見て、にこっと笑顔を向けてきた。
その彼女の笑顔はとてもとても邪悪な笑みだ。

彼女がゆっくりゆっくりと、飼育小屋から出てきて俺の方に歩みよってくる。
俺は彼女の存在が怖くなり、逃げようとした。しかし、あまりの恐怖に地面から身体を起き上がらせることはできない。

「ねぇ、今見てたよね?」
彼女が俺に訊いた。

俺はあまりにも怖かったが、「うん」と言った。

すると、彼女はさっきの笑みよりも酷く邪悪な笑みを零しながら
「じゃあ、俺君も仕方ないけどしつけが必要だね」
と言って俺にカッターナイフを振り上げた。

 俺は危機一髪でどうにかランドセルを盾にして、身体を守ることができた。
本当にこの時程、ランドセルの有難さに気付いたことは無い。

「あぁーもうダメだね。俺君は……」
彼女がぼそりと呟いた。
俺の神経は研ぎ澄まされ、彼女の声が雨が降っているのにはっきりと聞こえた。

「な、何がだよ?」

「うーん。ひ・み・つだよ。今日はこれだけでいいけど。明日からは」

「容赦しないから」

彼女はそう言うと、俺を置いてぐちゃぐちゃと濡れた地面を歩み始めた。

 その日の翌日。
俺はAの事が怖くなって学校に行くことは無かった。
カッターナイフを持った奴が隣の席にいた。
もしかしたら、何時刺されてもおかしくない。そう思うと思うほどに彼女への恐怖心が込み上げた。
俺は母親には腹が痛いと嘘をついた。
皆が勉強をしていた朝は漫画を読んだり小説を読んだりとしていた。
でも昼飯を食べた後は母親に漫画や小説を奪われ、することがなく暇だった。


 俺はいつの間にかに寝てしまっていたらしく、目が覚めると夕方になっていた。 
自分の部屋のカーテンが開いていたので母親が俺の部屋に来たのだろう。
俺は自分の部屋を出て、リビングに向かうと母親が居て今日の晩飯などを聞いた。
俺は適当にお菓子を持ち出し、自分の部屋に戻った。

 それからしばらくすると、突然ピンポーンと音が鳴った。
俺の家に来客が来るというのはとても珍しかったので俺はどきどきしていた。
母親が誰かと喋っている声が聞こえ、誰が来たのだろうと不思議に思っているとその声が少しずつ近づいてくる。

トントンとノックをされ、俺が返事をすると母親と共に一人の女の子がいた。

そう、Aである。

俺は母親がいるので少し安心していたこともあり、「よう。A」と言う感じで喋りかけた。
相変わらず高そうな服を着ているAは俺に「俺君。無事でよかったわ」と俺が戦地に行った兵士に言うかのごとくの心配そうな声色だった。

母親は俺とAの事を勘違いしているらしく、Aの後ろから俺を覗きにやにやとして「後は、お若い二人でー」と言った感じで俺の部屋を出ていった。

俺はどうにか母親に残っていてくれと言おうとしたが、Aが俺の腕をつまんできたので俺は何も言えなかった。

母親が居なくなってからの俺の部屋ではずっとAの今日学校であった話を聞かされた。
勿論、飼育小屋の鶏が殺された話もあった。

そんな今日起きた話を一通り話した後、彼女は言った。

「今日は俺君が居なくて、寂しかったのよ」と。

俺は適当に頷き、彼女が早く帰って欲しいなと願いつつ彼女が鶏を殺したことを先生に言ってやろうと誓っていた。

「あ、そうだわ。お仕置きが必要だった」
彼女はそう言って、ランドセルからカッターナイフを取り出した。
俺はあまりに怖くなり、彼女を張り倒した。
まさしく、これは正当防衛だ。
しかし、Aが悲鳴を上げるとすぐに母親がやってきた。

そして、母親は俺に言うんだ。

「あんた……Aちゃんに何やってんの!」と怒り口調で。

母親は俺にビンタを食らわせ、Aに何回も謝っていた。
俺も何故かAに謝らなければならなくなり、頭を下げた。
釈然としないまま心のもやもやが消えることはなく、Aが帰ることになった。
母親が時間も時間だからということでAの家まで送るみたいだった。

俺はぶっきらぼうに「じゃあな」と皮肉気味に言うと彼女は「じゃあね」と笑顔で返すのであった。

 晩飯はまだかと思っていると、母親が帰ってきて俺に言った。

「Aちゃんって、とってもお金持ちみたいね。家も大きいし。言動も大人っぽいし」と。

俺はそれを聞いて納得した。彼女を最初見た時から、俺達一般人とは違うと思ったからだ。

「それに色々と聞いたわよ。俺、意外とやるじゃない。
Aちゃんを助けたんだって?」

Aを助けた?
全く意味が分からなかったが、晩飯を早く食べたいと思った俺は適当に頷いておいた。

 Aが俺の家に来た翌日。俺は学校へと足を運ばせていた。まぁ、学生だから当たり前だ。
俺は教室に入る前に一昨日起きたAの奇行を先生に教えるため職員室に向かったが、先生が居なかったので俺は先生を待つことにした。

しかし、先生は一向に現れない。

「俺君……何やってるの?」

後ろから声をかけられ、振り向くとAがいた。

俺はどうしようと思い、悩んだ挙句「先生に用があるんだ」と言った。

そしたら、Aは「そう……」と他人事みたいに言って教室へと戻って行った。

 Aと入れ替わりみたいにやってきた先生に俺は一昨日の事を話した。

先生は凄く困惑した顔で「わかった」とだけ言い残し、職員室に入って行った。

俺はこれでどうにかAの恐怖から逃げれるだろうと思い、教室に行くとAがにっこりと笑いかけてきた。

俺はそんなことを無視して、自分の席に座る。

 朝のチャイムが鳴っても先生は現れなかった。
先生が全く来ないということに違和感を感じた俺達もざわざわと騒ぎ始めた。
その音に反応するかのように隣のクラスも騒がしくなる。
横を見てみると、ふふふとAが笑みを俺に見せてきた。
俺はぷいっと視線を動かした。
その動作と同時に俺の背中に何か鋭いものが当たった。
時期はまだ9月の半ばだった為、薄手の長袖シャツを着ていたが冷やりと鋭い物が当たり、背筋が凍る。
背中から何か液体みたいなものが流れ、俺がそれを血と理解するまで時間はあまりかからなかった。

「ねぇ、俺君。場所を移動しましょうか?」
後ろからぼそりと呟かれ、俺は彼女の言うことを素直に聞き入れ教室を出た。
その姿を見ていた皆が「どこいくの?」と訊かれ、Aは「俺君が具合が悪いらしいの」と言って誤魔化していた。彼女は頭が良かったらしく、皆の前では俺に鋭い物を当てることは無かった。
その間に俺が逃げ出そうとすれば、逃げることができたかもしれないが俺は逃げなかった。
多分だけど、逃げたら逃げたで酷い仕打ちに遭うと判断したのだろう。

彼女に誘導されるがままに着いた場所は四階の空き教室だった。
この教室は普段使われることは無かったが、手入れがされていた。
多分だが、先生達が掃除でもしているのだろう。

「ねぇ、俺君。質問ね、貴方は先生とどんなことを話したの?」

「俺は……」
この先を言ったらどうなるだろう。
怖い。怖い。俺はそう思い、彼女に嘘を吐くことにした。

「あぁ、最近。ちょっと勉強がわからなくてさ。てへへ」
俺がへらへらと笑いながらそう言うと、背中がチクッした。

俺が怖くなって後ろを振り向くと、そこには血がぽたぽたと落ちる彫刻刀を両手で握ったAの姿があった。Aはふふふふふふ、と変な笑い声を上げ、俺に近づいてくる。
自分の背中を手で触ってみると、べったりと血が付いた。
俺はあまりの血の量に驚いたが、それよりも真っ正面から向かってくるAをどうにかしなければと考え、彼女と戦うことを決意し、Aに向かって駆けた。


後日談。
 決着はすぐに着いた。俺の勝ちだ。
しかし、残念なことに腕に深い傷ができてしまったが。
俺はAに猛突進を食らわせ、彼女から彫刻刀を奪うことができた。
彫刻刀を奪った後の彼女は無抵抗になった。
多分だが、彼女は武器が無い自分は無力であるということが分かっていたのだろう。

俺がAに「先生に謝りに行こう」と言うと、彼女は小首を動かした。

 教室に戻ると先生が居て、俺は病院へAは校長室に行くことになった。

それから俺とAは会ったことは無い。
なぜなら、Aが転校したからである。
俺の方はというと、そんなに背中の傷は酷く無く、成長するに連れ、傷は目立つことは無い。
でも彼女に突進した時にできた腕の傷は未だ癒えることはできず、名誉の負傷と言った感じで残っている。

 最後にていうか、この話のピリオドを打つ為に。
ここから話す話は俺が聞いた話であり、信憑性の欠片も無い様な話だ。
『噂』程度で思って頂けたら嬉しい。

Aはやはりというか、親から虐待を受けていたらしい。
あまり詳しくは分からないが家庭内暴力があったとか。

家庭内暴力を受けていた子供は生き物に危害を与えると、どこかの心理カウンセラーが言っていた気がする。多分、彼女もそうやって、自分のストレスを発散していたのだろう。

 今更ながら、俺がいつも思うことは
『彼女を救えたのは俺だけだったのでないか?』と思うことだ。

もしかしたら、彼女は俺にSOSを求めていたのではないかと。

だけど、そんなものはただの終わった話であり、もう今ではどうしようも無い話である。

 最後に一言。
虐待などのニュースを見て、心が張り裂けそうな程に胸が痛い。
俺はもう、第二の『A』という存在を作らないようにしたい。
だから、この物語を最後まで読んでくれた方には是非、虐待というものが未来がある子供達の将来を奪うということを分かって欲しい。

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